ダルタニャン5
地下道を進む中で、玉髄が尋ねる。
「瑠璃はどうだった」
「どのプレイヤーの連絡先からも同時に消えてたわ」
マリアは淡々と告げた。しかしすべてを教えたわけではなかった。
確かに瑠璃は、思念通話の連絡先から消えた。玉髄が彼女の住まいを壊して逃げた1分後に。
遺体が消えていたことに加え、1分間のタイムラグがあった。
瑠璃は生きているのではないか、とマリアは考えている。
この考えを玉髄に言わないのは彼が暴走することを恐れているからだ。最悪の形で、最悪の真実を知ったとき、彼の怒りマリア自身に向かうのではないか。
瑠璃が生きていると仮定して、それを確保したのは彼らだろう。
彼らが絶望したのはなぜか?
マリアには推理できる。いや、彼女は推理だと思いたくないのだ。自分の「知識」が導き出す結論はあまりにも信じがたい。その「知識」も十分ではない以上、推理ではなく妄想に過ぎない。
「彼女には……申し訳ないことをしたね」
玉髄の呟きは、地下道にこれっぽっちも反響しなかった。足音のほうがよほど大きく、壁から跳ね返ってくる。ちょうど二人分の音。
マリアは絶えかねたように言う。
「もとの世界では、自分はどんな人だと思う?」
玉髄は質問の意味なら分かったが、意図が分からなかった。
マリアたち記憶のある三人は、基本的に秘密主義で、もとの世界のことは語りたがらない。情報の有利を持ち続けたいというのもあるだろうが、それ以上に避ける理由がある。
だから、玉髄もあまり話題にしない。
玉髄の戸惑いの視線に、マリアは頷きで返す。
「僕は、そうだな……あんまり考えたことなかったかも」
「本当に帰りたいの?」
「うん。なんていうか、帰りを待っている人がいるかもしれないし。そういう人がいるなら、帰るべきだと思う。行き着くべき場所があるんじゃないかな」
「運命、みたいなこと?」
恥ずかしそうに玉髄が頭をかく。
「そこまで大仰なことじゃない。結局、文句が言いたいのかもしれない」
玉髄は笑いながら続ける。
「南極なんかに閉じ込めやがって、みたいな。せめてオーロラとかペンギンが見えるようにしとけ、みたいな? はは、馬鹿みたいだよね」
そして、玉髄は隣のマリアを追い越し、前に立つ。
「だから、心配しなくていい。僕がいる」
目の前には、統一感のない服装のプレイヤーたちがいた。手には銃やナイフなど、日本刀を持っている者もいた。とても訓練を受けた軍人や暗殺者には見えない。
十四人の有象無象。
その中に殺人銃がないとは言い切れず、超能力の無効化使いがいないとも言い切れない。
ゆえに、
「マリア……いいよね?」
「もちろんよ」
全力で、一瞬で、制圧する。
マリアと玉髄だけが動けた。
他のプレイヤーの動きは止まった。指先ひとつ動かせない。光や音のセンサーは動いている、思考もできる。だが体を動かすことはできない。
玉髄が右手を素早く振る。何度も。
その度に、誰かが壊れる。簡単に。
等間隔で音が響き、やがて止まる。
「終わったね」
「ええ、行きましょう」
二人は歩き始める。
すれ違う壊したプレイヤーが玉髄の目に入る。
(彼らにも帰りを待つ人がいたのかな)
だとしても玉髄が殺される理由にも、殺さない理由にもならない。
(僕は、軍人か警察官か殺し屋あたりかな。学があるなら、医者とか裁判官かも)
この世界で目が覚めたあの日から、玉髄は死を恐れない。
自分の死も、他人の死も怖くない。
そうできている。




