秘密が終わるとき6
暗い部屋で、玉髄は目を覚ます。
センサー類は機能している。だが超能力は使えない。
「おはよう、玉髄」
そう言ったのは、白髪交じりの黒髪の男だった。細身のスーツを着ているが、重そうなコンバット・ブーツを履いている。右手には銃を持っている。
「黒曜だ、よろしくな玉髄。気分はどうかな」
「マリアは無事か」
黒曜は大げさに顔をしかめた。
「真っ先にそれか……嫌になるねぇ。無事だよ、あんたらの琥珀対策は悪くない。部下たちとの情報共有をまったくしない、ってのは単純すぎると思うが」
玉髄の手足は縛られている。そうでなくとも停止信号で指一本動かせない。この場を制圧して、脱出するにはいくつものハードルがある。
「ここに来られて良かったな」
玉髄は黒曜の顔を見つめた。先ほどから、玉髄は彼からいちいち気遣いを感じるのだ。どう考えても殺し屋なのに。
「目的はスカウトだ」
「お前は、お前たちはなんなんだ」
「ある嘘を終わらせたい。そうすることで守られる夢がある」
抽象的な返答に、玉髄が舌打ちをする。
黒曜は笑った。
「睨むなよ……今から説明する。探偵ものでお馴染みだろう? 推理パートだ」
だが彼が語るのは推理ではなく、事実である。
――黒曜の声が、狭い室内で響く。
この世界は本物だ。明確に現実なんだよ。
ゲームの世界とか、胡蝶の夢とかじゃない。ただの現実。
死んだやつは死んだ。
生身の部分は、脳だけだ。それをすっぽりと頭蓋骨みたいに覆う人工皮質がある。さらに人工脊髄……あと家畜から移植した神経ってのが生身に入るのかは、人によるな。
あんまり驚いてないだろ。
この世界に関する情報は、少ないし、ほとんどがチープだ。
できの悪いゲームだと思うのも分かる。そう思わせたいっていう思惑もあったが、上手くいかないもんだよな。プレイヤーを舐めすぎだ。
では次の疑問にお答えしよう。
技術的になぜ可能なのか?
これも察してはいるだろう――今が23世紀だからだ。
あ、ちょっと驚いた。でも単純だろう。すごくシンプルな話で、普通に進歩していって、今では、これぐらいのことができるらしい。宇宙人とか古代都市とかのオーバーテクノロジーじゃない。普通に最先端の技術をまとめただけだ。
人の脳を騙す方がよほど楽だろう。
ではなぜ、我々の記憶では、今が21世紀なのか?
我々は、試験管で育てられた。
脳みそだけになること前提で産まれ、学び、機械の体にぶち込まれた。
我々に、過去はない。
これまでの人生なんてものは、そもそもないんだ。
育成にあたってのデータならあるが。
……顔色が悪いぞ。
なんて、表情だって機械制御なのにな。




