幕間1 お嬢様の家出
これからは5話に1話、幕間を挟もうと思います
この世界ではかつて、勇者と魔王が争い続けていた。
勇者はその侵攻を防ごうと。
魔王はその領土を広げようと。
彼らは人間、魔人からそれぞれ信仰を受け、その者の為に戦った。
それももう二十年前の話。
今では‥‥
「ちょっとあなた!洗濯物は表を向けてって何回言ったらわかるのよ!」
「す、すまん。すまんからその剣を収めてくれ‥‥」
かつて魔王と呼ばれ、人々から恐れられていた存在は、勇者の尻に敷かれていた。
勇者と魔王は相対時にお互い一目惚れ。
そのまま結婚するに至っていた。
その結果、元々よく思われていなかった女勇者である彼女は、さらに国から忌み嫌われるのだが、魔人の侵攻が止まったのは彼女のお陰との声もある。
「はぁ、またやっているわ。痴話喧嘩は犬も食わないとはこの事ね。静かにして欲しいわよまったく」
不満を口にする少女はミランダ。
そう、勇者と魔王の間に産まれた子だ。
艶のいい漆黒の髪に白い角がよく映える。
「いいじゃないですかお嬢様。喧嘩するほど仲がいいとも言うんですよ」
真っ黒のタキシードに身を包み、穏やかな笑みを浮かべるのはミランダ専属執事のゴードンである。
傍から見れば爽やかな青年だが、何年生きているのかはわからない。
なんせ、魔人は人間の何倍も長生きするのだから。
「それに、昔からしたら随分と平和的ですよ」
呆れた様な顔で、部屋を出ていくミランダ。
「じゃあ出かけてくるから」
「絶対にダメじゃ!」
「そうよ!連れ去られたりしたらどうするの!」
ミランダの何気ない言葉に過剰反応する二人。
これがミランダの悩み。過保護なのだ。
「やっぱり仲良しですね」
ゴードンが微笑みながらそう言う。
そんなゴードンに苛立ちを覚えたミランダは自室に篭った。
「はぁ、外の世界はどんなものなのかしら」
窓縁に腕をかけ、ため息まじりに呟いた。
「英雄が来たぞ!」
見張りがそう叫んだのを皮切りに、場内が一気に騒がしくなった。
「英雄?最近噂になっていたやつかしら。兵士に聞いたことがあるわ。なんでも、伝承の英雄が復活したらしいわね」
部屋からピョコりと顔を覗かせたミランダはあることに気がついた。
これは城を抜け出す絶好のチャンスなのでは?
普段は城周りの見張りが厳しいが、今は英雄に気を取られている。
「‥‥もうお父様とお母様にはうんざり。行くしかないわ!」
ミランダの背に、漆黒の翼が現れた。
窓に手をかけ、飛び降りる。
この日、彼女は初めて世界に降り立った。
驚くほど思い通りに物事は進み、彼女は平原を道なりに歩いていた。
初めてみる植物に一つ一つ目を輝かせながら歩く。
「お、じ、!お嬢様ーーーー!」
背後から嫌な声が聞こえる。
振り返ってみると、後ろからゴードンが全力で走って来ていた。
ミランダは全力で逃げようと試みるが、あっさりと捕まってしまう。
「どうしてここが!?」
「偶々窓から見えたのですよ」
「やだ、帰りたくない!」
「???帰るなんて一言も言っていませんが‥‥」
予想外の言葉に目を点にするミランダ。
「久しく外には出ていませんでしたからね!心踊っています!」
「そしたらお父様に怒られるわよ」
「死に物狂いでお嬢様を探していたといえば大丈夫でしょう」
ゲスいなと感じつつも、放浪できることに喜ぶミランダ。
「取り敢えずこの街に行ってみようと思うの」
‥‥こうして、箱入り娘と執事の冒険が始まった。




