024 試験
第一の試験はつつがなく終わる。皆試験を受けるだけあって、腕に覚えのある生徒ばかりだ。
それでも目を見張るのは、座学でも実技でも常に一番の成績をとっていたアリシアという生徒だ。
彼女の炎魔法は正確無比に的へと吸い込まれ、腕を通せるくらいの穴をあける。それは燃えたというよりは、溶けたと表現するのが妥当な様子であり、金属製の的を溶かすのだから相当の火力だと見て取れた。
そして二番手女であるロベイアもまた、彼女には勝てないものの十分な電撃魔法を披露し、試験会場を沸かせたのである。二人は文句なく1位2位と判定され、第一試験を突破してみせた。
対する私は、もちろんの事ながら魔法を発動させることができず、第一試験を落としてしまったのだった。
「やはり無能は無能ですわね。次の試験は棄権なさってはいかがかしら?
いくら防御魔法をかけてもらえるとは言え、あなただって痛い思いはしたくないでしょう?
それとも痛覚すらお母様のおなかの中に置き忘れてきたのかしら?」
「ご心配ありがとう。けれどやらずに逃げるほどの臆病さもどこかへ置いてきてしまったようなの」
「ふぅん……。ま、せいぜい頑張りなさい。無様に膝を折る姿を見させていただきますわ」
もう場の空気なんてどうでもいい。試験官に好印象を持たれたいなんてのもナシだ。そんなの相手を怖がってる事を誤魔化すための言い訳だ。
私はあの厄災を叩き潰す、ならこの女の嫌味も払い除け、何より強くならなければ……。まだ戦闘力は敵わずとも、あの死を纏うような圧を弾く精神力は、今すぐにでも付けなければならないのだから。
「おー、やる前から戦意剥き出しか! やる気があって結構!」
険悪な空気の中、よく知る声が耳に届く。
声の方へと目をやれば、ナガノさんがそこに居た。
「こちら魔導士ギルド実戦部隊隊長のナガノさんだ」
「おう、皆よろしくな。第二試験は俺が担当させてもらう。
やる気あるのはいいが、ムキになって怪我するような事がないよう気を付けろよ!」
第一試験から担当していた職員から紹介を受ける彼は、いつも通りの軽い口調で挨拶した。
試験を受ける者たちは皆初めて見る彼を見上げ、そしてその威圧感に気圧されている。合格しても彼が上司となる、そう思うだけでやる気が削がれるほどに彼の見た目は厳つい。少なくとも魔術一本でやってきた者達にとっては。
けれどそれが狙いだったのだろう。実戦部隊にはミユキさんも属しているし、怖がらせるつもりがなければ彼女が試験の立ち会いをしてもいいはずだ。もちろんミユキさんも色々な伝説を持つのだから、名を知れば恐怖するだろうが、第一印象は優しそうなお姉さんなので彼ほどではない。
しかしそれをしなかったのは、彼の姿に怖気付くような者は部隊に要らないというメッセージである。
おかげで第二試験を受ける人数は大幅に減り、13名しか受験しなかった。これはチャンスだ。人数が少ないほどチャンスがあるし、なにより総当たり戦なのだから、対戦数が少ないほど体力の温存ができる。
もちろんそれは魔力も同じで、相手も一戦あたりに使える魔力量が増えるけれど、一撃の威力を強めてもナガノさんのように避けてしまえば問題ない。そのために訓練してきたのだから。
◆ ◇ ◆
「参り……ました……」
運悪く私と当たった受験者は、次々と腹に木刀を叩きつけられ白旗を上げる。
おそらく対峙した瞬間に戦意を削がれていたのだろう。今まで的相手に魔法を撃つことはあっても、生物、それも人間相手に攻撃しろと言っても無茶な話だ。だから動きに迷いがあるし、何より集中できていない。そんな相手の魔法など、今の精度の悪い目であっても魔力の流れが読める。
私はナガノさん相手に立ち向かう訓練をしていたし、彼が苦手だと言いつつも行ってくれた魔法の軌道を隠蔽した状態での着弾地点分析をやってきた。苦手と言いつつも巧妙に隠された魔力の流れとブラフ、それを見極める事に比べれば、どれほど威力や正確さを極めた魔術であっても、所詮は実践経験のない、”お勉強した結果”にすぎない。
飛んでくる魔法を避け、間合いを詰め、そして叩きつける。それだけで6勝できたのだった。
そして受験しつつも、実際に対峙した時棄権した2人がいたため、8勝が確定してる。それは13人のうちトップの成績であり、この時点で私の合格は決まったようなものだった。
しかし、その様子に異議を唱える者が居た。
「失礼、ナガノ様とおっしゃいましたね。意見させていただいてもよろしいかしら?」
「ん? それはいいが、お前は第一試験で合格してるんだよな?」
「はい、ロベイアと申します。そしておっしゃる通り試験には合格しております。
けれどそれを承知の上で言わせていただきたい事がありますの」
「まぁいいぞ。何か気になる事でもあるのか?」
「はい、それは……」
ちらりと私を横目で睨み、彼女は大男に怯むことなく言葉を発する。
「魔法を使わず試験に合格するのは、魔導士ギルドとして許される事なのでしょうか。
魔導士ギルドは魔術の研究機関という大きな意義がございます。もしろんそれだけではございませんが、全く魔術を使えない者が戦えるというだけで入れてしまうのであれば、それは冒険者ギルドと何が違うのでしょう?」
「ふむ……、もっともな意見だ。しかしお前も見ていただろう? 魔術が使えない代わりに、魔法を回避する能力、つまり魔力の流れを読む力は備わっている。ならば魔導に精通していると言えるのではないか?」
「えぇ、もちろんそれは認めましょう。ですが今まで人に向けて魔法を放った事のない者に、迷いが生じないなどという事はありませんわ。そうであれば、相手が狂わせてくれたおかげで運よく回避できた可能性もあるのではないでしょうか」
「そうか、学校では的しか相手にしてないのか……。これはカリキュラムに対人戦も入れてもらわないとな」
「えぇ、それは必要かもしれません。ですが問題は今回の試験ですわ」
「しかし……、今さら無しにともできんからなぁ。ウチの部隊は早急に増員したいんだ」
「ではここで一つ提案がございますの……」
「提案?」
そこまで言うと、性格の悪さが滲み出る笑みを浮かべ、再び私をチラりと見る。
性悪二番手女の事だ、どんな手段だろうと私を邪魔するための提案だというのは、聞くまでもなかった。
「わたくしと彼女の模擬戦をさせていただけないかしら?」
「……ふむ、なるほど。お前なら何の躊躇もなく相手を魔法で打ちのめせると?」
「そういう訳ではございませんわ。わたくしだって人間相手は初めてですもの。
けれどわたくしが本気でやって、そして万一負けたなら、この試験の方法は間違ってなかったと証明できますわ」
「うーん、それじゃ他の受験者が本気じゃないと言いたげだな……」
「それはわたくしには分かりませんわ。けれど第一試験で落とされた者との模擬戦が、試験として適正と言えるかどうかは疑問がありませんこと?」
「つまり第一試験で合格した奴の本気と渡り合えって事か。大した自信だな」
無茶苦茶な事を言っている気がするが、ナガノさんは笑いをこらえているような顔だ。
どうやら彼女の本性や本心はともかく、そうやってぶつかってくる相手は嫌いではないのだろう。
「よし、いいだろう。お前が模擬戦に参加する事は認める。しかしこいつらはギルド職員の座を懸けて戦っている。つまり言葉を選ばず言えば、不合格になれば夢破れる奴らだ。お前だけなんのリスクも背負わずちょっかいをかけるなんてのは不公平だよな?」
「……えぇ、いいでしょう。ではわたくしが負けた場合、第一試験でのわたくしの合格枠を差し上げますわ」
「ふふ……ふはははは! 気に入った! おい、お前! こう言ってるがどうする!?」
どうすると言われても、私はこのまま何もなければ無事合格できていた。だから私にとって何のメリットも無い話だ。けれど今まで無敗でこられたのも、ナガノさんの訓練のおかげであり、それは私だけ試験範囲を先に教えてもらっていた不正試験と変わらない。その後ろ盾である彼がどうすると問うてきたというのだから、私には選択肢も拒否権もない。
「はい、受けて立ちます」
けれど、だからこそ私はこの試練に立ち向かわねばならない。
相手はきっと本気どころか、殺す気で来るだろう。それはいつか対峙する黒き竜も同じだ。ならばこの程度の試練、乗り越えずに先に進めるはずもない。
次回更新は2/27(木)の予定です。
以下雑記
ナガノのおっちゃん脳筋ですからね、面白いバトルが見れればそれでイインダヨ。
試験とはいえショッボい戦いだなーって今までため息ついてたんじゃないですかね。
そういえば設定明かしてないけどナガノさん一応20代なんですよ。
うん、二十歳超えたらみんなおっちゃんやから問題ないな!




