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52 年末

残念。

年を越せなかった。

 領地に戻ったのが25日。

 もうあと5日寝ればお正月である。

 本来なら旧正月になるわけだが、ゲームの世界なのでグレゴリオ暦っぽいカレンダーが使われている。

 つまり1年が360日で、ひと月はキッチリ30日である。

 だったら一週間も6日にした方が計算が楽なんじゃ無いかと思うが、そこはやはり身体に染みついた生活習慣と言うことで、週七日は堅持されている。

 まあ、染みついてるのは俺と、運営の人だけだろうけど。


 ※運営の人などいな〜い!


 そうですか。

 ちなみに、この時代年末年始の行事とか今と違うんですかね?


 ※基本的には年末に大掃除をして、身体を清めてから新年を迎え、年が明けたらお寺、神社に初詣に行き、お世話になってる大名や領主にご挨拶に行くということはこの時代でも行われておりました。

  ただし、陣を張って戦をしている最中などはこの限りでは無いと思いますが。


 まあ新築したばかりだし、今年は大掃除の必要は無いだろう。

 年始の挨拶と初詣か。

 信長さんのことだから、何かイベントとかやりそうだなぁ。

 近江の報告がてら、それとなく予定を聞いてみるかな。

 もちろん蕎麦とういろうを手土産にするのを忘れてはいけない。


 27日昼。

 清洲城に入ってみると、皆さん畳をひっくり返して、大掃除の真っ最中であった。

 こりゃ不味い時に来ちゃったかな?

 そう思ったが、信長さんだけは優雅にお茶を飲んでいた。

 なので、ういろうはちょうど良い茶菓子になったようだ。

 近江での一件を話すと、信長さんは膝を叩いての大喜びであった。

 特に長政君との鬼ごっこの話しがひどく可笑しかったらしく、しばらく腹を抱えて笑い転げていた。

 まったく自分の妹が袖にされかけたというのに。


 「まっこと、お主は面白い奴よのぅ。いっそのこと織田家の養子にならんか?」

 「それは…ちょっと…」

 「そうであろうな、良い良い、戯れじゃ。それよりも噂では堺の商人と誼を通じておるそうじゃな」

 「お耳が早いですねぇ。今井宗久といって、今は皮物を扱っている商人ですが、行く行くは茶器なども扱っていきたいと言ってました」

 「ほほう、茶の湯に詳しいのか?」

 「私は良く分かりませんが、本人はだいぶ嵌まっていると言ってました。目端の利く男ですので上総介様も気に入られるかと思いますよ」

 「ふむ、良かろう。年が明けたら連れて参れ」

 「承知しました」

 「うむ。して、何用で参った?」

 「は?」

 「ここまで来た訳は、年末の挨拶だけではあるまい」

 「あぁ、いや、特に用と言うこともで無いんですけど、年明けに皆さん初詣などに行かれると思いますが、上総介様のことですから何か趣向を凝らしているのでは思いまして…」

 「ファッファッファ!まっこと目聡い奴じゃの!恐れ入ったわ」

 「いやいや、とんでもございません」

 「さよう、取って置きの趣向を用意しておる」

 「やっぱり。で、その趣向とは…」

 「それはお主にも言えんな」

 「はあ、まあそうでしょうね。では当日を楽しみにするとしましょう」

 「それが良かろう」


 その後、自分の領地の開発具合などの話になり、あと二月あれば、あの沼地もある程度使い物になるかもしれないとの見通しを伝えると、「さすがは吉子じゃ」とお褒めいただいた。

 偉いのは俺じゃ無くて、小一郎だけどな。

 それ以外にも、馬車がほぼ完成しているが馬具と馬の扱いに通じた外国人がいないか探してもらっている話、天ぷら店が開業した話などをして、お暇することにした。

 帰りしなに信長さんが一声かけてきた。


 「予の思惑を感じ取り、探りを入れに来る聡さに免じて一つ教えてやろう」

 「え?」

 「残った者が勝ちじゃ」

 「??」

 「これで分からぬようならお主もその辺のボンクラどもと変わらぬということじゃ」

 「はは、恐れ入ります!」


 なに、残ったもの?

 はっけよーい?残った?

 もしかして相撲?


 ※その可能性が大ですね。

  信長公記でも相撲大会を数多く開いたとあります。


 相撲かぁ。

 俺女なんだけど。


 ※女相撲も開かれたと思いますよ。

  この時代ですから、もちろん神事として行われた物ですけど。


 当然熱田神宮だろうな。

 寒そうだな1月だよ。


 ※仕方ありません。

  古来から相撲とはそういうものです。


 なんかねぇ。

 嫌な予感がするんだわ。


 ※と言いますと?


 なんか、池田恒興あたりと組まされそうな気がする。


 ※あり得ますね。


 いやいやいや。

 困るでしょそれ。

 なんとかAI調節して、常識的な行動を取るように出来ないの?


 ※それをやると信長らしさが無くなりますので。


 傾奇(かぶき)過ぎるだろそれ。

 いやぁ。とたんに憂鬱になってきた。

 ビキニアーマーで取っちゃダメかな。


 ※駄目でしょうね。


 ですよねぇ。

 やれやれ。


 すっかり意気消沈して城に戻ると、岡部又右衛門と鐵之助が挨拶に来ていた。

 岡部さんは年明けから築城の方に専念するというので、ひとまずのお礼と後を部下に任せて去ることについての詫びであった。


 「いやあ、こちらこそ助かったよ。こんなことお願いできる人他にいないもんね。ありがとうございました」

 「いや、とんでもございません。こちらこそ楽しませてもらいました」

 「また、何かお願いすることがあるかもしれないからね。その時はよろしくね」

 「それは、願ってもないことでございます。大谷様のためならどこからでも駆けつけますよ」

 「そう言ってくれると嬉しいねぇ。じゃあこれ、餞別です」


 そう言って清酒と打ち立ての蕎麦を渡すと、涙を流さんばかりに喜んでくれた。

 そして、そっと打ち明けてくれた。


 「実は、これから大殿様の所に行くんですが、正月の3日に熱田神宮で奉納大相撲大会を開くんですけど、これまだ内緒の話でしてね、どうやら正月の挨拶に来た者に問答無用で参加させるつもりなんですな大殿様」

 「ああ、やっぱり」

 「おや、ご存じでしたか?」

 「いや、ちゃんとは教えてくれなかったけど、そうなんだろうなぁと言う話はチラッと」

 「さすがは大谷様、お耳が早いですな」

 「でもさあ、私一応女なんでね。どうなのかな?と」

 「あのお方には関係ありませんなぁ。せいぜい気をつけておくんなまし」

 「ありがとう、対策を考えておくよ」


 「それでは良いお年を」と言って、岡部さんは清洲へと帰って行った。

 だが鐵之助はまだ畏まったまま、座っている。


 「鐵之助はどうするの?正月は?」

 「恐れながら、大谷様。俺を雇ってはくれませんか」

 「ん?雇ってるじゃない。どういうこと?」

 「今はまだ、銭で雇われている身。主従となった訳じゃありません」

 「ああ、そういう意味。仕官したいんだ」

 「戦の役には立たないかも知れませんが、大谷様の夢に手を貸したいと、力になりたいと思ってます」

 「いや、それは有り難いけど、そうだなあ、武器の開発とかやりたいのかな?」

 「はあ、それが叶えばこの上ありませんが、なんでもやります」

 「そうか。わかった。そうとなれば名前がいるね」

 「いやいや、そんな物、恐れ多いです」


 意外なところから家臣ゲットだな。

 こんなに熱いヤツだとは知らなかった。

 小谷はもう使ったから中谷だな。

 早速スペックチェック!


中谷鐵之助

 1540年生

 年齢22

 大谷家:武将

 所持金: 620

 総合レベル:9

 思想:革新

 宗教:なし

 名声:10

 使用武器:鉄砲

 領地:なし

 能力値:

  統率54、武力41、知略72、政治58

  体力70、腕力51、技量62、乗馬4、砲術8、走力7

 常駐スキル:鑑定、意匠家

 製造スキル:鍛冶、製鉄

 戦場スキル:なし


 ふーむ。

 スペックはそこそこと言った感じだが、砲術と鍛冶、製鉄スキルがやっぱ大きいな。

 この意匠家ってのは何?


 ※色々と創意工夫をめぐらす人という意味です。

  突飛なアイディアを思いつき、形にできる人です。

  意匠家の上位スキルに発明家というのがありますので、それで何となくご理解いただけるかと。


 なるほどね。

 じゃあ、今みたいな仕事続けてれば発明家になるんだ。


 ※そうですね。

  発明家になると開発のスピードが上がり、政治力に+10のボーナスが付きますので、更に有能になりますよ。


 おお、それは是非ゲットしていただきたいね発明家。


 「と言うことで、苗字中谷でどうよ?」

 「ははぁ!ありがたき幸せ!!本日より中谷鐵之助、一生お供させていただきます!」

 「一生はちょっと…」

 「えぇ?」

 「まあ、頑張ってちょうだい」

 「はっ!」

 「それで住むところは…」

 「実は先日、工房のはす向かいに家を買いまして、そこに家族も呼び寄せたところでございます」

 「あれ?奥さんには逃げられたって聞いたけど?」

 「それが、大谷様の所でご厄介になってると聞いて、戻って参りまして、今は尾張屋さんで給仕をさせてもらってます」

 「あぁ、そう!それは良かったねぇ!ちなみにお名前は」

 「美紀と言います」

 「ありゃりゃ、苗字と続けて言わない方が良いな」

 「はい?」

 「いや、何でも無い、まあ家族一緒に暮らせてなによりだね、良かった良かった」


 いやあ、どういう風の吹き回しかと思ったら、そういうことか。

 どうやら奥さんには、雇われてるけど一時的なもの、という話はして無かったと見える。

 それで今になって、仕官することにしたんだろうな。

 まあ、そういうことならバリバリ働いてもらおうかね。

 バリバリで思い出した。

 ヤツならバリスタを作れるかも知れないな。

 バリスタの前にクロスボウを作ってみないと難しいかな?

 その前に、クロスボウとバリスタがどういう物か、こっちがしっかり理解しないとな。


 ※画像検索では構造まで分かるものは少ないですね。


 あ、でも、これだけあれば大丈夫だろ。

 理屈さえ分かれば何とかなる。

 別にこの時代にバリスタがあっても不思議じゃないだろう?

 なにせマケドニアが使ったとか、諸葛孔明が作ったとか言う話だったと思うからね。


 ※そうですね。

  問題は矢に何を使うかですね。

  今、弓で使われている木の軸の矢なのか、あるいは総鉄製なのかで構造も威力も違ってきますから。


 そりゃあバリスタを守城兵器として作るなら金属製でしょ。


 ※そうなると、だいぶチートな臭いがしますね。


 フッ、何を今さら。

 いずれは馬車にも搭載するんだから。


 ※ああ、それは危険ですね〜。


 フフフ。

 これで勝ったも同然だな。

 ようし明日、早速発注しよう。


 翌日の朝、早速鐵之助の家とやらを訪ねてみた。

 すると、何やら朝からバトルが始まっている。

 こりゃダメかな、出直すかな。

 ちょっとだけ覗いて見ようっと。

 すると、ちょうど鐵之助が門を開けて出てくるところだった。


 「あっ!これは大谷様!」

 「えっ?大谷様?ホントなの?」


 そう言って奥から、確かに尾張家で見かけたお姉さんが出てきた。

 そして俺の顔を見て、顔面蒼白になってその場で土下座した。


 「もう、尾張家でもそうだったけど、そんなにたいした人間じゃ無いんだから、普通に接してね」

 「滅相もございません。私のような素性も知れぬ女をあのような高給で雇ってくれる城主などおりませぬ」

 「あ、勘違いしないで。雇ってるのは町子ちゃんだから。町子ちゃんが必要だと思ったから、貴女にそれだけの給料を払った訳だから」

 「小谷様には本当に良くしてもらってます」

 「良かったじゃないか美紀。お前が認められてるって事だ」

 「あなたごめんなさい。てっきりいつもの嘘だとばかり…」

 「まあ、昨日までは確かに……」

 「おい!」


 俺は鐵之助を引っ張り、「言わなくても良いことは言うな」と釘を刺した。

 その意味が分かったのか、「申し訳ござらん!」と仕切りに頭を下げる。

 聞けば、先ほどまでの喧嘩も、鐵之助が俺に雇われたという話が嘘なんじゃ無いかと信じてもらえなかったためらしい。

 美紀さんは「見栄を張って家を買っても、私の給料は私のだからね!」と言って、自分の稼ぎを当てにされてると思ったのだろう。自分の食い扶持は自分で稼げと、かなり厳しい言葉を投げかけられたようだ。

 それに切れた鐵之助が「本当だっつってんだろ!」と言葉を荒げたところで、バトルへと発展してしまったようだ。

 共働き夫婦の悲哀という物を感じさせる話である。

 まあそれも、今日からは円満に過ごしてもらえることだろう。


 「それでさあ、こういう物があるんだけど」


 と言って、バリスタの絵図面を鐵之助に見せると、その瞬間、目に灯がともったようになり、食い入るように図面を見ている。

 そして、すぐに構造と目的を理解したのか、鉄の矢の飛距離を聞いて来たので、最低でも3町(約330m)できれば4町(約436m)ぐらい飛ばしたいと言うと、うつむいたままウンウンとうなずくいつもの仕草をする。

 そして、こちらを見て「やってみましょう」と言った。

 出来るとは言わないところがコイツらしいなとは思うが、その目は自信に溢れていた。




ここまでお読みくださりありがとうございます。

次回、相撲大会の予定です。

ひきつづきよろしくお願いします。

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