021 意味
「ま、そんなこんなで私が卒業するまでさ、一緒に魔力の素探しとかしてたのよ」
「ほう、入学してからも苦労してたんだな」
机を囲み、手札を場に捨てながらナガノは答える。
彼らにとってはただの世間話と変わらないが、私にとっては今後を変える大きな出来事だった。そしてその出来事が、今に繋がっているのだ。
「にしてもさ、ナガちゃんも知り合いなんだよね? 学生とギルドで会う機会なんてある? もしかしてナンパでもした?」
「んなワケねぇだろ! コイツは特別枠だからな。入学前に検査とかのためにギルドで預かってたんだよ。お前はその時すでに入学してたから知らなかっただろうけど」
「あー、そうなんだ。にしたってナガちゃんが担当したの? 脳筋のくせに?」
「うっせぇ! 一言どころか二言三言多いんだよお前は! 俺が検査を担当してた訳じゃねぇけど、剣術とか教えてたんだよ」
「剣術?」
「あぁ。魔術が使えないから、身を守るために必要だろ? それに、身体強化魔法の逆で、体力を魔力に変換できるかもっていう、実験を兼ねてな。ま、さすがにそれは無理だったけど」
「やるまでもなくそんなの無理じゃない?」
ミユキさんは笑うが、少なくともナガノさんは本気だった。
彼は私の必死の願いを聞き入れ、魔法で自身の身体強化を行えるのならその逆だって不可能ではないと、魔術に長けている者ならば試しもしない事を、本気でやってみようと訓練に付き合ってくれたのだ。
もちろん私はそんな事できるとは思っていなかったが、それでも彼が上層部へ掛け合った上で指導してくれたおかげで、ギルド内で武術を学ぶ機会を得られたのだから感謝している。
それは彼を騙した事になるので罪悪感はあるが、私は手段を選んでいられないのだ。
「実際結果としてできなかったからそうだけどな。けど誰も試さない事を試すってのは意味があるだろ? それに万一の時に、魔術が使えないなら自分の力で切り抜けられねぇとな」
「確かにそうかもね。いつでも助けてもらえるとは限らないんだし」
「しかし……、今もトレーニングは欠かしてないようだな。見れば分かるぜ?」
「えっ、ナガちゃんマジマジと女の子の身体見つめて、ヘンタイさんですか!?」
「ばっ……、そういうのじぇねぇ! 癖だ癖。お前も相手の力量見極めるくらいするだろ!?」
「やだー! 癖で見つめるなんて、やっぱり変態じゃないですかー!」
そんな風に言いあえるほどに、ミユキさんとナガノさんは仲が良いようだ。気の置けない仲とはこういうのを言うのだろう。いつも一人でいる私には、少しうらやましく感じた。
そしてナガノさんが変態かどうかはともかく、私も入学前どころか屋敷に居た頃からやっているトレーニングは欠かしていない。それでも彼のように筋肉隆々とはいかないが、魔術師一本でやっている同級生たちよりは、多少動ける自信はある。けれどそれでも目標には足りない。
「しかし魔術が無理そうなのに、なんでまた学校に入ったんだ? 冒険者の道もあっただろ?」
「それは……。魔導士ギルドの関係者だった父の勧めがあったんです。私は強くなれるなら冒険者学校でも良かったんですが……」
「それで研究を兼ねた特別枠なのね。にしても、女の子で冒険者学校も考えてたなんて珍しいよね。現役冒険者を兼務してる私が言えた話じゃないけど、魔術師はともかく冒険者は男社会だし、強くなるためとはいえ冒険者学校でもよかったなんて、あんまり聞かない気がする」
「そういやそうだな。俺が剣術指導してた時もえらく熱心だったしな。魔術が使えない以外になんか理由でもあんのか?」
「え……」
それはつまり、私が強くなりたい理由を問われている。けれどここで正直に「黒竜を倒すため」と答えるのは愚策だ。二人ともおせっかいと言えるほどに親切な人達だから、私がそんな事を言い出せば無理にでも止めようとするだろうし、逆に一緒に討伐に行こうなどと言われても困る。
これは私の問題であって、誰かを巻き込んでいいものじゃないのだから。
けれど完全に真実を含まない嘘をつくのもまた得策ではない。色々と細かい所を聞かれた場合、うまく答えられず矛盾が発生し、彼らの信用を失う事になる。何より人が良すぎる彼らをこれ以上騙すのは、わずかながらに残っている良心というものが痛むのだ。
だから私は考えた。嘘ではないが本当でもない理由を。
「……昔、大切な人を魔物に殺されたんです」
「えっ……」
「その人は私を守るため、私を庇って魔物にやられました。もうそんな姿見たくないんです。だから私は強くなって、戦えるようになりたいんです。そのためには、魔術でも剣術でもどっちだっていい。冒険者だって魔導士だってなんだっていい。戦う力が手に入るなら、方法なんて選んでられないんです」
場の空気が凍った。今までの楽しげにゲームをしていた雰囲気は消え去り、静まり返る。
そしてバツの悪そうな顔で、ナガノさんは切り出した。
「悪い、言いにくい事聞いちまって。ただ一つ確認しておきたいんだが……。お前はその魔物に復讐とか……考えてるのか?」
「……」
あえて魔物とだけ言ったのに、彼はそこに触れてきた。
私の言う魔物が、普通のそれではないと彼は察したのだろう。一般的な魔物であれば逃げ切れる力があれば良い、つまり戦う力を求める意味がないのだ。
彼は少ない言葉の中から真意を見極められる人物のようだ。だから嘘の答えは、きっと見透かされる。
「……はい」
「そうか……。よし、なら俺がまた剣術の稽古つけてやろう。暇な時ギルドに来い」
「ちょっとナガちゃん!? そんな危ない事やめさせないと!」
「俺だって止めたいさ。庇った奴はそんな事望んじゃいないからな。けどな、コイツが本気なら止められたって変わらない。だから死なないように鍛えてやる」
「ありがとうございます」
「だが一つだけ言っておく。復讐は目的じゃねぇ。手段だ」
「え?」
「お前が過去と向き合い、ケリをつけるための手段。復讐を目的にするな。成し遂げた後お前がどうありたいか、それを考えろ。それは最弱の魔術師が最強になったとしても同じだ。その後どういう人間でいたいか、いつも考えておけ」
今まで考えた事もなかった話。どこかで黒竜に勝てるわけないという諦めがあった証。
復讐をなし得た後、そんな事考えもしなかった。今まで黒竜を倒す事だけを目標に生きてきたのに、その先があるのだと彼は言うのだ。
もし私が仇を討つことができたなら……、何を想って生きていけばいいのだろう。
例え復讐したとして、それで彼が戻ってくるわけでもない。ナガノさんの言う通り、それは私が過去とのケジメを付けるための行為でしかない。意味がないとは思わない。けれどそれだけではいけない……。
手元に残る二枚の「A」が書かれた札を見つめ思う。この札を場に出した後どうなるか、ゲームは終わっても世界は続く。その世界を私は笑って歩めるだろうか……。
それは終わりではなく、次への始まり。私はその後、どうあるべきなのか……。思わぬ難題を彼は提示したのだ。
「おっ、これ残り全部出せば上がりだね! 初めてなのに一抜けじゃん!」
「なにっ!? 話し込んでるうちにしてやられた!!」
「ふふふん! ナガノ大富豪様ついに陥落! 都落ちだねぇ」
「もう一戦! もう一戦だ!!」
私の思いはよそに、異世界人たちのゲームは続く。
次回は2/21(金)更新予定です。
以下雑記
6万字近くになっても目立った動きがないですが、そろそろひと山来ます。
というか、10万字で一区切り打つという自分ルールがあるのでね、ガンバリマース。
まぁ書籍化なんて考えてはないんだけど、10万字で一冊分らしいし、小説家になろうってサイト使ってるならホンモノの小説家に求められるであろう事やってみたいよねって事で決めたルールなんですよ。
他にも色々求められることはあるだろと言われそうだけど、実際何が求められるんだろうね?知ってる人います?俺の近くには居ない。え?内容?内容に関しては……うん、これから良くなっていけばいいね。(投げやり)




