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133 決闘(3)

 カンッ! カンッ! カンッ! と、軽い音が響き続ける。


 私が何度攻撃したところで、コジモは全てを自らの木剣で受け止めてみせたのだ。

それだけではない。踏み込みが甘ければ、見事なカウンターを見せる。

正直にいって、もっと簡単に終わると思っていたのだけど、予想外だったわ。



「まるで、数秒先の未来が見えているようね」


「私も驚いていますよ。まさか、カウンターが全て避けられてしまうなんて……。

 これでも、二回目からは本気で当てるつもりだったんですけどね」


「それなら、最初の一撃で沈めておくべきだったわね。

 手の内が分かってしまえば、避けるなんてそう難しいことでもないわ」


「普通はそうでもないと思うのですがね……」



 誰でもできることだと言いたげな私の言葉に対し、コジモは苦笑いだ。

当然、言ったものの、誰でもできるとは考えていない。

私が相手の思考を読めるからこそ、回避できているだけなのだ。

カウンターさえも、来るか来ないか、そしてどのように打ち込むか分かれば、回避もできる。


 けれど彼の場合、私のように相手の思考を読めるはずもない。

にも関わらず、的確に防御し、反撃を入れてくるのだ。



「このまま続けますか? こちらとしては、降参してくれるとありがたいのですが」


「どうしようかしらね。こういう場合、受ける方が体力の消耗もなくて楽なのよね。

 こちらが動けなくなるまで続ける、それがあなたの作戦でしょう?」


「よく理解してらっしゃる。その通りですよ。

 それで、どう対処するおつもりで?」


「そうね……。今までの完璧な防御を考えれば、ミスすることは考えにくいわね。

 ホント、未来予知のようね。あまりに的確な防御に、笑えてきちゃうわ。

 それさえどうにかしてしまえば、どうとでもしようがあるのだけど」


「未来予知、ですか。フフッ、褒められていると思っておきましょう。

 では、どうするおつもりで? 予知を崩す方法をお持ちならよいのですがね」



 私は今まで、そしてこれからも、こうやって相手をはぶらかすのだろう。

相手が何を考え、そしてどう動くか、すべて見えているのに、見えていないふりをし続けるのだ。

今でもすでに、彼の手の内は分かっている。未来予知のような、彼の動きの正体も。


 いえ、一撃目を入れるため走り出した瞬間には、すべて見通せていたのだ。

けれど、それでも何度も立ち向かった。それは、相手を油断させるためでもある。

だが一番の目的は、私が相手の思考を読めることを悟らせないためだ。


 もし私が一撃目でコジモを倒してしまったら、この場に居る全員が違和感に気付くだろう。

父でさえ、私のことは「相手の魔力が視える」程度にしか思っていない。

その隠蔽し続けた私の能力に気付いた時、誰もが私を恐れるだろう。

そして、誰もが自身の秘密を知られたくないと、私を遠ざけるに違いない。


 もしコジモが、それでも私と生涯を共にしたいと言うのなら……。

私は、彼を選んでもいいと思えるかもしれない。けれど、そんなの確かめるつもりなどない。

彼も何も知らぬまま、諦めてもらうしかないのだ。彼がどのような考えを持っていたとしても……。



「どうしましたか? なにやら悩んでいるようですが」


「そうね、どう対処するのがいいかと思ってね。

 魔法は使わないと言ったからには、遠距離攻撃もできないし。

 剣を投げて避けられてしまうのは、もっとダメね……」


「フフッ……。これが戦場なら、もしくは本気で殺すつもりの決闘なら、長考は命取りですがね」


「あら、それならあなたも、カウンター専門なんて気づかれるような動きは悪手よ?」


「おっと、それもそうでしたね」



 こんな悠長な会話、誰が見たって決闘とは思えないだろう。

だがこれが正しい姿かもしれない。貴族にとっては、舌戦こそが主戦場なのだから。


 考えを巡らせる私の背後では、小声の会話が聞こえてくる。

頭を悩ませる私にとって、非常に気の抜ける、お気楽な会話が……。



「ということで、両者硬直したままです。解説のポールさん、いかがでしょうか」


「俺を巻き込むな」


「ではハロンちゃん、いかがでしょう」


「…………。未来予知などあり得ぬ。手の内が分かれば、対処はできるだろう」


「ちゃんと答えるのかよ!  ハロン、お前コイツに弱みでも握られてんのか?」


「…………。別に」



 ふいっとそっぽを向くハロン。そんな後ろの情景が、私には見えていた。

それはきっと、ハロンなりの私へのヒントなのだろう。

私に必要なのは、答えではなく答え方なのだけどね……。



「そうね。観客も飽きてきた様子だし、そろそろ決着を付けましょう」


「ほう……。どうするおつもりで? 考えられる方法はいくつかありますが……」


「ええ。たとえば、挑発してあなたに攻撃させる、とかかしらね」


「それが本当に有効かどうか、理解されていますよね?」


「もちろん。この程度で動く人じゃなさそうだし、挑発のネタもないわ。

 あなたのことなんて、金持ちのお坊ちゃんだということ以外、なにひとつ知らないもの」


「多少棘のある口ぶりですが、その程度なら動きませんよ」


「でしょうね。それじゃ、もう一つの方法にしましょうか」



 私は胸元で金色に光る、梟のデザインがほどこされたボタンを外し、ミズキの手元へと放り投げた。



「えっ……。待って、これって……」



 ミズキの表情は、いつものものではなく、困惑したものだった。

次回は5/10(月)更新予定です。

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