70 慶次免職
大変遅くなりました。
色々と手を尽くして尋問したのだが、女は頑として自分の正体を明かさなかった。
それどころか、捕まってからと言うもの、一言も言葉を発していない。
仕方なしに牢に押し込んでおいて、明日、清洲に連れて行こうと言うことになった。
だが、次の朝起きてみると、女はどういう手段を使ったのか自殺していた。
手足を木枠で括り、猿ぐつわを噛ましていたのだが、それでも死んでいた。
どうやら服毒自殺らしい。
恐らく歯に仕込んだ毒を、猿ぐつわのすき間を突いて飲み込むことが出来たのだろう。
その証拠に犬歯が1本無くなっていた。
何とも凄まじいものだな、忍びというのは。
ウチにいた茂吉ってヤツ、大丈夫かな?
上手く馴染んでくれると良いんだが。
手掛かりらしい手掛かりは一切無く、誰の命令で何を探っていたのかも分からない。
ただまあ、探られる理由はいくらでも思い当たるので、警備を厳重にする以外今のところ手立てがない。
その朝の会議で、海老蔵に警備の人数を倍にしてもらうことにしたのと、前田慶次君の正式採用が決定した。
では、慶次の武将スペックチェック!
前田慶次利益
年齢19
織田家:武将
所持金:1020
総合レベル:13
思想:革新
宗教:なし
名声:70
使用武器:豪気皆朱槍
領地:なし
居城:荒子城
能力値
統率65、武力93、知略70、政治34
体力92、腕力91、技量78、乗馬9、砲術4、走力8
常駐スキル:傾奇者、鑑定
製造スキル:なし
戦場スキル:皆朱の槍
わぁお。
さすがは天下一の傾奇者。
統率と政治以外は柴田さんに匹敵するスペックですな。
ただし、柴田さんは既に40を過ぎ老境へと向かうのに対して、これからまだ伸び盛りの19歳。
てか、同い年だったんかい。
絶対年上と思ってたわ。
「これからよろしくお願いします」
「仕方ねぇな、こんな別嬪さんに頼まれちゃ、断れねえや」
「おいおい、雇い主より偉そうだぞ」
叔父の前田利家が慶次の肩を叩いて注意するが、慶次は聞く耳を持たないようだ。
「雇い主っつっても、俺は家臣になったわけじゃない。対等な立場で金で雇われてるだけだからな、お互い持ちつ持たれつで良いんじゃねぇかい?ねえ、吉子さん」
「お前!」
又左君はちょっと考えが硬いのか、慶次の言っていることが理解出来ていないようだ。
俺も最初、その物言いに驚いたが、俺としてはそう言う立場の方が気楽で良い。
「いや、慶次の言う通りだよ。こっちは金を払ってお願いしてるんだからね」
「いや、しかしそれでは…」
「下々の者に示しが付かない?」
「ええ」
「私はねぇ、領主ってそんなに偉いのかなって思うんですよ。確かに人を束ねて地域の運営を任されているけど、たまたまその能力がありその立場に就く機会があったと言うだけでね、普通にその辺に居るおじさんと変わらないんですよ」
「ほほう」
「もちろん人間として立派な人だと思える領主さんはたくさんいるでしょう。そういう人に対して尊敬する気持ちはありますよ。でも、それはその人を尊敬しているのであって、立場を尊敬しているわけじゃない」
「いや、それでも御領主様ですから、家臣に対してはきちんとしたけじめを付けないと」
「そう、家臣として生活まで含めて面倒を見る立場にある場合、確かに上下関係というのはハッキリしておくべきでしょう。でも彼の場合、用心棒としてお金を払ってお願いしているのです。お金という対価が無ければ、お互い別の1個人に戻るわけです」
「吉子さん!あんたの考え、分かりやすくて良いねぇ、俺からも宜しく頼むと言わせてくれ」
「い、いや…しかし」
「叔父貴よ、あんた頭硬すぎるぜ。よし!そうと決まったら飲もう!」
「え?朝から?」
ということで、まさかの朝から宴会である。
俺は生前、個人事業主(自営業またはプータローとも言う)だったので、昼から飲むことはしばしば有ったのだが、朝からはさすがに無かった。
お屠蘇とか、祝い酒的なものはチラッと飲むことはあったが、宴会は初めてである。
だからと言って嫌だというわけではない。
酒は嫌いじゃないからな。
ただ、一日丸つぶれになるのが嫌なだけなんだが、まあ一年のウチにそう何度もあることじゃないし、たまには良いだろう。
さすがに一日飲んでるわけにもいかないので、昼ぐらいにはお開きにしようと思ったのだが、どういう訳か俺がとんでもない酒豪だという話になって、「そいつは聞き捨てならねぇなぁ」と、慶次が飲み比べをしようと言い出した。
酒の勢いとは恐ろしいもので、ついうっかり「おっしゃ来〜い」と言ってしまった。
3時頃までかかって2人で3升飲み干した時は、さすがに気持ち悪くなって、こっちの世界に来て初めて、ついに自分からギブアップすることになった。
「わっはっはっはっ!ここまで付いてこれるヤツがいるとは思わなんだわ!愉快愉快!」
「ば、バケモノか……」
ゲームなのに気持ち悪くなるなんて。
それにしても慶次のヤツ、水のように飲みやがるな。
市井で出回っているどぶろくではなく、高級清酒だったので、あいつめ「こんな旨い酒ならいくらでも飲める」とか言って、グイグイと注がれる端から飲み干していきやがった。
財布にも痛かったが、明日まで酒が残ることは間違いないだろうし、明日の二日酔いの心配までしなくちゃならないとは。
他の家臣達は既に昼過ぎの段階で、流れ解散のような状態だったので、酒に自信があると思う者だけが残っていた。
ぶっちゃけ、俺と慶次と玉ちゃんの3人だけだったがな。
玉ちゃんも、決して強いわけではなかったが、慶次というキャラクターに興味があったのかもしれない。
だが、途中から呂律が回らなくなって、2時前に離脱してからは、完全に俺と慶次の一騎打ちとなっていたのだ。
こっちがグロッキーになっていると、慶次は「ちょっと風に当たってくらぁ」と言って、ふらりと出て行ってしまった。
いや、自由すぎるでしょ。
だが、こちらには咎め立てする元気はもはや無かったので、好きにさせるしかなかった。
俺は、そのまま自室に戻り、眠り込んでしまった。
目が覚めたのが、午前4時頃だったと思う。
あまりの寒さで、目が覚めたのだ。
布団一枚しか掛けておらず、それもいい加減に斜めに掛けただけだったので、肩と両足はすっかり冷え切ってしまっていた。
生身だったら絶対風邪ひいてるところだ。
いや、一応は生身なのか?
まあいい、おれはもう一回きちんと布団を掛け直し、再び寝る前に厠に行っておこうと、極寒の渡り廊下を通り、厠まで向かった。
すると、厠の手前の俺専用の調理場に人影がある。
むむ、さては羊羹のレシピを盗みに来た忍びか?
と、思ったが、背丈と煙草の臭いで慶次だと分かった。
「こんな夜中に、夜食でも漁りに来たか?」
「おや、吉子さん。お目覚めですかい」
「何してるんだよ、こんなとこで」
「いやぁ、昨日食った今川焼きが忘れられなくてね、ここで作ってるって聞いたもんでね」
嘘くせぇ言い訳。
何か裏が有りそうだな。
「何を調べてる?」
「そいつは人聞きが悪いな。別に誰かに頼まれて調べてるわけじゃありませんぜ」
「調べてることは否定しないんだね」
「おっと、意外に鋭いお人だねぇ」
「今川焼きが食いたいんなら作ってやるよ」
「へぇ!そいつは嬉しいねぇ」
「ここに来た理由を話せばだけど」
「理由ねぇ…」
おやおや、まさかと思ってカマを掛けたんだが、どうやら本当に腹に一物あったようだな。
「ちょっと厠に行くから、訳を話す気があるなら待っていてくれ」
「話せない、と言ったら?」
「厠に行っている間に、ここから出て行ってくれ」
俺が厠へと向かうと、後から「はぁ〜」と深いため息が聞こえた。
ため息をつきたいのはこっちだっつぅの。
まあ、ゲームなので別に本当にトイレに行かなくても大丈夫だったのだが、生前の習慣とは恐ろしいものである。
そして、トイレに行くたびに、しゃがまなくてはならないことにガッカリするのだが。
厠から戻ると、驚いたことにまだ慶次がそこにいた。
へえ、話す気になったって事か?
更に驚いたことに慶次は土間に下りて、冷たい土の上で俺に向かって両手を付いて土下座をしていた。
「苟も自らの雇い主に疑いを掛けられるような素振りをしたこと、お詫び申しあげる。真に申し訳ない」
「まあ、そんな土下座とかは要らないよ。訳を聞かせてくれるんだろう?」
「俺も漢の端くれ、依頼主の名は言えねえが、あんたの作る菓子が人心を惑わしていると聞いたもんでね」
「はあ?人心を惑わす?」
「それで、阿片でも仕込んでるに違いない、と言う話で、さるお方に頼まれてあんたの厨房を探ってたってわけだ」
「アヘン?バカバカしい!」
「確かに、実際に食べてそんなものは入って無いのは分かってたが、頼まれた以上調べないわけにいかなかったもんでね」
誰だ?そんなくだらない嫌疑をかけてくるのは。
浅井か朝倉か、はたまた斎藤か?
ただ、慶次が頼まれて断れないようなヤツって…。
あぁ、お濃さんか。
お濃さん本人と言うより、大殿様の代理であるお濃様の名を借りた、あの女忍びだな。
「それは綾乃って人じゃなかったかい?」
「そいつは言えねぇ。言えねえが、あんたは頭も切れるって分かったよ」
「そりゃ答えてるようなもんじゃないか」
「ただ、俺としちゃぁ、この依頼は実が無ぇと見た。ただのやっかみとしか思えねぇ」
「そうだねぇ。相撲の一件以来ずいぶんと恨まれたもんだよ」
「いやぁ!聞いたぜ。残念ながら、俺はその場に居なかったんだが、是非見ておきたかったねぇ、大殿様が負けるところを」
「あれはやり過ぎでした。反省してます」
「大殿様は全く気にしてねぇようだが……」
「まあ、お濃さんの場合、そうはいかないだろうね」
「おっと、これ以上喋ると、やぶ蛇にならぁ」
「で、どうするんだい?」
ここまで喋って、今さら元通りとは行かないだろうが、慶次はしばらく考え込んでいる。
だが、覚悟を決めたようにこちらにきちんと正対し、頭を下げてきた。
「俺としちゃあ、あんたの下で働けりゃ、色々と面白い世の中が見られて楽しく暮らせると思うんだが、漢としてこのままどっちつかずってのは気色悪くていけねぇ。短い間だったが世話になりやした」
「ふぅむ。そうか。こっちも腕の立つ用心棒を失って残念だよ」
「そいつは、有り難いお言葉だ」
「だから、こうしたらどう?お濃さんには正体がばれちまったと言ってクビにしてもらってさ、仕事にあぶれたところをウチで雇い直すってのは」
「ハッハッハァ!そいつは俺がそうとうな間抜けになっちまうねぇ」
「ダメか…」
「いや、面白いね。気に入った」
「ん?」
「そうと決まりゃ、早速クビにしてもらわねぇと」
「あ、あそう?それで良いのね?」
「じゃあ、ちょいとクビになってくらぁ」
と言って、今川焼きも食べずに、慶次は出て行った。
う〜ん。
本当に戻ってくるかねぇ。
ここまでお読みくださりありがとうございます。
次回はまた、連弩の話です。




