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042 旅の終わり、逃亡の始まり【5】

 手紙の内容に、ロベイアの部屋は水を打ったように静まり返る。

それは橋の向こうは極楽などではなかった、そして魔道士ギルドは誠実な組織ではなかった事を知った者達の反応だ。


「……お待ちになって。少し混乱していますわ……。

 ええとまず最初の、ナガノ様やミユキ様は異世界人だったというのは……」

「本当よ」

「知っていらしたのですか」

「えぇ。ロベイアには悪いとは思っていたけど、あれでも隠していたようだから……」

「それは……、仕方ありませんわ。誰しも隠し事くらいありますもの。

 それでここ最近姿を見なかった理由が、元の世界に帰るための術を展開していたからというのは……」

「それは私も初めて聞いたわ」


 極秘裏に、誰にも知られる事なくその計画は進められていたらしい。

だからナガノさんとミユキさんは私と会わないようにしていたのだ。

私と会い、そしてその事を考えてしまったなら、私は思考を読み取ってしまえるのだから。


 しかしミユキさんの場合は、魔力が出ていないため読み取ることは不可能だ。

けれど彼女の性格から、表情や態度に出てしまうから避けられていたのだろう。


「それで……、その術が失敗したというのは?

 いえ、魔術の実験が失敗する事はよくある事ですわ。

 でも、失敗しただけでしたら隠そうとする必要はありませんわよね?」

「は……、はい。続き……あるんですが……」


 元々小さなノアの声はさらに小さくなってゆく。そしてちらりと横目で私を見るのだ。

その表情と発せられる魔力から、その先に紡がれる言葉は知っている。けれど認めたくない私は、彼に残酷な伝言を告げるよう促した。


「……続き、お願いするわ」

「……はい。……術に関わった方は、……消滅……しました……」

「消滅!? どういう事ですの!?」

「ひっ……」


 がばっと立ち上がり、ノアの肩を掴み説明を求めるロベイア。その剣幕に彼は完全にひるみガタガタと体を震わせている。けれどそれを止めに入るほどの心の余裕は私にはなかった。

消滅……。その言葉の意味する所を私は読み取ってしまっていたのだから。


「消滅ってなんですの!? 異世界に帰ったから姿を消したという事なら、消滅とは言いませんわよね!?」

「あっ……、あのっ……、その……」


 私は手紙を奪い取り魔力を探る。書き手の魔力を直接読み取り、そして彼女の見た真実を探ろうとしたのだ。けれど紙は低品質のB級紙。紙自体の魔力が混ざり合い、アスカの魔力、そして現場の様子の記憶は読み取ることが出来なかった。


「……続き、まだあるなら読んでください」


 ロベイアを静止し、ノアに手紙を渡す。

彼は涙目になりながらも、私の要望に応えようと過呼吸気味の息を整え、そして手紙に視線を落とした。


「術は……、異世界に繋がるもの……ではなかった……、そうです」


 ぽつぽつと紡がれる言葉は、魔道士ギルドの闇を浮き彫りにする。

使われた術、それはこちらと彼らの世界を結ぶためのものではない。古代の秘術、生贄を捧げ、その者たちの魔力を一点に集結させる禁術であった。


 異世界人には特別な力がある。その力を集約させたなら、神をも超える者を作り出せる。

そして作り出した神を操り、世界を支配する……。それが魔道士ギルド執行部の目的だった。


「騙して術に参加させたって事ですの!?」


 声を上げたのはロベイアだった。それに怯えながらコクコクと頷くノア。

二人の魔力の流れは怒りと怯え。それが向く先は、魔道士ギルドの中枢だった。


 彼女は行われた非道に憤りながらも、それ以上に今まで信じていたギルドの裏切りに落胆していた。

そこには自身もそのような行いに、知らず知らず加担させられていたのではないかという、自責の念も含まれている。


「それで、参加させられた人っていうのは」

「めっ……、名簿から、書き出してあります……」


 言葉を紡ぎ終え、彼はカバンから新たな紙とペンを取り出し記してゆく。

その紙は魔力を放たない事から、完全に魔力を除去した無力紙なのだろう。


「アスカ班長に……、書き出してお渡しするようにと……、言われてますので……」


 説明を求めるまでもなくそう言いながら筆を走らせる彼の字は、無機質なまでに角ばったものだった。

なぜなら、彼の書き記している文字は漢字である。異世界人の使う文字であり、そして異世界人の名に使われる文字。普通に生活している分には目にする機会のない字である。

それをゆっくりと丁寧に書くが、字には現れないものの彼の手は少し震えている。


 そして一通り書き終え、そこにルビをふる。

私には見覚えがあった字、けれど認めたくなかった。そしてそれを赤い表紙の紙の束を確認する事さえ、怖くてできなかったのだ。そんな私の想いをよそに、()()()()()()()をしてゆくのだ。


 読めない文字の上には『ハシモト ミズキ』と記された。


「そんな……」


 それ以外の言葉はでなかった。

本当はそうじゃないかと予見していたのに、それでも他の言葉が出てくる事は無かった。


 彼が私を拒絶した理由、それは近々元の世界へ帰る見込みがあるからだった。

だから私が傷つかないよう、私が彼を嫌いになれるよう突き放したのだ。騙されているとも知らずに。

そして彼は、魔導士ギルドの暗部に飲まれたのだ。


「……これは間違いなく事実なんですのね?」

「は……はい」

「アスカ様の勘違いや、調査ミスの可能性はありませんの?

 こんな事件は普通もみ消そうとするはずですわよね?」

「その……、アスカ班長は……、えっと……」

「いえ、怒ってはいませんの。けれどこの情報の真偽は見極めなければなりませんわ」

「秘匿事項で……、僕も知りませんが……、アスカ班長は、えっと……。

 特殊な能力で……、調べた……、そうです……」

「ではそれがどのような能力か分かりませんわね。

 この事も話半分に聞いていた方がよろしいですわ」


 うつむき肩を震わせる私の手をそっと取り、ロベイアは告げる。

けれどその秘匿事項を知っている私は、アスカの調査が間違っていない事も知っていた。


 なぜなら彼女の隠された能力とは、あらゆる書物の書かれた内容を読み取る事であり、そしてその書物を書いた時点での、書き手の想いや記憶を読み取るものであるからだ。

それは私が相手の魔力を()ることで、その時の相手の想いや記憶を読み取る事と酷似している。

だからこそ彼女自身が嘘を書いていない限り、ここに記された事が勘違いや調査ミスというのはありえない。


「いえ、これは……。おそらく事実よ……」

「……例えすべて事実であったとしても、時に目を背ける時間も必要ですわ」


 彼女は本当に疑っていたわけではない。私に逃げ道を作ってくれていたのだ。

そっと私を抱き寄せ、ゆっくりと頭を撫でてくれる。この時はその優しさにただ甘え、静かに涙を流した。


「ノア様、お願いがあるのですがよろしいかしら?」

「は……、はい……」

「体調がよろしくないので、看病のためにしばらく二人でこの部屋を使うと伝えていただけるかしら?

 それと、また明日いらしてくださいまし。少し落ち着いた後、もう一度詳しく聞かせていただきますわ」

「わ……、わかりました……」


 彼はその言葉を聞くと名前を記した紙だけを残し、その他をカバンに詰め部屋を去る。

残された静かな部屋、私はずっとロベイアに抱き寄せられたままだった。

次回更新は4/11(土)の予定です。



以下雑記



もう少し、もう少しで回想の回想が終わります……。

いやホント伸びたな!?どうしてこうなった!?

そして文字数はそれなりにあるのに、中身が薄まるぅ!!

ノア君!文字数稼ぎはいいからもうちょっとテンポよく喋って!!

はい、次回にはもう少しスピードアップするかと思います。

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