128 帰り道【2】
「それで、聞き捨てならなかった言葉が聞こえた気がするんだが?」
「あら、元に戻ったと思ったら藪から棒に……。
なにか気になることなんてあったかしら?」
調子を取り戻したポールは、私たちと並ぶように歩きながら話を進めた。
「俺を使うって、どうするつもりだったんだ?」
「あぁ、そのことね。
話の流れで決闘なんてことになったけど、何か面倒ごとがあれば、あなたに任せるつもりだったのよ」
「おい……、人をなんだと……。
ってことはあれか、婚約の件も本当は知ってたのか?」
「…………。いいえ、そうじゃないわ。
酒場なんて、女がいれば酔っ払いが絡んでくるものでしょう?
だから『私にはもう相手がいるの』と言って逃げるために、あなたを使うつもりだったの。
そのために周りからもそう見えるよう、あなたにちょっかいをかけていたのよ」
「あー、そういうことね。なんか妙に馴れ馴れしいと思ってたんだよ。
しかし、それじゃあアイツと会ったのは偶然?」
「いえ、それは必然。ちゃんとダウジングで居場所を調べたでしょ?」
「え……。マジであれ効果あったのかよ」
ポールはまさか、ただ紐にぶら下げられたボタンに、そんな効果があったのかと驚きの表情だ。
けれど、私は「調べた」としか言っていない。実際は、私の目がコジモの魔力を捕らえただけだ。
「その上で、従者は遠くへ行ってもらったんだけどね」
「それはなんでだ?」
「相手の事を調べたかったから。どうして逃げるのか、興味あったのよ。
もし、従者に甘やかされているせいでそうなっているなら、誰かが叱ってあげなきゃ」
「色々考えてたんだな……」
「まあ、それなりにはね」
当然これも、理由の一つに過ぎない。
実際は父の思考を読み、彼が婚約者だとも知っていた。
だから婚約を破棄させるためにも、調べていたのだ。
けれど、コジモに投げた言葉に嘘はない。
彼が本当に生涯を共にするに十分だと思えたのならば、私の目的を捨てることさえ考えた。
それが領民のためになるのなら、そして自分自身にとって良い選択と思えるほどなら……。
結果は、残念なものになったけれど。
「でもさ、そんなに嫌だったの?
そりゃ、美女はべらせて酒飲むような相手だけど……」
「ミズキ、やっぱりあなた、ずっと見てたのね?」
「えっ……」
「あなたが入ってきた時はすでに、そういう状況じゃなかったと思うのだけど?」
「あっ……。あはははは……」
「笑って誤魔化そうとしてもダメよ。
これもツケておくから。共犯のハロンもね」
「…………」
突然話をふられても、ハロンはなんの反応もない。
悪気がないのか、興味がないのか……。それすらも読めない相手だ。
この二人が一緒だったことで、私は彼らの動向が読めなかった。
結果的に助かったから、本当にツケを払わせる気はないけれどね。
「ま、よく知らない相手との結婚なんて嫌だよなぁ……」
「そうでもないわ。ポールなら聞いたことあるでしょう?
お見合いで結婚して『案外相性良かったね』なんていう夫婦は多いって」
「性格は合うことが多いかもな。
仲人なんか、そのへんも考えて組むわけだし」
「えぇ。だから、お父様が何も考えてないはずないわ。
だけど、今はまだそんな気持ちになれないだけよ」
「そっかー。オトメゴコロってやつだね?」
「そんな風にからかうなんて、ミズキは乙女心を分かってないわね」
「いやー、残念ながら人の心を読める超能力は、持ち合わせてないもんで」
「そう……」
そんな超能力を持ち合わせていたって、なにもかもがうまくいくわけではない。
相手の考えが読めたって、私は私を律することができていなかった。
そのせいで、感情に任せた不用意な言葉が出てしまい、彼に決闘なんてさせることになったのだから……。
「ま、ともかくミズキは訓練しないとな。
魔道具屋のマスターには事情を話して、解放してもらうしかないな」
「いえ、それには及ばないわ。決闘は、私がするもの」
「はあっ!? お前戦え……。あ、そういや普通に戦ってたな。
むしろ、ミズキの方が戦ってるの見たことないわ」
「でしょう? 彼にそんなことさせたら、ギルドからお叱りをうけちゃうもの」
「えぇ……。ギルドがそんな過保護にするって、ホントこいつ何者なんだ?」
「大事な魔導士ギルドの、実験動物でーす!」
「近からず、遠からずね……」
自虐の混じる言葉だけれど、事実それは間違ってないのよね……。
そんな彼を危ない目には合わせられないし、もしそんな事をしてしまえば、最悪の場合、魔力が暴走するかもしれない。
そうなれば、王都どころか連合国一帯が塵と化す可能性だってある。
もちろん、私にそれほどの魔力を操作して、暴走する力を被害のないよう逃すことも不可能だ。
だから私がやるしかない。
そして、私が勝たなければならないのだ。
「心配しなくていいわ。箱入り娘だって、箱の中でトレーニングくらいできるもの」
「それじゃ、モルモットは檻の中でプイプイ鳴いてようかな」
「お前……。強くなる気はないのな」
「愛玩動物ですので!」
「…………。やっぱり、一度痛い目を見てもらった方がいいかしら?」
苦笑いのポールに反して、ハロンは静かにうなづいた……、ように見えた。
次回は4/23(金)更新予定です。




