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025 試練

 嫌味な笑みを浮かべる二番手女と対峙する。やる前からすでに結果が分かっていると言いたげなその表情は、人間を初めて相手にする事への戸惑いに揺れていた今までの受験者とは大違いだ。

 試験に際し荷物を預けた私は、普段から尊大な態度の女の名すら思い出す事は無い。ならば名もなき草花を踏みつぶすのと同じ、手加減も必要ない。彼女もまた、先までの言動からその自覚はあるだろうから。


「始める前に、ひとつ謝っておく事がございますの」

「謝っておく事?」

「えぇ。第一試験前に言った事……。人の名も覚えられぬほどの無能だという発言、それは撤回させていただきますわ」

「……? どういう風の吹きまわし?」

「いえ、簡単な事ですわ。考えてもみれば、なぜあなたがわたくしの名を覚えられなかったのか、それはわたくしがあなたに対して何(・)も(・)し(・)て(・)こ(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)、印象に残る行いをしてこなかったからではないかと、ね」


 どの口が言うか。今まで散々暴言を吐かれ、そして理不尽な行動も続けられてきた。それこそ学校に居るのが苦痛で、ギルドへと逃げ込むほどには。それを何(・)も(・)し(・)て(・)こ(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)と言うとは、どこまでも嫌味な女だ。


「ですから……。二度と忘れられぬ記憶に刻み付けてやりますわ! 底知れぬ苦痛、そして挫折と共に、わたくしロベイアの名を!」

「……で、話はそれだけ? 動揺させようとしているのかもしれないけど、その程度の幼稚な口撃で怯むわけないし、なにより私は今回も剣で戦うのよ? 精神攻撃は魔法を使う相手でないと効果が薄いって習ったのを忘れたのかしら? そういえばあなた実技は二番手でしたけど、勉学では三番手でしたね。大好きな二番を私が奪っちゃってましたもの」


 常々嫌味を言われ続けたのだ、この女の言い回しは把握している。それをそのまま跳ね返してやった。

今までのツケをそっくりそのまま返された二番手女は、ひどく憎らし気で殺意の籠った視線を向けてくる。

まさか私が言い返すとは思っていなかったのだろう。もしくは、バカにされたのが癇に障ったようだ。


「おー。お前ら、開始前からやる気満々じゃねぇか! やっぱ決闘(バトル)は本気でなきゃツマンネェからな!!」


 止めるどころか、むしろ煽ってくる彼の立場は一応審判であり、試験官なのだが……。

しかし試験の目的からして、本気の闘いでなければ意味がないのも事実。実戦部隊に入るのであれば、今後は人間相手ではないかもしれないが、本気で命の取り合いをする事になるのだから。


 互いに向き合い、それぞれに武器を握る。私は今まで通り木刀だ。相手はいくつかある中から杖を選ぶ。それも何本もある杖をそれぞれ手に取り、軽く振ってから選んだものだ。


 武器には他に指輪等があり、指輪などのアクセサリーは自身の体表面に流れる魔力を引き寄せる効果がある。そのため指輪であればそこから魔力を引き出すイメージを行えば、自身の魔力を無理なく引き出しやすい。また、反対に指輪を起点に、体表面へと魔法へと変質させた魔力を流す事で、身体強化を行う事にも向いている。たがその反面、魔力を外へ向けて放つタイプの魔法へと変換するのが難しいという欠点も存在する。


 対する杖は、魔力の引き出しには体との接地面が武器サイズに対して手のひらだけであるため、魔力を引き出す起点にはしずらい。その代わり杖の先から魔法を放つイメージに使えるため、外へ向けて放つ魔法を使うならば有利である。

つまり杖を選ぶという事は、魔力の引き出しには自信があり、その上で魔法の精度を上げる事に重点を置いていると考えられる。だがそれは一般的な学生程度の魔術師での話だ。


 彼女が杖を選んだ理由は別にあると考えられる。それは接近された時には振り回す事で鈍器として利用できるという点。杖を選ぶ時の素振りがその考えを示している。

つまり攻撃は魔法で行うが、接近される事も想定している。それは私の今までの模擬戦を見てきたからこその判断だろう。


 魔術が得意なものにありがちな「接近されなければどうという事は無い」という戦法ではない。それだけ本気であり、私に初手で一撃浴びせて勝ってやろうなどという傲りはないようだ。それも当然か、負けたならばせっかく得た魔導士ギルドへの道が閉ざされる事になるのだから。

 しかし相手の行動が分かっているのだ。私もバカではないし、何より過去の屋敷や試験に際しての訓練でも、実践に即した手合わせを行ってきた。こういった場合の戦法も把握している。


「では、はじめっ!」


 その合図と共に一気に間合いを詰め、一撃を叩きつける。それは相手の魔術発動を妨害するためであり、今まではこの一撃で終わる事も多かった。しかし杖で防がれる。やはり肉弾戦も想定していたのだ。

そしてその後は一気に間合いを開ける。そのまま接近していれば、防御しながらでも魔法を発動される可能性がある。そしてその魔法は、杖の先から放たれる事になるのだから、間合いを取って回避に専念するのが得策だ。


 そして一撃をかわした後、もう一度間合いを詰めて攻撃、それを繰り返す事でいずれチャンスが訪れるだろう。なぜなら、私は攻撃と回避だけで済むが、相手は防御と魔術展開、そして接近された時の反撃と、やらねばならぬ事が多く、さらに魔力と体力双方の配分まで考えなければならない。誰かに守ってもらう事が前提の魔術師が、接近戦闘を行う者と一人で戦うという時点で、かなり不利な状況なのだ。


 私の予想した通り、ばっと間合いを空ければ相手は雷撃を撃ってきた。雷撃魔法は発射から着弾までが早い魔法だ。しかし魔力の隠蔽ができておらず、直線的にしか動かない雷撃魔法の回避は容易い。さらに言えば炎魔法と違い、爆発や爆炎による範囲を広げる効果もないのだから、数歩の回避だけで済む。


 そして魔術を知っているからこそ、素早い動きをする雷撃魔法も避ける事ができる。魔術とは、まず魔力によって空間に下書きともいえる魔法を放つ前準備のイメージを行い、そしてそれをなぞるよう放つものだ。ならばその下書きを見極める事ができれば、どれだけ着弾が早い雷撃魔法であっても避ける事は不可能ではない。


 だから私は難なく一発目の雷撃魔法を避ける事ができた。しかしそれには違和感がある。それは魔法こそ第一試験で見たものと同じであるが、威力がかなり弱い。

さすがに人間相手に全力の魔法を撃つのを躊躇ったのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。険しい顔つきではあるものの、仕留めそこなった事に対する悔しさを感じさせる表情ではなかったのだ。


「その程度の魔法で仕留められると思ってるの?」

「そちらこそ、余裕ぶっていられるのも今のうちですわよ!」


 喋っている余裕などない。けれどこれは手の内の分からない相手の出方を見る作戦だ。投げる言葉を選びながらも、下(・)書(・)き(・)の見極めは怠らない。そして相手の二発目がどの程度の間隔をもって放たれるか、秒数を数える。

 今までの模擬戦でも普段の実技訓練で優秀な者を相手にした時は、二発目をわざと撃たせ間隔を数えていた。その時は最も早い者でも体感10秒ほどだった。今回もその程度であるならば、その間に間合いを詰め一撃を入れる事は不可能ではない。


 だが、さすが二番手女と言った所か。今までの試合の様子を見ていたからか、下書きはすでに攻撃と同時に始められていたのだ。それは間隔を詰めるには非常に有効だが、その分魔力を多く消費し、さらには下書きの着弾地点に私が居なければ不発に終わる。それほどのデメリットがありながらその作戦を取る理由、それはどんなに弱い一撃でも当たれば試合には勝てるからだ。


 だから先ほどの雷撃魔法は弱かった。そして大量の弱い魔法を連発する……。

やはり二番手と言えど、優秀である事は疑いようがない。作戦もそうだが、なによりそんな器用な事は並大抵の者には不可能なのだから。

次回の更新は2/29(土)の予定です。



以下雑記



色々と魔法に関する設定を出してしまったものの、これ事前に書いておけばよかったなって思った。

ナガノさんとの訓練や、その前の屋敷での訓練シーンもあったのにね。

んー、でも事前に出すと読んでるうちに忘れるから、結局ここで書くのが一番わかりやすい気も……。

どうなんでしょうね? 書き手に回ると読み手の感覚が分からなくなってくるぜ……。

そのあたりのご意見も感想にて頂けると喜びます! どうぞよろしくお願いしま~す!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 魔法についての設定! ずばり、ここで出したのはよいと思いました。 前に書いてあると忘れるし、前に書いても結局、わかってもらうためにまた書くことになるので。 わざわざそのために一シーン入れる…
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