天蓋崩落2
不撓の発言通り、探偵事務所の周りは封鎖済みだった。
驚くほどの静寂がそこに広がっていた。
殺気立っているといえる。今のところ「軍」と「組織」の抗争に気づいていない一般市民でさえ、事務所の周囲には近づいていない。危険に対するある種の嗅覚というのは、機械的なものではなく、本能的なもののようだ。
雪道の足跡はすべてが外向きになっている。
なにより、内側に入って行くような連中が、足跡を残すなんてありえない。
それでも玉髄は堂々と歩いた。まだらのコートを羽織って、大股に事務所に近づいていく。赤いレンガの外装が視界の大半を占めるようになる。
「玉髄さん」
男が一人、小さい路地から、蛇のように這い出た。
背は低いが立派なひげを蓄えている。小太りの赤毛のおじさんに見えるが、その武装は一級品である。
「思念通信は破壊済みですか?」
「そうなんだ、参ったよ」
鷹目は猟犬部隊の隊長である。「鷹が率いるのであれば、もう少し別の名前でも良いのでは?」と玉髄はマリアに提案したが――あいにく生物としての鷹は嫌いだそうだ。鷹目自身も、どちらかと言えば犬の方が好きらしい。
「マリア嬢の推測通りですね」
鷹目が安心したように笑う。玉髄も同じ気持ちで、微笑みを返す。目立つように歩いたのは、自分が裏切り者だと思われたら困るからだ。不撓からも連絡はあっただろうが、疑われても仕方がない。
「マリアは中にいるのかな」
「はい、警護は万全です。それにあなたが来たことによって、ここは今や地上最強の要塞ですよ」
鷹目の「地上」最強という表現が、玉髄の心をかき乱す。この星の外にいるやつらは、もっと安全なんじゃないか。僕たちに戦いを押しつけたから。
「どうかしましたか?」
「何でもないよ……黒曜という無効化能力者に気をつけて」
「大丈夫です。あなた以外の人が来たら、即刻撃ち殺しますから」
つまり玉髄であればフリーに入れるということである。必ずしも安全とはいえないと、玉髄は思う。とはいえ、身の潔白を証明することもできないので助かった。
「じゃあね」
「はい、ご苦労様です」
玉髄は探偵事務所のドアを開ける。屈託なく笑う鷹目は、今日に至るまでに多くのプレイヤーを殺害している。玉髄もそうだ。
これまで見てきた映画を思い出す。人を殺すことを躊躇う登場人物たちに、決して共感はできなかった。非現実的だと思ったのだ。どんな人でも、人を殺せる。それが玉髄たちのリアリティだった。
僕たちが人なら、殺してきたのも人だ。
僕たちが人ではないなら、殺してきたのも人ではない。
人殺しの人間か。
機械を壊してきた機械か。
いずれにせよ、やってきたのは共食いだ。
ドアを閉める。
短い廊下の突き当たり、応接室は明かりがついている。
(マリアが僕を待っている)
玉髄の足音だけが、事務所に響く。
緊張に伴い、動悸のように速くなっていく。
そして二人は数時間ぶりに出会う。
「やぁマリア」
「ええ、こんにちは」




