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022 訓練

 異世界人たちの会合に巻き込まれて数カ月。あの時の約束通りナガノさんは、私に剣術だけでなくあらゆる戦闘技術を身に付けさせるべく指導してくれている。おかげでギルドの手伝いという学校から離れる理由を付けずとも、ギルド内に逃げ込む事ができたので、その面でも助かっていた。


 そしてその訓練は、入学前に行われていた体力作りを目的としたものではなく、実際に魔物を狩るための訓練だ。一通りの武器の扱い方、手入れの仕方、長所短所を解説され、実際に手に取ってどれを自身の得物にするか……。まるで新米冒険者に指導するような徹底したものだ。

身体強化によって戦闘力が底上げされていなくとも、彼ならば冒険者としてやっていけるほどに知識も経験も豊富だった。

しかし、だからこそ私の脆さも理解していた。


「魔法に対する防衛については、学校で習ったよな?」

「はい。普段から薄く防衛魔法を身に纏い、相手の攻撃に合わせて強化と属性変化させる事で打ち消す。ですよね」

「そうだ。逆に言えばバカみてえな魔力の持ち主なら、属性や魔力の燃費考えずに常にフルパワー防御してれば問題ないって事だな」

「そんな事したら、普通はすぐに魔力切れ起こしますよ」

「で、お前は常に魔力切れを起こしてるようなもんだよな」

「はい……」

「そこは仕方ない。何か別の手を考えないといけないわけだが……。魔道具使うのが一番手っ取り早いな」

「魔道具ですか……」


 魔道具とは、名前の通り魔力の込められた道具だ。高い魔導適性と、製作知識・技術を持った者にしか作成できず、高級品である。だがそれでも人間が造るものであるため、敵対する魔物から傷付けないように取り出さなければならない魔石と違い、まだ手に入りやすい部類だ。


 その分効果も魔石ほど融通の利くものではなく、込められた魔力によって道具の本来の力を強化したり、使用者の魔力を増幅させたり、もしくは逆に受けた魔力である魔法を減衰させたりと、用途が限られる。そして道具に込めた魔力が枯渇すれば効力を失う。

使い果たせないほどの魔力が宿る魔石に比べれば、かなり見劣りするものだ。

 今回であれば、彼は私に魔法から身を守る魔道具を使えと言いたいのだろう。


「魔道具ならまだ入手の希望はありますが、ギルドの手伝いくらいしかできない私にはとても……」

「だろうな。学生がちょっと手伝いした駄賃で買えるモンでもないしな」


 彼は私が貴族の娘だと知らないのか、もしくは知っていて親の助けを求めるような人ではないと認識しているのか、買ってもらえとは言わなかった。

もちろん私もそんなつもりはない。これは私の問題だ、次期領主として必要であれば問題ないだろうが、個人的な要件に領民の方々が収めた税であるお金を使う訳にはいかない。

 だからどうにかしてお金を工面する必要がある。もしかすると実践訓練と称して、弱い魔物の討伐依頼でも受けてこいと言うのかと勘ぐってしまったが、そうではないようだ。

彼は小指にはめられた銀の指輪を外し、私に差し出す。


「これは……?」

「魔法を反射する指輪……らしい」

「らしいって、使った事ないんですか?」

「いつも付けてはいるんだがな……。魔法なんて避けちまえばなんてことないし、何より俺は防御魔法を展開できているからな。出番がねえんだよ」

「魔法を避けるって……」

「魔力の流れからどの辺を狙ってるかわかんだよ。あとはそうだな、戦略的に狙う場所とかもあるしな。その辺は経験から学ぶしかない。だからお前が持っとけ。目的を達成できたその時までな」

「でもこんな高価な物、お借りしていいんですか?」

「あぁ。そういうのは使ってナンボだ。実際うまく作用するか試した事はねえが、それを俺にくれた奴は信用できる……、いや信用はともかく、能力はピカイチだ。安心しな」


 なんだか引っかかる物言いだが、少なくとも彼が信頼できる腕の持ち主が造ったものなのだろう。ならば効果に疑問を持つ事は無い。

ただ、そのような物を借りてよいものか……。そう考えた時、ミユキさんの言葉を思い出す。『センパイの厚意ってのは“ありがとうございます“とだけ言って受け取っときゃいいのよ』と。


「ありがとうございます。その時が来たら、必ずお返しします」

「ま、気長に待つさ」


 彼は笑う。私が目的を達成した時まで……、それは復讐を遂げた時ではない。私のやらなければならない事、それは過去と向き合いケジメを付ける事。いつになるか分からぬその時を、彼は笑顔で見送ってくれている。


 今はまだ何も持たない私だ。誰かの手を借りなければ何もできない。だから差し出してくれた手はありがたく掴ませてもらおう。いつか恩返しして、次の誰かに手を差し伸べる事の出来る私になろう、その想いだけで今は十分なのかもしれない。


 ゴツゴツとした彼の小指にはめられていた指輪は、私の人差し指に収まった。

少し大きくてゴソゴソと騒がしいけれど、それは彼のように熱くみなぎる力を感じさせた。


「それでだな、お前今年で卒業だろ?」

「はい」

「修了試験自体は……。まぁ、学科で取ってるなら大丈夫だろうが、どうすんだ? もう一個の試験」

「ギルドの登用試験ですよね……」


 それは生徒たちの間では卒業試験と呼ばれるものだ。魔導士ギルドのカリキュラムを修了し、成績を記した証明は、学科試験さえクリアできれば発行される。しかし学校の目的は、魔導士ギルドの構成員を育てる事である。であれば、学校に入ったからには魔導士ギルドへ入れるだけの実力を付ける事が求められるのだ。

それは狭き門であり、学科だけが良くても、逆に実技の魔術にどれだけ長けていても突破はできない。魔術が使えない上に、魔導士として他の魔力供給源も未だ用意できていない私には、到底無理な話である。


「辞退しようかと思っています」

「……それで、その後どうすんだ? 実家に帰るのか?」

「いえ、両親を説得して冒険者ギルドに登録しようと考えています」

「その説得ってのは、うまくいきそうなのか?」

「……難しいですが、他の方法がないのならやるしかありません」

「そうか……」


 彼は空を見上げ、顎をぽりぽりとかく。

そして横目でちらりと私を見て、静かに言う。


「あー、これは俺の独り言なんだがな、魔導士ギルドの実戦部隊が足りないんだよな」

「実戦部隊?」

「んー。どこかに冒険者でもやっていけるほどの人材で、魔導士ギルドに入るに十分な知識もある奴いないかな~」

「えっ……。あのっ! 私でよければぜひ!」

「しかしな~、試験をしない訳にはいかないんだよな~。登用試験で筋のよさそうな奴探してみるかな~」

「……! 私、登用試験受けます!」

「おっ! やる気になったか! よし、それじゃ試験対策するか!」

「はいっ!」


 こうして私はギルドの登用試験に向けて、より一層ハードな訓練を続けたのだ。

次回更新は2/23(日)の予定です。



以下雑記



そういえば異世界人四人出てたのに二人しか話に出てないな!?

まぁ、店主はともかくもう一人は出します。えぇ、彼は重要人物ですよ。

んで次回から試験の話になるんですけどね、例の高慢二番手さん出ます。

あからさまに悪役感あったしザマァ要素になりそうと期待されてたりしますかね?

さほどのザマァにはならないと思います。できる事限られてるしネ。

その辺は次回以降、ゆっくりと進めます。話の展開が遅いって思われてそうダナー。

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