流氷3
人類はもう滅んでいる。
スケープゴートとして隔離された南極兵士たちは、ある意味避難していたのだ。終わりの戦いから、大いなる業火から、蔓延する殺意から、離れた場所にいた。
南極都市はシェルターとしての機能を果たした。
脳は人間か。
それは誰が定義するのか分からない。
人間だったすれば、人類は滅んではいない。数十万の生き残りがいる。
繁殖することはない。
サイボーグは永遠ではない。
脳はいつか腐る。
南極なら、あるいは凍るか。
いずれにせよ
帰還
した
ところで
何になるのか
帰るには
場所がいる
場所とは座標か
絶対か相対か
意味か
思考だけは止まらない。
それが玉髄にとっての救いだった。ひとつの結論にたどり着いた。
(僕もマリアも生きている)
だから、
(死に方が選べる)
ということだった。
「自業自得っていうのも違うか」
「彼らの気持ちも分かりますからね」
「どん詰まりなのはあっちも同じだったんだろうさ」
「そんな戦争あるんすねぇ」
「なんでだろ」
「すげー武器とか」
「まぁ兵器ばかりが死因じゃないだろ」
「例えば」
「水がないとか」
「宇宙なら酸素ないとかね」
「なるほど」
「原因なんてどうでもいいって」
「俺ら戦う意味あったか、これ」
「やめろやめろ」
「死んだヤツもいるんだぞ」
「お前が殺したヤツもな」
「てめぇも殺すぞ」
「あー、もう」
「今さら殺し合ってどうすんだ」
「てかどうでもよくなってきたな」
「まじか」
「気が抜けたっつーか」
「しばらく何もする気になれんよ」
「どうなるんだろうな」
「私たちも死ぬでしょ」
「脳みそは本物だもんなぁ」
「そこはそれケント様のお力で」
「機材も人材も足りないだろ」
「アホが多いもんな」
「学べばいいさ」
「いやケントさん人に教えるのめっちゃ下手」
「見たら分かるわ」
「見かけで判断するな」
「見かけ通りじゃん」
「そういうときもある」
「死ぬのはまぁいいけど、何してくのさ」
「食っちゃ寝」
「食うって何を、燃料か」
「寝るって言うかスリープモードな」
「電源落とす感じだもんな」
「あれはあれでくせになるけど」
「一生寝てろ」
「俺漫画家になるよ」
「応援する」
「絵、描けるのかよ」
「練習する」
「でも実際、芸術ぐらいしかやることなくない」
「一理ある」
「必要なものが少ないもんね」
「だからやる気でねぇーんだよ」
「映画でトイレ見たときの違和感パなくない?」
「分かる」
「今だから言えることだな」
「メシのシーンもなんか気持ち悪くてさ」
「ほんとそれなー」
「俺らサイボーグやけん」
「生理現象気持ち悪い問題はあるよな」
「やった記憶ねーもん」
「五歳児だもん」
「いや年齢は問題じゃないだろ」
「この会話がまず意味ないような」
「意味なくてもいいんだよ」
「そうそう」
「こういう無駄が今は欲しいよ」
「まったくだ」
「黙って」
マリアの一言に誰もが黙った。
急な発言だったので驚きの目が向けられる。
「多分、まだ生きてる人はいるわ」
そう言って、回りを見渡す。
「……どういうこと?」
ルイが問う。
マリアは彼の方をちらりと見る。
「その前に……瑠璃」
がれきの陰から出てきたのは瑠璃だった。
「瑠璃、あなたの能力について確認させて」
そんなことをして今さら何になるのか。
疑問に思わなかったのは、玉髄ただ一人だった。




