053 精霊の問い
精霊メシアの出生の秘密から始まった話は、かなり長時間に及んだ。
それを聞くハシミは彼女がもっと話したくなるようにという配慮か、絶妙な相槌や合いの手というのか……。いやはや神官というのは、人の悩みを聞くのも仕事のうちなのだろうが、やはり本職は上手なものだと驚きの混ざる納得感を味わった。
しかし語られる内容はあまりにも荒唐無稽で、語っている相手が精霊でなければ到底信じられるものではない。いえ、相手が精霊であっても「魔族を創った話」とか「魔王と勇者を創った話」とか……、さすがに脚色されたものとしか思えなかった。でなければそれは……。
「まさに神がこの世界を作り上げた話ですな」
「ふーん、神ねぇ……」
そうだ、まさに神話の話。それもこの世界に魔物や魔族が現れる前の話なんて、どんな嘘を並べられていたとしても誰も調べる事などできないだろう。
もしくは司書班のアスカなら、その当時の記録さえ残っていれば解析できるやもしれないが……。
「あなたはどう思う?」
「へっ!?」
突然精霊メシアは私に微笑みかけ、問いを投げかけてきた。
話に夢中で私の事なんて視界にも頭の片隅にも残っていないと思っていたものだから、間の抜けた返事になり、少し恥ずかしい。
「あなたは神様って居ると思う?」
「それって、つまり今までの話を信じられるかどうかっていう事ですか?」
「あら? 私は嘘なんてついてないわよ?
でも私が聞きたいのは、神様がいるかどうかって話」
質問の意図が分からない。今までの話が本当ならば神という存在が居る事になるのでは……。
いやしかし、考えてもみれば私の幻術士という能力も、太古の昔では一般的な存在であったとアスカから説明されていたし、もしかするとメシアの話に出てくる人物もまた、そういった遠い過去に存在していた第魔導士とか、そういったものなのだろうか。
そういう意味でなら、その人物を神と呼ぶにふさわしいかどうか、彼女の質問はただそれだけの意図になる。
「精霊が存在するのだから、神様も存在したっておかしくないとは思います。
けれど教会が信仰するような……、信じれば無条件に救ってくれるなんて、そういう都合のいい神様というのは居ないと思ってます」
「それはどうして?」
精霊メシアは静かに問いかける。その問いに、私は本心を隠し答えをはぶらかす事はできなかった。
それは今までに二度、大切な人を奪われたから。誰のせいでもなく、ただそういう運命だったと諦めるしかない事が目の前で繰り返されたから。けれどそれを事細かく言葉にできようか……。
私の想いはただ一言に集約された。
「……私が神様だったら、こんな世界は作らなかったもの」
「ふふっ、ここに元神官が居るのに正直ね」
「あっ、ごめんなさい」
「いえ、考え方は人それぞれですからな」
元神官ハシミは、責めるでもなく、かといって肯定するでもない答えを口にする。
それは理解しあう事だけが全てではないといった達観したような考えと共に、教会に対する不信感を内包した想いの魔力を発していた。きっと彼もまた、神官を辞めたのには事情があったのだろう。
「けれど私も同じ考えよ。お父様は膨大な魔力を持っているし、やろうと思えばこの世界を全て“なかったこと”にして、新しく作り変える事だってできるでしょうね。
けれどそれをやらないし、かといって誰もが幸福な世界なんて実現できない事も分かってる。そして何より、いつだって『自身の行いが本当に正しかったのか』と悩むような方よ」
「どうしてそんなすごい方が、悩んだりするんですか? 悩みも力があれば解決できると思うのですが」
「そうね、きっとこの世界が好きなのよ。だから根幹からひっくり返すような事はしない。
それにすべてを好き勝手できたなら、これほどつまらないものはないでしょう?」
彼女はそう言って微笑みかけてくるが、私には理解できなかった。自身の無力さを嘆くばかりだった私には、そんな状況想像すらできないのだ。ただただ力を持つ者の身勝手な言い分にしか聞こえなかった。
「うん、よくわからないって顔してるわね。分からなくてもいいし、私もお父様の事全て分かってるわけじゃないもの、それでいいのよ。
でもね、一つ覚えておいて欲しいの。なんでもできるからって、何をしてもいいわけじゃないの」
すっと私の目を見て語り掛ける。それは今までの言葉とは何か違うと、言葉以上に目で語っていた。
「膨大な魔力を持っていれば大抵の事はできてしまうわ。けれど引き起こされた結末もまた、引き起こした本人が負う事になるの」
「それって……」
私が問い返そうとすれば、精霊は再び一人の女性メシアへと戻り、ニコリとしながら自身の唇の上に人差し指を当てた。それはこれ以上は秘密という合図、そして私の考えている事と、彼女の考えている事が一致しているという合図。
「さて、長話が過ぎたわね。そろそろお開きにしましょうか」
「ありがとうございました。これでまた、この世界の過去がひとつ明らかになりましたな」
「ふふっ、その程度の話なら魔導士ギルドの蔵書にあると思うわよ?
あっ、話ついでにノッテちゃんの事も話しておきましょうか」
「えっ!?」
「ノッテちゃんがなぜこの森に入って来たかっていうとね……」
「ちょっと待って下さいっ!」
魔導士ギルド、そしてその後私の話など、私がハシミ達をはぐらかした内容である事に違いない。
なにより彼女は、風の噂という形でこの世界の全てを知っているのだから。
「森の反対側の村に住んでたのよ」
「……え?」
「それでね、その村が魔物に襲われて幼い妹と命からがら逃げこんできたってわけなの。
だから頼れる人がいないの。ハシミ、二人を頼んだわよ?」
「さようでございましたか。かしこまりました、メシア様に代わりお助けいたします」
「あ、あのっ……」
「ごめんなさいね、ホントは自分で言うべきだって思ってたのよね。
でもハシミの事は私が話しちゃったし、これでおあいこって事にしてもらえるかしら?」
「いえ、ありがとうございます」
精霊メシアの言葉は嘘ばかりだ。私が本当は魔導士ギルドから逃げてきた事も、そして妹という事になっているマティナ……、いえその名前さえも偽名だ。それら全てを知った上で、私が恩人たちに自発的に嘘をつかなくていいようにしてくれたのだ。
「あ、それで思い出したんだけど、返さないといけないものがあったわね」
「返さないといけないもの?」
言葉と共に彼女は何かを持ち上げるように、両手を空中に差し出した。するとそこへ光が集まり、白い布がどこからともなくその手へと納まる。その布に私は見覚えがあった。
次回更新は5/5(火)の予定です。
以下雑記
いつもは2日おきなんですけど、1コマ休憩を頂きたいと思います。
色々事情が……ないんですけどね。ちょっと疲れが溜まってきてますね。
意外と一定ペースで投稿するって疲れるね。まぁ前の長編の時とあんまり変わらないんですけど。
そういや前って「週一で」と言いつつ3回更新してたりで、今と同じくらい書いてましたね。
なつかしさある。一年前の事なのにね。
さて、細かすぎて気づかれてないパターンだと思うんですけど、ここで言っちゃうぜ。
実は主人公は偽名こそ自分で名乗ったけど、本人の口からは妹だと言ってません。
誰が気づくんだよこんな事。そういう事気にするんだったら続きはよ書け。
そういった声が聞こえてきそうですけど無視します!俺は細かいトコが気になるんじゃー!!




