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029 夕闇に染まる

 けたたましく鳴り響く非常ベル、そして周囲は腐り今にも崩壊しそうな木造教室。

異常な濃度の魔力が部屋に充満し、耐性がなければひどい魔力酔い起こしそうだ。


「これはやられたね……。キミも意外とひどい事をするもんだ」

「文句なら自身の迂闊さに言いなさい」

「私の魔力を暴発させた、って所かな?」

「あなたは世界を変えたいんじゃない、壊したいだけ。

 そんな深層心理を持ちながら私に近づくなんて、天才とは口だけのようね」

「なるほど。凡人が努力するための箱を壊したい、そんなイメージを利用されちゃったわけか。

 ふふっ、私の深層心理なのに、君に言われて初めて気づいたよ」


 崇高な理念に見せかけた身勝手な理想。それは本人すらも騙していたのだろう。

まるで私が悲惨な過去に見た風景を、都合の良いイメージで誤魔化していたように。


「無駄話はここまで。さて、どうするつもり? 腐食魔法なんて危険人物認定されるわよ」

「でもこの魔法は私が放ったものじゃない……。なーんて真実(いいわけ)通らないよね」

「えぇ。私が魔術を使えないのは周知の事実だもの。

 それに建物に張られた防御魔法を貫通するほどの威力、私が疑われる事はまずないわ」

「そして“うっかり暴走させてしまった”という事にしても無能扱いは避けられない」

「そうね。魔力制御もできない半人前という評価が下れば、ギルドには居られないでしょうね」


 ドタドタと廊下を走る足音が近づいてくる。

それは想定よりも早く、アリシアは逃げる隙を失ったようだ。


「……仕方ないな。魔導士ギルドでの仲間集めは諦めるとしよう」

「そうしてもらえると助かるわ。ギルドの人たちにはお世話になったもの、平穏を乱されては困るわ」

「義理堅いんだね。でも君もいつか気づくはずだよ。魔導士ギルドはそんなに甘い組織じゃないってね」


 負け惜しみでもなく、ただ不敵に笑う彼女は扉を開け、駆け付けた職員に連れられてゆく。

その言葉の意味は分からなかったが、どの道私はギルドに入れないのだから関係ない。少しだけでも助けてもらった人たちに、恩を返したかっただけなのだから……。


 職員たちに怪我がない事を確認され、この場は危険だからと場所を移すように促された。

そして扉を出た先には、良く知る人物の姿があった。


「ミユキさん……。なるほど、あなたが居ましたね」

「あら? 何か知った風な口ぶりね」

「えぇ。非常ベルが鳴ってから、職員の方が到着するまであまりに早かったものですから。

 それは誰かが監視していたと考えるのが妥当ですよね。それも私が感知できない人物」


 今の私に感知できない、その条件を満たす人物はごく少数だ。なぜなら今の私は、どのような微かな魔力でさえ見(・)る(・)事ができるのだから。


「ははは、そんなに察しが良いとツマンナイねぇ。ま、話は早いけどね」

「いえ、ありがとうございます。私の事心配してくれていたって事ですよね」

「うーん、私個人としてはそうだけど、ギルドとしてはあなたたちは二人とも監視対象だからねぇ……」

「監視対象?」

「そうよ。特別枠なんだから、ギルドは“特別”目を掛けてるワケ。

 そしてあのアリシアって子も、強すぎる魔力があるからね。気に掛けられていたわ」


 私とアリシア、それは双極に立つ存在でありながら、ギルドにとっては双方重要な存在であったらしい。

だとすれば今回の事件は特にお咎めもなく、彼女はギルドに入る事になるのだろうか。そうなれば危険な思想を持つ者が大きな権力を得てしまう……。それはギルドにとって利益となるのだろうか……。

少なくとも所属している人たちに良い影響があるとは到底思えない。


「つまり私がこんな事をしてもしなくても同じだったと……」

「まー、意味はあるんじゃない? これでアリシアさんの思想はおおやけになっちゃったしね。

 ギルドに入る入らないは別にして、今後は強い監視を受ける事になるだろうね」

「そうですか。どのような決定が下るかは分かりませんが、彼女の事よろしくお願いします。

 きっと悪い人ではないと思うんです。能力(ちから)に魅せられたというか、狂わされた風に思えて……」

「そうかもね。身の丈に合わない力ってのは人を狂わせるもの。ま、これから先は彼女自身が決める事。

 というか、相手の事より自分の事でしょ!? どうすんのさこれから!」

「えっ……、どうするって……。ギルドに入れないなら実家に戻る事になります」


 これからの事、それはぼんやりとは考えていた。

魔導士ギルドに入れないのであれば、父の元へ帰る事になるだろう。それはできれば避けたかったが、今では悪くないと思っている。なぜなら父は魔術師として優秀であるし、私も今の状態であれば父に教えを請い、まだ扱いきれていないこの力を磨くことだってできる。


 その上でうまく理由を付けて旅に出る……。例えば領主として世界を知る必要がある、なんて理由をでっち上げればいい。もしくは各国、各貴族に顔を売るための旅なんて建て前で、復讐の旅に出ればいい。

そううまく行くとは限らないが、今できる選択肢の中では一番現実的だろう。


「ギルドには大きな痛手だねぇ……。魔術成績トップは問題児、そしてやっと才能が開花した特別枠も抜けるとなるとね」

「ですが模擬戦は私の負けになってますし、何より今回の件の本(・)当(・)の(・)と(・)こ(・)ろ(・)を知られている以上、私がギルドに在籍するのは不可能ですよね」

「まー、そうとも限らないんだよね」

「え? どうしてですか?」


 すでに諦めている私と違い、ミユキさんは何か方法がある事を知っているのかニンマリと笑いながら続ける。


「今回の事件に関して、二人とも責任を取らされる事はないよ」

「なぜですか?」

「だってわざとじゃん。魔力を暴発させたならアウトだけど、今回は相手を止めるためにわざと暴発を偽装した。だから暴発させちゃダメっていうルールには反してないワケ。

 まー、わざとでも色々と規則に引っかかるけど……。そこはほら、私が止められたのに止めなかったから、二人には責任はないって事になるよ」

「でもそれじゃぁミユキさんが……」

「その辺うまく誤魔化すのが大人の腕の見せ所よ。だから気にしなくて大丈夫!」


 まったく大丈夫な気配すらしないが、本人がそういうのだから問題ないのだろう。

むしろ私が口を出す方が問題が大きくなる可能性もある。ギルド内の事は、ギルド内の人たちに任せるしかない。


「それに第二試験の方もね、合格条件が総当たり戦で勝利数の多い上位3名を採用するって言ってたでしょ?

 つまりすでに6勝してるから、他の受験者がそれ以下の勝利数なら通るって事」

「ですが確か試験を受けていたのは私含めず12人、そしてロベイアさんが途中参加したので13人。

 途中で棄権した扱いになっているはずの私が通る見込みは少ないかと……」


 私の他に棄権した者が2人いたため全員2勝持っている事になるのだから、ロベイアさんを除く2枠に入るためには、他の受験者が4勝以下でなければならない。それは難しい話だ。


「まー、私は難しい計算は分かんないんだけどさ、それはロベイアちゃんも気づいたみたいでね。

 だから彼女戻って来た時、全員を一度に相手するって言いだしたのよ」

「……へ?」

「全員を相手にして、それで勝てたら君を合格にしろってね」

「なんでそうなるんです!?」

「んー、その辺はよくわかんないけどさ『わたくしに勝てもしない相手が、不戦勝で勝ち上がるなんて見過ごせませんわ!』なんて言ってたよ」

「えぇ……。意味が分からないんですが……」

「で、君に負けた人は不参加、元々棄権してた人も不参加で、4対1で戦ってたんだよね」

「全員ではないとはいえ、その人数差では無理なんじゃ……」

「って思ってたんだけどね……。いや、うん。恐ろしいまでの執念を感じる戦いだったよ……」

「え? まさか勝ったんですか!?」

「うん……。すごかった。雷撃魔法で相手を誘導して同士討ちさせたり、立ち回りが見事だったね」


 ミユキさんは思い出しながら苦笑いする。彼女からは魔力が感じ取る事ができないので、その情景を読み取る事は出来ないが、表情から壮絶な戦闘を見たであろう事は想像に難くなかった。


「そういう事だから、ロベイアちゃんともども実戦隊入り決定したの! 辞退することもできるけど、どうする?」

「……いいんでしょうか? 今までもずっと特別扱いされてきて、今回もまた他の人のおかげで……。

 私、自分で何もできていないんです。ずっと助けられてばかりで……」

「……そうじゃないよ。みんな助けたいから助けてるの。だから甘えてもいいんだよ。

 今はまだ無理でも、いつか誰かを助けられるようになる。そうなった時、今までの分その誰かを助けてあげればいいの。私もそうだったから」

「ミユキさんもですか?」

「まー、こっち来てから色んな人に助けてもらってばっかだよ。あっ、今もか!」


 そう言って笑う彼女は、何も心配しなくていいと言うように、明るい笑顔を見せる。

それは彼女の噂が本当は全部嘘なんじゃないかと思うほどに、ただ一人の女性としてそこに居る事を印象付けた。私の周囲に居るす(・)ご(・)い(・)人(・)、そんな風に思っていた人たちも、みんな誰かに助けられ、そして誰かを助ける事で生きているのかもしれない。


「はい、では甘えさせていただきます。私、ギルドに入って、強くなって……。

 ミユキさんのようにみんなを助けられるようになりたいです」

「うんうん。それでいいの! じゃ、これからもよろしくね!」

「はいっ!」


 この日、日の暮れた暗い廊下で私は、こうありたいと思える姿を見つけたのだった。

次回更新は3/8(日)の予定です



以下雑記



長いな!? ちょっと詰め込みすぎた感ある。

えっと、今回は悪党の悪意を気付かせちゃう的なアレ?

どう考えても再び立ち塞がれるフラグだけど、それがいつになるかは不明。


さてと、これでほぼ2章終わりです。あれ? 文字数少ない……。

ちょうど10万文字くらいになるとは一体……。

もうちょっと、もうちょっとだけ2章は続くんじゃ!たぶん!

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