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038 旅の終わり、逃亡の始まり【1】

 それは二年におよぶ“医神アスクを探す旅”から戻り、しばらくした日の事だった。

旅の成果はなく、結局発見には至らなかったが、私達になんらかの罰があるわけでもなく、私は実戦部隊にただ戻されただけだった。


 私とロベイアはいつも通り訓練を終え、身を清めた後ギルドの談話室で休憩を取っている。最近はなぜかナガノさんもミユキさんも見かける事が少ない。

ミユキさんには借りたカバンを返したいと思っていたのだが、まるで避けられているかのように捕まえる事ができなかったのだ。だが、彼女は魔力を発していないから見つけにくいだけだとその時は思っていた……。


 そんなわけで、私とロベイアは二人きりで行動することが多かった。もちろん実戦部隊には他にも何人か所属しているのだが、べつにうまくやれていないわけではない。けれど他の人たちは、危険が伴う任務も多いためか男性ばかりで、歳も離れた人達なので業務外では双方あまり積極的に関わろうとはしなかかった。


 それに二年もあったのだ、ロベイアが毎日毎日色々な話を聞きたいと思うのも仕方のない事だ。

けれど私は、数日前にうっかり口を滑らせてしまっていて、彼女はその続きが聞きたいようである。

気乗りしないが、今さら誤魔化す事も難しく渋々聞かれるがままに応えていた。


「はぁ!? なんですのそれ!?」


 聞かれたままに答えれば、耳鳴りがしばらく残るほどの声で反応される。けれど談話室には他に人の姿はなかったし、防音結界も張られているため誰かに内容を聞かれる事もないだろう。

そして彼女は、私に対して怒っている訳ではない。怒りの矛先は、共に旅したミズキに向かっていた。


「先日お聞きした話ですと、一緒に旅してて“なんかいい感じの雰囲気”になってたはずですわよね!?

 それがなんですの!? 『住む世界が違う』ですって!? ふざけんじゃないですわ!!」


 つまりそういう事だ。男女二人で旅をしたのだ、何もないはずもなく……。いえ、彼は立場をわきまえていたようで、やましい意味で何かあった訳ではない。それに万一があったとして、私が抵抗もできずになされるがままのはずもない。

ともかくさまざまな困難を共に乗り越え、結果として医神アスクは探し出せなかったもののこうして無事帰還できたのだ、意識するなというのが無理な話だろう。


 旅をする前はまさかこんな風になるなんて思ってもいなかったし、過去と向き合う覚悟ができたとは言え、二度と誰かを好きになるなんて思ってもなかったので、私自身驚いている。

けれど好きになってしまったのだ。だから言えなくなる前に言いたかった。言いたい事があったのに、言えなくなってしまったことがあったから。


 けれど彼の中に、私と共に歩む未来はなかった。


「大体何様のつもりですの!? 住む世界が違う? それはこっちのセリフですわっ!

 こちとら貴族ですわよ!? 逆玉の輿もいいとこでしてよ!?

 ちょっと魔術師として優秀だからって、調子に乗ってんじゃないですわ!!」


 今にも火を噴きそうなほどに真っ赤な顔をして怒るロベイアの様子は、嬉々として防音結界を張っていた時とは大違いだ。刺さるほどに刺々しい怒りを含んだ魔力は、今にも電撃という実体を持ちそうになっている。そこには私に対しての同情などという感情は一切含んでいない。なぜなら彼女にとって、彼が私を選ばない理由など一つもないからだ。


 彼女の目に私は、貴族としても魔導士としても申し分なく、人間性も相手に気配りできる人物に映っている。それらは私にとってどれも生まれ持ったものだ。たまたま貴族の家に生まれただけだし、魔導士しても障害はあったし訓練もしてきたが、やはり元々の素質の問題が大きい。

 そして気配りできるといっても、それもまた相手の考えが魔力の流れと共に読めるから対応できているだけであって、特別何かしているわけではない。他の人と同じで、できる事をやっているだけに過ぎないのだ。


 けれど私の能力については隠している事も多いので、知らなければよくできた人だと認識されるのだろう。そしてそう認識されている事すら、隠している能力で感知できるのだ。


「ロベイア、落ち着いて」

「これが落ち着いてなんていられませんわっ!

 文句のひとつやふたつ……いえ、雷撃の一発や二発許されて当然でしょう!?」

「それは問題が大きくなるだけだからホントにやめて」

「なんでそんなに落ち着いていられますの!? 悔しくはありませんの!?」

「えっ……。そりゃね、悔しいというか、悲しいけど……。

 でもなんだか、私の代わりにロベイアが怒ってくれてるの見ると、落ち込むのもバカバカしくて」


 この時は本気でそう思っていたけど、今思えばやっぱり強がりだったと思う。けれど言った事が嘘だというわけでもなく、怒るロベイアを見ていると落ち込む気にもならなかったのだ。

それに彼の言葉「住む世界が違う」とは、ロベイアが思うような断り文句としてだけの意味ではないと私は知っている。まさに文字通り、本来居るべき世界が違うのだ。彼は異世界人なのだから……。

 

 それではいつか必ず別れが来る。だから彼は()()になる前に突き放したのだ。


「……無理して大丈夫なふりなんてしないでくださいまし。泣きたい時は泣いてもいいんですのよ?」

「……うん。やっぱりちょっと辛いかも……」

「ほら、こっちへいらっしゃいな」


 そっと肩を抱き、ロベイアはよしよしと頭を撫でてくれた。あたたかさと共に、ふんわりとシトラスの香りがする。いつでも完璧であろうとする彼女らしく、そんな所にも気を使っているのだ。

きっと私よりもずっと努力家な彼女の方が皆に好かれるべきだろう。そんな風に自信を失うほどに、やはり私はショックを受けていた。


「ふふっ……。ロベイア、少し筋肉が付いたんじゃない?」

「いきなりなんですの!? ここはしんみりするシーンですわよ!?

 だいたいあなたの方が旅のせいでがさつになられたのではなくて!? 香水くらい付けなさいな!」

「そうね、身だしなみに気を使えない時も多々あったもの。そのあたりから直さないとね」

「あっ……、そういう意味ではなくてですね……。

 あなたは今でも十分、いえ誰よりも素敵ですわよ!? あの男の見る目が無かっただけですわ!」

「冗談よ。ありがとう、少し元気が出たわ」


 からかうとロベイアはぷくっと頬を膨らませ「もうっ! 知りませんわっ!」なんてスネている。

本当に、本当に彼女がいてくれてよかった。そんな風に思う日が来るなんて、魔導士学校に居た頃は思いもしなかった。

きっと彼との関係もロベイアのように、今はぎこちないけれど変わっていくだろう。いつか来る別れまでに振り向かせてやればいいのだ。彼が元の世界に帰りたくないと思うほどに、本気にさせてやるんだ。


 そんな風に思っていたのに、それは叶わぬ夢となる。


 ふっと感じる嫌な魔力、それに気づき私は扉へと駆け寄り、警戒しながら外を見回す。

けれどそこには誰もおらず、夕闇に沈む寒々しい石造りの廊下はしんと静まり返っていた。


「どうしましたの? 何かありまして?」

「何も感じなかった……? 嫌な気配とか」

「いいえ、わたくしはなにも……」

「そう、気のせいかしらね……」


 あれほどの気配、ロベイアなら気づくはずだ。そう思い席に戻る。

けれど言い知れぬ嫌な予感とでも言うのか、肌を冷気が伝うようにゾワゾワとした感覚があった。


「顔色がすぐれませんわね……。部屋に戻りましょうか」

「えぇ、そうね。なんだか……」


 言いかけたその時だった。爆発のような、暴風のような……。視界が闇に沈むように、ただただ延々と黒い世界が続く魔力の流れが私たちを襲う。それはまるで、あの竜の再来かと錯覚するほどだった。


「なっ!? なんですのこれは!?」

「ロベイア無事!? 何が起こったの!?」

「えぇ、わたくしは無事ですわ! けれど何か、とてつもない魔力が覆ってますの!

 対抗結界を張りますのでこちらへ!」


 手を引かれ結界の中へと逃げ込む。結界の中には魔力は流れ込まず、ひとまず目が良すぎるゆえに前も見えない状況からは脱した。けれど結界の外は黒一色に染まり、一体何が起こっているのか見当もつかなかった。

次回更新は4/3(金)の予定です。



以下雑記



逃亡に至るまでの過去回想スタート。まぁ回想自体は軽く終わらせるつもりデス。

軽く飛ばされた二年間とかありましたけどね、それもそれで今後に……。

そして恋バナにウッキウキのロベイアさん。かわいい。

さらにブチギレロベイアさん。かわいい。のか??


本当は精霊の森に進むつもりだったんですよ。

でもなんだか回想挟む雰囲気になったので急遽用意したんですよね。

ヒィヒィ言いながら急ぎで書きました。なので次回分まだ書けてません。

間に合わせます。ガンバリマス。

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