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10 英雄?


「ランハート。俺と勝負しろ!」


 ‥‥は?

 なんでそうなるんだよ。


「なんで俺なんだよ」

「長年の恨みを晴らすためだ!」

「俺、お前のこと知らないんだけど」


 状況が理解しきれないが、やられた側は忘れないと言うしな。

 無意識のうちになんかしちゃったんじゃないのか?


「よくわからんが、ルイーサ離してくんない?」

「おい新米教師、お前は黙ってろ」


 曲がりなりにも教師である俺にその態度か。

 こりゃ制裁が必要だな。念のためルイーサが解放されるまでは待つけどさ。


「まさか忘れたと抜かすのか!おのれ‥‥許さん!」 


 男1は勝手に怒り出す。もちろん状況を掴めている奴は一人もいない。

 椅子に縛り付けられたルイーサでさえも、あっけからんと男共を眺めている。

 ランハートに至っては背を向けて帰ろうとする始末。いや、せめてルイーサ救出してからにしようよ。

 

「おのれぇぇぇぇぇえ!」

「バインド!」


 あたまに血が上っている男1はルイーサ目掛けてナイフを振り下ろすも、リオニーが咄嗟の魔法で動きを封じる。

 リオニーは呪い系や状態異常系の魔法が得意なイメージがあるな。

 これも闇属性の魔法なのだろうか。しかし闇属性の基礎魔法は攻撃技だったような‥‥

 というかコイツ、いくらなんでも短気すぎないか?

 

 おっといけない、思考が逸れたな。

 実力的にも人数的にもこちら側に分があるが、放置するのも面倒いな。


「ランハート、ちゃちゃっと倒しちゃってよ」

「ええ、ルイーサさんが可哀想です。この程度の輩相手にするなんて造作も無いでしょう」 

「ったく、わーったよ。やりゃいいんだろ」


 カタリナの圧により、半ば無理矢理ではあるがランハートと男1改めカールとの勝負が行われることとなった。

 

 所変わって、俺たちは武道場にいる。

 ランハートとカールの決闘が行われるのだ。

 ルールは簡単。先に降参するか、気絶した方の負けだ。


「いいか?負けた方が勝った方の言う事を一つ聞くんだ」


 カールが自信に満ちた表情でそう言う。

 二人の実力差は歴然だが、なぜそこまで自信に満ちているんだ?

 

「まったく人騒がせなこった」


 隣でそう言うのはカーティスという名の兵士。

 ルイーサ捜索に駆り出されたレスタルク私兵団の分隊長らしい。手の空いている教師がいなかったため、彼が呼ばれたそうだ。

 ヘラヘラと笑っており、背中には大きな剣を下げている。


「実力差的に奇襲した方が良くね?」

「それには同意ですね。カールが真正面から太刀打ちできる相手ではないですからね。その点不意打ちならば高確率で殺められます」


 確かにそうなんだが‥‥

 カタリナとランハートの関係性がわからん。実力を認めてはいるのか?


「こんなもん最初から結果が見えてるのにな。そこまでランハート君に執着する意味あるのかね」


 それに関しては同意見だな。  

 正直何故ランハートなのかがわからない。

 因縁があるならば別だが、ランハートは知らないらしいし。


 とか考えていたら、試合が始まった。

 すでに昼休みになっているので、気がつけば周りには人だかりができていた。

 

 もちろん、二人が持っているのは訓練用の武器である。

 カールは槍、ランハートはナイフに手をかける。


「はじめっ!」


 いつの間にか審判になっていたカーティスが叫ぶ。

 それを合図に、戦いの火蓋が切って落とされた。

 

「せりゃぁぁあ!」

 

 カールが槍を構えて走り出す。

 ランハートが間合いに入ると、乱れ突きを放った。

 目で追えない速さではないな。

 動体視力が平均以下の俺が言うんだ。もちろんランハートに避けられない筈がない。

 

 その後は、カールの猛攻をひたすらランハートが避けるという構図が続いた。

 得物が短いからか、ランハートも攻め兼ねている感じだな。

 ま、このままならジリ貧でカールの負けだろう。


 と、誰もがランハートの勝利を、心のどこかで感じていた時だった。

 ランハートがカールの後ろに回り込み、体を固定した。


「俺の勝ちだ。諦めな」


 普段のランハートからは考えられないようなドスの効いた低い声でそう呟く。


「そのまま押さえとけぇえ!」

「なっ‥‥」


 突如叫び声が響き渡り、聞こえた方へ目をやると男2改めロスが怪しく光る宝石を持ち、カールの方へ飛び出した。

 カールの表情を見るに、ロスの独断だろう。


「げ、なんかまずい気がする!」


 異変にいち早く気が付いたカーティスが剣を抜き、走り出す。


「サンダーショック!」


 雷を纏う剣を一振りし、ロスにその雷の一波が命中する。

 痺れさせる能力があるのだろう、その一撃でロスの体は硬直した。


「ま、まずい!」


 ロスは宝石を捨てようと試みるが、痺れた体がそれを許さない。

 予めタイミングが定まっていたのだろうか、宝石は紫の光を放つ。 

 その光は瞬く間にロスの体を包み込んだ。


 暫くして光は消え、そこには変わり果てたロス。いや、ロスらしき人物が立っていた。

 体は薄紫に変色し、目は真っ赤になっていた。

 さらに、歯は尖っており、筋肉の増した体には不気味な模様が巡っている。

 とても人間とは形容し難い何かだった。例えるならば悪魔だろうか。

 まさか、宝石に飲み込まれたとかじゃないだろうな。


「ギュオォォォォオ!!」


 ソイツは、雄叫びをあげランハートに顔を向けた。

 まずい気がするな。ヤツからはとても理性というものを感じられない。

 

「皆、逃げろ!」


 ロスの放ったパンチを辛うじて受け止めたカーティスが叫ぶ。

 その声を合図に、観客は蜘蛛の子を散らすようにして逃げていく。

 


「黒影の大海よ、彼の物を飲み込む罠と化せ。シャドウスチールトラップ!」

 

 エマの魔法が放たれる。ロスの足元が暗く染まり、影でできたトラバサミが出現する。

 何!?弾かれた?

 エマの魔法が効かないとなると厄介だな。


 加勢したいのは山々だが、生憎今は武器を持っていない。

 逃げずに見ている人もぼちぼちいるので、人の多いところで創造するのもあれだし。

 まぁ、流石は分隊長といったところか、状況は優勢だ。

 取り敢えず観察でいいだろう。ランハートは腰を抜かしたカールを守るように立っているし、俺のクラスの生徒達も止まっているしな。


 しかしロスは急にどうしたんだ。

 見たところ、あの宝石は人間を魔人か何かにする道具なのだろうか。恐ろしい道具が存在するもんだ。

 それにカールを魔人化しようとしていたが、仲間じゃなかったのか?

 わからんが、カールは利用されていたと見てよさそうだな。


「ギャウ!」


 そう考えているうちに、ロスの断末魔が響く。

 見やると、カーティスが胸元を深く切った後だった。


「ふぅ、一安心だな」


 被害も出ていないしな。ロスは‥‥元に戻るのか?

 戻らなくても自業自得か。

 観衆も歓声をあげており、ランハートはカールを起こそうとしている。

 その時だった。


「ぐわっ!」


 ロスの巨大な手が、剣の血を拭っていたカーティスの背を思いっきり殴った。 

 ロスの傷口から出た怪しげな紫の煙がロスを包んでいた。

 さっきよりも一回り大きくなっているが。‥‥まさか、変身したのか?あるあるな展開だが。お前は後何回変身を残しているんだ?

 

 見ただけでわかる、コイツ、只者じゃない。

 吹き飛ばされたカーティスは壁に体を打って気絶しているみたいだし。‥‥気絶だよな?

 とにかく、この場で戦える人間がいないのだ。ランハートも持っているのは訓練用の武器だし、他の生徒達も武器を持っていない。

 

 ‥‥やむを得ないか。

 ゆっくりとロスの前まで歩いて行く。

 ロスも俺に気が付いたみたいで、俺に向かって咆哮する。

 手元に手頃な刀を創造し、ロスに向ける。

 周りがざわつくが、‥‥もう知ったこっちゃない。

 

 ロスが足を掬うかのように、その太い左腕で俺の足元を薙ぐ。

 それをロスに向かって跳んで躱す。

 そのまま左腕を斬りつける。こんな太い筋肉の塊を豆腐のように切ることができるなんて半端ないなと改めて思う。

 切り口からは、血の代わりに紫の煙が立ち上る。

 ロスの叫び声が響き渡る。 

 右腕が俺の頭めがけて飛んでくる。

 しかし、下に潜り込んで顎の下を刺す。

 叫びはせど、倒れる様子はない。しぶといな。

 

「オ、オノレ、ランハート‥‥」


 そう呟くロス。なんだ喋れるのか。

 だが、理性が戻る兆しはない。

 そこまでランハートを恨む理由がわからん。てか、悩んでるならそうだんしろよ。

 なんのために教師がいると思ってやがる。


 そう思ってると、ロスが体当たりをしてくる。なんだ、捨身か?

 相変わらずお粗末なことで。

 よし、刀といったらあれだな。一度刀を鞘に収める。

 そして姿勢を低くし、タイミングを見計らって、抜く!

 そう、居合だ。


「一人で悩むな。相談しろ。そのための教師だ」


 ロスと俺は位置が逆転するような形になり、ロスは体から崩れ落ちる。

 もう変身しないよな。

 ‥‥よし、大丈夫そうだな。


「「ウオォォォォオ!!」」


 周りから歓声が湧き上がる。

 動揺と興奮が織り混ざったような声だな。

 

「「英雄様の復活だぁ!」」


 英雄?そんなこれしきで大袈裟だろ。

 ま、言われて嫌な気分はしないけどさ。

 

「まさか先生があの英雄だったとはな」


 ん?あの?

 言われたのはこれが初めてだが。


「まさか先生は伝承の英雄なのですか!?」


 伝承?なんだそれ。


「「英雄様!英雄様!英雄様!」」


 巻き起こる英雄コール。


「ちょっとまっ」

「「英雄様!英雄様!英雄様!」」


 困惑する俺の顔を見て察したのだろう。

 エマが過去一ニヤけた顔で、


「よっ英雄様」


 なんて言いやがる。

 ああもう!


「先生は英雄じゃありません!」



やっと英雄と呼ばれました

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