ダルタニャン3
不撓は、ケントを脇に抱えながら歩く。薄暗い地下道は縦も横も2メートルぐらいのものだ。荒々しい足音が反響する。
「むかつくな、おい」
「ど、どうして」
胸元で軍帽を握りしめながらケントが聞いた。ぼさぼさの赤髪に紛れて、その眼は見えない。
不撓は鼻を鳴らす。
「マリアの言った通りになった」
前から銃を構えた一団がやってくる。五人全員が黒っぽい戦闘服にフルフェイスのヘルメットだ。背後を警戒しながらも、不撓たちに素早く近づいてくる。
黒装束の男の一人が、不撓に声をかける。
「壊しておきました」
一団は「軍」の精鋭部隊だった。怪物退治を生業とする「軍」にあって「対人戦」に特化した秘密部隊である。
「ありがとさん。敵は強かったか?」
「チンピラってレベルですね。殺人銃も確認できませんでした」
「そうか……」
三賢者が一同に会するとなれば、敵襲するにこれほど良いタイミングもない。そう思い、不撓は精鋭部隊を潜ませていた。何事もなければ、静かに撤収するはずだった。だが敵がいることに加え、大盾部隊に関してもバレているなら、いっそ隠密行動なんてしなくていい。それが不撓の判断だった。
「しかし、帰還計画自体に反対するやつがいるとはな」
「グ、グルかも」
唐突なケントの発言に、部隊長の男が首をかしげる。だが、不撓は応えた。
「なるほど、最悪のパターンだが……玉髄と「組織」が手を組めば、回りくどいことをする必要はない。パワーゲームで「軍」を潰せる」
「いずれにせよ正面衝突は避けたいんですかね」
部隊長はそう言った。感心したように不撓が言う。
「鋭いことを言うじゃないか」
不撓は考えをまとめる。
(正面切って戦いたくない理由が、秩序なら「思想」のルイっぽいが、安全なら「知識」のマリアっぽいんだよな。そもそも帰還を待ち望んでいるはずだったのが、嫌になったのはなんでだ? 南極都市の支配権なんてあったところで、御山の大将だってのに……。「考え」が変わったのか、あるいは何かを「知った」のか)
「あいつらの動きをまとめるとしよう。大きく個人的な変化をもたらしたのは何だったのか」
「私のほうから指示しておきます」
「頼んだ」
不撓たちは地下道を進み始めた。
地下道は数人で通るとなると、さらに狭く感じる。自然の光も風も、入ってこない。ひたすら人工的で作為的な道である。
(気に入らない)
南極都市という箱のなかに入れられたこと。不撓にとってこれほどの屈辱はなかった。実験動物の気分なんて味わいたくない。そうやって統制できると思われていることが、腹立たしかった。
(俺たちは外に出る、絶対に噛みついてやる)
不撓の願いは変わらない。
だが相棒とも言える「技術」の賢者・ケントは、少しずつ変わり始めていた。




