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未知との遭遇。

異世界なんか行きたくなかった青年 第二話。




此処で一つ質問をしよう。もしあなたが、突然の未知との遭遇を果たしたらどういった反応をするだろうか? 驚いて叫び声をあげる? 余りの出来事に思考が停止する? 少なくとも喜んで未知の生物へ近づこうとはしないだろう。もしそんな行動をするような奴がいたら、そいつは珍獣ハンターか、好奇心の塊のような奴か、危機感が無い奴だ。

ではそれを踏まえた上で、俺は如何するか? 結論から言えば後ろ向きに全力で走り、その後友人にその事を話すぐらいだろう。面倒な出来事には余り首を突っ込みたくないのだ。


が、しかし………。


俺は今余程精神がボロボロだったのだろう。未知の生物がいる空間から逃げる事もしないで、その場に平伏してしまった。言ってしまえばorzの体勢だ。


「ありえねぇ。マジありえねぇよ。美少女に真っ白い天使の羽根が生えてるよ。それもリアルにパタパタ動いているよ。と言うか、なんだあの猫? コスプレか? コスプレであってくれ。MHのコスプレなんだよな………きっと。」


先程までの気持ち悪い喜びの笑みを、今度は引き攣った笑みに変え、俺はブツブツと現実逃避の言葉を述べていた。傍から見れば怪しい奴だ。

俺の目の前にいる一人と一匹もそう思ったのか。全身から警戒心をあらわにし、ある一定の距離以上近づこうとしない。


「リリ様、コイツ怪しいニャ。」


そうして暫く微妙な空気が流れていたが。この空気に痺れを切らした喋る猫が、美少女の袖を引っ張りながら彼女に話しかけた。

この時俺は、自分は怪しいかも知れないが、お前は存在自体が変だと、心の中で叫んだ。


「コラ。ルーイそんな事を言っては駄目。」


失礼な事を言った二足歩行猫へ、少女が鈴の鳴るような美しい声で叱りつける。しかし彼女自身も、俺のことを怪しいと思っているのだろう。血の様に赤い瞳を、此方から片時も外そうとしない。

そんな彼女が意を決したように一回頷くと、俺に恐る恐る声をかけてきた。


「あの……あなたは誰ですか?」


その声に反応して顔を上げた俺は、少女の顔をじっと見つめた。

小顔で綺麗な輪郭。スッと高い鼻。目尻が少しつり上がり、凛々しい雰囲気を出す目。

腰まである絹糸のような金髪は後頭部で三つ編みにし、白磁のような肌と絶妙なバランスで美しさを表現している。

100人の人に、この子は美少女ですかと聞いたら、95人は間違いなく美少女と言うだろう。では残り5人は何だというと、変わった趣味の方々の事だ。人間100人もいれば10通りぐらいの考えがある筈だ。

そう言う俺は美少女派に投票を入れる。ただ少し残念な事は、胸の膨らみが子供用のお茶碗ぐらいしか無い事。俺は女性の胸の大きさに、丼位の大きさを求めるちょっとエッチな男子だ。この欠点は致命的だ。それに非常に残念な事は、彼女の背中に生えている真っ白い羽根だ(まあ、赤い瞳も気になるがカラーコンタクトと無理やり自己完結)。頼むからコスプレであると願いたい。


「ああ……すいません。自分は平江和彦と言います。いや、和彦平江の方が言いのかな?」


「カズヒコですか。変な名前ですね。」


「日本人ですから。」


「日本人?」


俺の台詞を聞き、怪訝そうに眉をひそめる少女。まさかこの子は日本を知らないのだろうか。いや、案外納得がいくかもしれない。此処はきっと人里離れた秘境なのだ。俗世間から隔離された未知の生物の楽園……。それが此処なのだ。


「そうか……そう考えれば辻褄が合う。」


「あの……。」


俺が一人で納得していると、少女が再び困ったような表情を浮かべながら声をかけてきた。

おっと、いかんいかん、また物思いにふけてしまった。

俺はわざとらしく咳払いをすると、再度少女に向け口を開いた。


「ごめんな。考え事をしていた。」


「はあ……。」


「ところで、人里へ下りるには如何したらいいか教えてくれませんか? 俺迷子なんですよ。」


「……迷子ですか? こんな所で?」


少女は確認するような台詞と共に、顔が困惑から怪訝なものへと変化していく。それに合わせて彼女の目つきも鋭いものへと変わっていき、かなりの迫力がある。

美人は怒らせると怖いと良く言われるが、これは本当だ。


「ええ…。そうなんですよ。」


少女の顔に内心ビクビクしながらも、気丈に答える。

すると少女の隣で暫く黙っていた猫が、尻尾を逆立て、俺を威嚇しながら口を開いた。


「リリ様、やっぱりコイツ怪しいニャ。関わっちゃ駄目ニャ。」


「お前は存在が変だ。」


「何だとニャ!!」


ムカつく猫の台詞に、俺がツバメ返しの如く斬りかえしてやると、そいつは声を上げ俺を物凄い形相で睨みつけてきた。だが、所詮は猫。女友達から怖い顔と言われる俺に睨み合いで勝てると思うなよ。


「ああん? 何だコラ猫? と言うかお前今あきらかに語尾のニャの付け方可笑しかっただろ?」


「そっ、そんな事ないニャ!!」


猫はビクリと肩を震わせ、どもりながらも俺の台詞に反論する。その反応だけで、コイツの弱点がこの話題であると判断した。

このとき、俺はさぞかし邪悪な笑みを浮かべたのだろう。猫の奴が苦笑いをし、完全に腰が引けている。


「おいおい。何焦ってんだよ? それじゃあ、お前が語尾にニャなんてつけているのは、狙ってやっていると肯定しているような物だぜ?」


「ぐっ……!!」


「ははは……。所詮は猫だな。」


「猫じゃないニャ! 誇り高き猫又族ニャ!!」


「猫又? 知らねぇな。何処かの研究所から逃げ出した合成生物か? それともポケモンの世界から現実に迷い込んだニャースの新種か?」


「違うニャ!! 新種でも何でもない普通の猫又族ニャ!!」 


「普通? 詰まらん猫だ。」


「黙れ!! このタワシ!!」


「誰がタワシじゃ! ボケ!!」


俺の禁忌に触れた猫を大声で怒鳴りつける。彼女に振られ早1年。この傷は未だに、かさぶたまでしか治っていないないのだ。突かれて我慢できるほど、俺はまだ大人ではない。故に不毛な争いとは分かっていたが、俺と猫はそのまま暫くお互いを罵りあった。


「いい加減にしなさい!!」


「「ぐぎゃっ!!」」


するとそのとき、少女が声を荒げながら、俺達二人の頭をその真っ白な羽根で殴りつけた。俺は彼女の羽根に羽毛の様な感触を期待していたのだが。ところがドッコイ、俺の頭に響いたのは、鉄板の様に硬い感触だった。御陰で一瞬意識が飛んだ。


「二人とも駄目でしょ! 喧嘩をしては! 怪我をしたら如何するんですか!?」


いや、あんたの羽根の所為で頭にデッカイたんこぶが出来たと、此処はツッコムべきだろうか。俺は如何しようかと、目の前で同じ様に地に伏している猫に視線を向けた。


『駄目ニャ〜。言っても無駄ニャ〜。』


彼の目を見た瞬間、俺は彼がそう言っているように感じた。

どうやらこの美少女の残念な点にもう一つ、性格と言うのがプラスされそうだ。


「カズヒコ!」


「はい!」


行き成り名前を呼ばれ、思わず返事をしてしまう。


「あなたは、今から私の先生に会って貰います。」


「せ……先生ですか?」


「そうです。私について来て下さい。」


少女はそう言うと、俺に背を向け、森の中へと歩き始めた。俺は行き成りの展開についていけず、困ってしまって助けを求めるように猫へと視線を移した。がしかし、そこにいた猫は同情の眼差しを俺に向け、諦めろと俺の肩を叩くだけだった。


「早くしなさい!」


何時までも動こうとしない俺達に痺れを切らした少女が、少し離れた所で俺達を呼ぶ。

俺は一回ため息を吐き、「どっこらせ」と爺みたいな事を口走りながら立ち上がった。そして隣にいる猫へ視線を向け、口を開いた。


「……年年歳歳花相以、歳歳年年人不同……。わかるか、太郎?」


「太郎って誰ニャ?」


「時の過ぎゆくままに……。という意味だ。」


「はあ?」


「どうやらお前とは、本当の友情が生まれそうだ。」


「もう、わけわからんニャ。」


俺は如何やら相当参っているらしい。






話が進みません……。

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