秘密が終わるとき1
三賢者の会議が終わってすぐに、探偵事務所に来客があった。
見越していたと言わんばかりのタイミングで、玉髄もマリアも身構えた。地下道の敵はいわば斥候で、本命はこの少年なのかと。
「依頼があるんだ。帰還計画に上手く行って欲しいんだよね」
だが彼は、あらゆる秘密を語るばかり。
なぜか?
「ああ、俺は心が読めるからね」
心が読めるという少年は饒舌だ。
「分かるよ、あなたたちの疑いも。でも早いほうがいいかなって」
背は低く、顔は丸顔でとても幼く見える。
マリアと同じぐらいの背丈だろうかと、玉髄は見比べる。マリアはいつもの椅子に座ってしかめっ面を隠そうともしない。少年の方はソファに半ば寝そべるように座っているので、全長が分からない。
「玉髄さん、五センチほど俺の方が高いらしい」
「あー、それはどうも」
マリアが後ろに立つ玉髄を睨む。身長について考えていたのはバレバレで、玉髄はプログラムされた表情から、微笑みを選ぶしかなかった。
「人の心が読めると、話はどうしても早くなる」
少年の発言は正しい。彼が探偵事務所に来てから数分で、帰還計画や三賢者の秘密について暴き、開陳した。ついさっきも玉髄の内心をぴたりと当てて見せた。
心が読める超能力者と出会ったら、対処は両極になる。
まさに心から信頼し、友として扱うか。
即座に良心を捨てて、敵として殺すか。
読ませるなら最後まで読ませ、信頼を勝ち取るしかない。読ませたくないなら冒頭すら読ませずに、黙らせるしかない。
マリアと玉髄はずっと前にこの結論を出していた。万が一、読心の超能力と出くわしたら、どうするべきか。少年もまた二人の思考を読むことで、結論を知った。
そして実践も終わった。
読心の少年は生きている。
二人は受け入れ、取り込み、活用する道を選んだのだった。
「では、依頼の話をしようか」
少年は言った。
「三勢力の争いを止めて欲しい。なぜか? この読心の超能力について説明しよう。この能力は「読む」という表現をしているけれど、実際は「聞く」や「触る」に近いんだ。ニュアンスの問題かもしれないけど「読む」にはかなりの集中がいるだろ。――ああ、マリアの考えの通りだよ。この能力はね、制御不能なんだ。範囲や精度なんかを調整できない」
少年は頭を抱えるジェスチャーをする。
「慣れてきたってのに、最近は街全体がざわついてる。あんたらのハウンドだとか「軍」のファランクスだとか……ごちゃごちゃと酷いもんだ。ハッキリ言わせてもらうと、あんたらには、さっさっと出て行って欲しいんだな。心の声が大きすぎる、特に三賢者は」
玉髄は疑問を覚え、少年は口に出される前に答える。
「その通り。記憶量が俺たちとは段違いだから、心の声が大きい。あと単に全員が根に持つタイプだ。嫌だねぇ、ねちねちと。自分で蒔いた種のくせにさ――おっと、すまない」
少年にとって殺意とは明確に感じ取れるものである。だからマリアのそれに反応し、謝った。具体的かつ建設的な(殺人)プランを脳内で組み立てるのは、彼女の得意分野だ。もちろん、少年への脅しとして、いつも以上に丁寧に考えていた。
「そういえば名前は?」
玉髄の質問はふと思い浮かんだものだった。
少年が質問された後に答えるのは、実に久しぶりのことである。
「俺は琥珀だ。よろしく、お二人さん」
琥珀少年はニッコリと笑った。彼の自然な笑顔に、玉髄は好感を覚え、マリアは不快感を覚えた。自然すぎる笑顔を作るやつは大抵、何か腹に抱えているものだ、というのが彼女の持論というか、実体験というか、普段の自分である。
「怪しいヤツの前に連れて行ってくれ。つまりケントかルイだな」
琥珀の発言は、マリアへの返答だった。
つまり、どうすれば犯人が分かるのか。具体的な手法についての質問であり、また答えであった。
「近づかないとダメなのか?」
「……玉髄さんは結構読めないねぇ。言っただろ、制御不能なんだよ。物理的に遠ければノイズの方が大きいんだ。逆に近づいて、集中すれば、聞き取れる」
殺人銃にまつわる事件は、
「推理は必要ない、だって会えば良いだけだもん」
ここから僅か1日で終わる。




