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132 決闘(2)

 木剣を構え、コジモと向かい合う。

相手は革の装備。さすがに鉄製ではなかったが、頭以外はどこを突かれても十分に守ることができる装備だ。

対する私は、いつも通りのローブとマント姿。


 なぜって、当然相手の攻撃が当たるわけないからよ。

それに、旅をするのに身を守れるだけの厚手のものだ。

これ以上の服は、私にとっては動きを制限させられるだけで、利点がないのだ。


 そんなこととはつゆ知らず、コジモはどうしたものかと悩んでいる。もちろん顔には出さないけれど。

当然よね、本来は装備を交換してもいいくらいの、力量差があると見られているのだもの。



「もし、決闘に代わりに出ることが思いつきだったなら、今からなしにしてもいいですよ。

 装備もない女性を、全力で叩くのは気が引けますからね」


「お気遣いありがとう。けれど心配いらないわ。防具なんて、動きにくいだけの飾りでしかないのよ。

 真に強大な敵を相手にするなら、一枚着込んだって無意味だもの」


「なるほど。当たらなければ、どうということはないと」


「そういうことね」



 コジモは、表情にこそ出さないが、舐められたものだと憤慨している。

そして同時に、彼もまた、その方が得策だとも考えていた。


 どちらかが倒れるまで、もしくは負けを認めるまで決闘は終わらない。

ならば、体力を削がれる重い防具は、全ての攻撃を避けられるのなら邪魔でしかないのだ。

そしてなにより、防具を着込んだ状態で素早く動けるほど、彼は訓練を積んでいない。

それを見越した上で、私がこのような装備を選んだんだと、納得していたわけだ。


 もちろん、私はそれ以外の方法で完全回避を達成することができるのだけど、彼は知る由もない。


 すっと場が静まり、コツコツと靴音を立てながら、父が私たちの間に入る。

そして二人の顔を順に見て、少しため息にも似た一息をついてから、言葉を発した。



「始める前にひとつ。

 試合でなく決闘であるにも関わらず、こんなことを言うのは間違っているとは思う。

 だが、二人とも無茶をしないように。

 お互い、戦うことが本分でないことは、重々承知のはずだ」



 コジモと私は、静かにコクリとうなずく。

けれど、お互い意地の張り合いでこんな状況に至っているのだ。

そんな簡単に負けを認めるような、生半可な気持ちでここに立ってはいない。


 そして、形式上だけとは言え決闘だ。

たとえ父が審判の真似事をしようとも、始まってしまえば、止めることなど不可能だ。


 いわば私たちのうなずきは、互いにそのことを確認しあったようなものである。

父もまた、そういった空気を感じられぬほど、鈍感ではなかった。

痛み続ける頭と胃を押さえることもできず、今にも倒れ込みそうになりながらも、父は続けた。



「では始める。両者とも、構えよ」



 父は、すっと手を空へと掲げ告げる。

その声にあわあせ、コジモは両手で木剣をギュッと握り、集中している。

対する私は、片手に軽く握る構えだ。

ひどく長い一瞬の間、お互い睨み合う。



「はじめっ!」



 挙げられた手が振り下ろされ、決闘が始まった。

その瞬間に、コジモが間を詰め、一撃で決着を付けに来る……。


 誰もがそう予想しただろう。けれど、現実はそうならなかった。

互いに睨み合い、試合は硬直していたのだ。



「あら、やる気満々に見えたけど、意外と慎重派なのね」


「フッ……。レディーファーストというものですよ」



 言葉では余裕ぶっているが、その内心が見える私には笑える反応だ。

だが、私もこのまま見つめあってあげるつもりはない。

どんなに見つめあったって、到底ロマンチックな雰囲気にはならないもの。



「決闘なんて言い出すわりに、紳士的ね。

 それじゃ、遠慮なく……」



 タッと駆け寄り、いつも通り直前で死角へと潜り込む。そして、脇腹めがけて木剣を振り抜いた。

しかし、私の攻撃は、がっしりと構えられたコジモの剣によって防がれる。


 即座に飛び退き距離を取れば、彼は勝ち誇った笑みを浮かべていた。

さきほどまでの、不安の混じる雰囲気は薄れている。

どうやら、攻撃を防げたことで、多少自信を付けたようだ。



「あらあら、さすが決闘を言い出すだけあるわ。

 簡単には取らせてくれないようね」


「あなたも、なかなかのやり手のようですね、

 ただの令嬢とは思えない動きでしたよ」


「それはどうも。けど、防がれちゃうと、嫌味にしか聞こえないわ」


「これは失礼」



 言葉の応酬はあれど、コジモが自ら動く気配はない。

彼の作戦は、やはり私と同じらしい。



「喋っていても決着がつかないわね。

 さっさと終わらせましょうか!」



 再び距離を詰め、同じく死角へと潜る。

またも同じように防ぐかと思いきや、今度の動きと思考は、先ほどとは違っていた。


 それを見切った瞬間、私は剣を地に刺し、その勢いでもって飛び退く。

引いた先で見たものは、私の動きを予知したかのように、振り抜かれるコジモの剣の軌跡だった。



「やっぱりね。あなた、剣術でも受けなのね。

 レディーファーストなんて言っておきながら、カウンター狙いだなんて、とっても紳士的よね」


「まさか見破られるとは……。さすがですね。

 ですが、見破られたとて関係ありませんよ」


「そうね。こちらが動かなければ、決闘にならないもの」



 お互い静かに笑いながらも、腹の探り合いは続く。

決闘だというのに、呑気なものだと自嘲してしまうほどだ。


 そんな中、観戦するミズキは、「受け……、だと? 薄くて高くて山なし落ちなし意味なしの本が熱くなる話?」と、意味のわからないことを口走っていた。

次回は5/7(金)更新予定です。

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