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040 旅の終わり、逃亡の始まり【3】

 声のする方に振り向けば、そこには見知った顔があった。


「アスカ班長、どうしてこちらに?」

「えっ? 班長?」

「あ、私司書班の班長になったのよ。何かあったようだから、上層部の人に話を聞きに行く所よ。

 あなたたちはどうしてここに? 通行許可はないはずよね?」

「ええと、私達も何があったのか知りたくて調べてたんですけど、ギルド内ではなかったようなので、この先くらいしか原因がなさそうなんです」

「それで勝手に入ろうとしてたって事ね。まったく、警備の人は何をしているのかしら。

 さっ、あとは私の仕事。また問題が起こるかもしれないから、二人は寮に帰りなさい」

「えっ……でも……」

「ロベイア、帰りましょう」

「良いんですの?」

「アスカ先生……。いえ、アスカ班長ならこの先に何かがあっても大丈夫でしょう。司書班の班長に任命されるくらいなんですから。もし何か分かったら教えていただけますか?」

「えぇ。報告書作りに追われる事になると思うから、班員をそちらに送る事になるでしょうけどね」

「ありがとうございます」


 私はアスカ班長に一礼し、ロベイアと共に寮へと向かう。

ギルド建物入り口の石造りのアーチをくぐり廊下へと入った後、角を曲がるとロベイアに壁に押し付ける形で、肩を両手で抑えられた。


「なぜすぐ引いたのです? 何かありますわよね?」

「……ロベイア、顔が近い。あと顔が恐い」

「理由、お聞かせ願えますわね?」

「わかってるわよ。私の部屋に行きましょう」


 言うが早いか行動が早いか、ロベイアは私の手を引き早歩きで寮のある区画を目指す。

その動きに合わせるように、光球魔法が照らす薄明かりの中、彼女の金の髪が揺れる。そしてそのふわふわとした流れも、少し甘さを感じさせるさわやかな香りを放っていた。


「で、何に気付きましたの?」


 部屋に入り鍵をかけ、何層にも念入りに防音結界を張る。

一連の動きはこれから告げられるであろう事が、重要機密を含む事を予見した動きだった。


「アスカ先生の魔力の流れを読んだのよ。詳細はわからないけど、どうもあの先で何をしているか知っているようだったわ」

「なんでそんな事が分かりますの?」

「……魔法を使う時、魔力でイメージを空間に描くでしょ?」

「えぇ、わたくしでしたら雷撃の道筋ですわね」

「それは強い想いだと魔法以外でも描かれる事があるの。

 もちろん魔法と違って薄く、そして無意識のものだけどね」

「つまりそのイメージが何かを示していたと?」

「えぇ。12の道筋。何か……いえ、誰かを心配している魔力の流れに近かったわね。

 旅していた時に見た、冒険者を送り出す家族の想いの魔力に似ていたもの」


 けして嘘ではない。けれどある程度の誤魔化しを交えた説明だ。

 ロベイアには私の能力の全容を知られるのは避けたかった。今までの信頼は、私がロベイアから見て「出来た人」であるという前提に積み上げたものだ。幻術士の原動力は信頼。彼女が「私ならうまくやってくれる」と思うほどに、彼女の魔力を私は()()()事ができる。

だからこそ「考えている事すら読める」などという、忌避感を持たれる事実は告げてはならない。


「では、あの先で何かがあった事は確定ですのね」

「えぇ。そして私はアスカ班長が嘘をついているなら、おそらく魔力の流れで気づくことができるわ。

 だから今度会った時、詳しく話を聞いて嘘と本当を見抜ければ何があったかわかるはずよ」

「さながら嘘発見器ですわね」

「魔道具の嘘発見器とは仕組みから違うから、精度には期待しないで」


 苦笑いするロベイアにそれとなく「完璧ではない」事を伝える。でないと私に対して怖がる可能性もあったから。……友人なのに、私はずるい生き方をしている。そんな風に内心自嘲した。


「わかりましたわ。では、今日の所は部屋に戻ります。

 明日また訓練の後にアスカ様の所へ参りましょう」

「えぇ、そうね。鍵を渡しておくわ。何かあれば来てくれてかまわないから」

「あらありがとう。けれどまたあの魔力が来たら困りますわね……。

 この部屋にも結界の下準備しておきますわ。万一の時は起動してくださいまし」

「ありがとう。助かるわ」


 そうしてロベイアは結界の魔法陣を描き、私の持つ魔道具に起動用の魔力を注ぐ。それは旅の途中で手に入れた桜の花を模したブローチ型の魔道具。

この魔道具は魔力を蓄えられ、その魔力を使う事で私は魔法を使う事ができる。共に旅したミズキは、その効果を聞いて「充電池みたいだな」と言っていたのを覚えている。


 しかし蓄えられる量にも限界があり、こうして誰かに補充してもらわないと使えない事から万能ではない。それでも私は魔力を持たないのだから十分有用だし、今回に限って言えば魔法陣自体に魔力が込められているため、結界を起動するにも問題はない。


「それでは、おやすみなさいまし」

「おやすみロベイア。良い夢を」


 短く言葉を交わし、ロベイアは自室へ戻ってゆく。一人きりの静かな部屋。

やはり気になって眠れず、木製の窓を少し開け空を見上げる。こんな時でもいつもと変わらず星々は私を見下ろしていた。






 そして朝、いつも通り朝食を食べようと寮の食堂へ向かえば、そこで連絡を受ける。本日より一週間、外出禁止との事だ。行動は寮の中に限られ、業務も全て止めるという、前代未聞の処置だ。

 寮には食堂も浴場もあり、それらは利用可能という事で生活する分には困らない。けれど談話室も閉鎖し、できる限り自室で過ごすようにとの通達だ。


 私もロベイアも突然の事に驚き、顔を見合わせる。

昨日の件は、それほどまでに重大な“何か“が起きた事らしい。それは言葉を交わすまでもなく二人ともが認識した事だった。


「この後あなたの部屋に行くわ」


 誰かに聞かれないよう小声でロベイアに伝え、私たちは何食わぬ顔で朝食を終えた。


 そしてロベイアの部屋。そこは額に入った押花が飾られたり、香油の瓶に細い棒の刺さったアロマが置かれたりと、可愛らしいとは少し違うお洒落な雰囲気だった。同じ間取りだというのに、私の無機質な部屋とは大違いだ。

 椅子にかけるよう促され話を始めるも、二人ともなにを話せばいいのか分からずにいた。


「手掛かりなし、けれどかなり重大な事であったのは確かよね」

「ええ、まさか外出禁止になるなんて思いもしませんでしたわ」

「いくら司書班とはいえ、アスカさんも何も掴めずにいる可能性は高いわね」

「うーん……。けれど司書班は本を扱うだけでなく、ギルドの名簿や会議の議事録、研究ノートの作成、そして事故の記録なども扱う場所ですわ。

 そのトップであるアスカ様なら何か知っているのは不思議ではないかと思いますの」

「普通の事故ならね……。記録を残されると困るものだったら、司書班を入れない事で揉み消すんじゃないかしら?」

「なるほど……。その可能性は高いですわね」


 ギルドの普通に慣れたロベイアは、事故のもみ消しを想定してなかったようだ。いえ、世間を知らずギルドの中で生きていたからこそ、上層部が使いやすいように知らず知らずそのような考えを持つよう誘導されているのかもしれない。


 ……少し訝しみすぎか? そんな風に考えていれば、小さな、ほんの小さな力で、遠慮気味に扉をノックする音が聞こえた。


「まさか見回り? ……隠れていてくださいまし」

「いえ、大丈夫よ」


 私は部屋の主に代わり扉を開け客人を迎え入れる。

その先に居る人物は、姿を見る前から誰だか分かっていた。こんなに弱々しく、そしてノックと同じ遠慮がちな魔力は、他に思い当たる人物が居ないからだ。

次回更新は4/7(火)の予定です。



以下雑記



このあたりの話って3話程度で終わると思ってたんですがねぇ……。

現状三倍ほどに膨らんでおります。パン生地かな??

しかし二章と三章を繋ぐ部分でもあるし、仕方ないよね。うん。

そういう事にしておこう。

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