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45 小一郎大車輪

遅くなりました

 頂いた馬はちょっと変わった馬だった。

 全体に緑っぽいのと、体格が大きくて毛が長い。

 特に足元の毛がふさふさとしており、おそらくばんえい競馬なんかで使われる、荷馬車を引くための馬だと思われる。

 どうやら外国産の馬らしく、体高がどう見ても160cm以上あるな。

 俺もこの時代の女としてはでかい方で162cmあるのだが、背中の高さが完全に目よりも上にあるので、鞍と鐙(あぶみ)がないと乗ることすら出来ない。

 見かけによらず性格は大人しいようで、首をさすってやると鼻を擦りつけてきたりして、なかなか可愛らしい。

 オスということなので、緑色だし、俺の子供の頃のあだ名でもあるヨッシーと名を付けた。

 大人しいとは言え、まだ馴れていないだろうから乗るのは止めて、歩いて一緒に連れて帰ることにする。

 馬具は着けてもらったが、鞍はまだ着けずにおいた。

 まだ若い馬なのか、帰り道でも色々とあちこちに興味が移るようで、そう言う時はあえて厳しくした。

 誰が一番偉いのかを教える意味でも、最初の一歩が肝腎である。

 城まで半日かけて帰ってくる間に、かなり懐いてきたようなので、明日はこいつに乗ってみるとしよう。

 城に着くと、出迎えたみんなが馬のでかさに一様に驚いていた。

 多分現代のサラブレッドと大きさはあまり変わらないと思うが、フサフサの毛と濃い緑色の身体で、威圧感は半端ない。

 そして、困ったことに馬体がでかすぎて厩に入らなかった。

 天井までは高さがあるのだが、梁の位置が低すぎて、立ち上がって首をフルフルさせたら頭とかをぶつけてしまいそうである。

 仕方なしに天井が高い岡部さんたちの工房で、一時的に預かってもらうことにした。

 馬車用に調達した馬も近くにいるので、お友達も出来てちょうど良いだろう。


 馬を預けて城に戻ったところ、秀吉夫婦と小一郎が訪ねてきているという。

 ん?年末の挨拶か?

 こういう時、いつもなら町子ちゃんに頼んで蕎麦の一杯でも出してもらうんだが、千恵蔵君にはどうも頼みづらいよな。

 もう少し身の回りの事を手伝ってくれる人が欲しいところだな。

 秀吉達の話は、小牧山城の手配が一通り付いたというので、小一郎をこちらに一旦戻すということだった。


 「そりゃあ助かるけど、そっちはどうなの?」

 「なぁに、墨俣の方はだいたい元に戻ったし、伊右衛門がなかなか使えるヤツでな、今は色々経験を積ませて、将来の幹部候補にしようと思っとるんじゃ」


 伊右衛門とは山内一豊のことである。

 彼の所には現在、堀尾吉晴、木下弥助が家臣として働いているが、彼らには悪いが小一郎の代わりとなると、能力的にはだいぶスペックダウンになるのではないだろうか?

 だが、そんなことはお構い無しに秀吉は話を続ける。


 「それとな、吉子にも紹介しとくわ。入れや」


 そう言って呼び入れたのは、いかにも頭脳派という感じの若者であった。


 「浅野弥兵衛じゃ。寧々の妹の婿さんでな、信長さんのところで下働きをしとったんじゃが、親戚になったんでウチに来てもらうことにしたんじゃ」

 「浅野弥兵衛長吉にございます。以後お見知りおきを」

 「これはご丁寧に」


 なんとここで浅野長政登場である。

 まだ15才ということで、初名である長吉と名乗っている。

 さっそくスペックチェックだ。


 浅野弥兵衛長吉

 1547年生まれ

 年齢:15歳

 織田家:武将

 所持金: 350

 総合レベル:3

 思想:革新

 宗教:なし

 名声:5

 使用武器:刀

 領地:なし

 能力値:

  統率44、武力46、知略62、政治80

  体力65、腕力61、技量40、乗馬5、砲術0、走力6

 常駐スキル:なし

 製造スキル:なし

 戦場スキル:なし


 ほほう。なかなか政治向きのスペックですな。

 将来が楽しみだねぇ。

 こんなのが次々と来るんなら良いやね。


 「なんか、秀吉の所の家族はみんな優秀で良いなぁ」

 「何を言っとるんじゃ、自分の所の武将がどれほど出来が良いか見てから言わんかい」

 「えぇ?そうかなぁ」


 まあ、確かによく見れば、けっこうハイスペックかも知れない。

 そう言えば、どの武将も能力のどれか1つは70超えてるよねぇ。

 80超えが二人もいるわけだしな。

 贅沢と言うものか。


 「じゃ、小一郎は預けていくから、存分に使ってやってくれ」

 「また、お世話になります」

 「あ、こちらこそ」

 「ほいじゃわしゃ帰るからな。後はよろしく頼む」

 「はーい、どうも」


 秀吉達を見送り、小一郎と共に城へと入る。

 小一郎を使えるのはおそらく40日ほどだろう。

 その間にやってもらえそうなことと言えば、やはり治水事業だろうか。

 それとも、もっと短期間で効果が出る事業に就かせるべきだろうか、悩ましいところだ。

 一応本人に聞いてみるか。


 選択肢として用意したのは3つ。


 1.又右衛門を手伝って治水事業を進める。

 2.臨時の奉行に着き、内政を管理しつつ千恵蔵君を鍛え上げる。

 3.市場に投資をしながら、有力商人との関係構築。


 それを聞いて小一郎は、クスリと笑った。

 そして「全部やりましょうよ」と、言いやがった。

 なに言い出すかと思えば。全部!?

 冗談は吉子ちゃんだよ、ホントに。


 「大丈夫ですよ。投資は吉子様にも手伝ってもらいますけど、他の事業は全ておまかせを」

 「えぇ〜?ホントに大丈夫?」

 「私は出来もしないことは言いません」

 「よーし、言ったね。任せたよ小一郎」

 「はい、よろしくお願いします」


 ほんとに一人でやっちゃいそうだから恐いよなぁまったく。


 次の日からさっそく小一郎の大車輪が始まった。

 まずは治水事業からだが、既に又右衛門と川並衆らが盛り土などを開始しており、2月いっぱいまでかければ、3里ほどの距離の堤防は完成できそうだという。

 そこで、小一郎には水路の整備をお願いすることにした。

 さっそくこちらの治水計画を見て、設計の変更を提案してきた。

 一部の堤防を完全に締め切らず、すき間を空けた二重構造にすることで、堤防同士のすき間を水路として使おうという作戦のようだ。

 神様によれば、武田信玄によって作られた信玄堤と似たような構造なのだそうだ。

 凄いな小一郎。

 どこでそんな知識を得たのだろうか。

 そして、水路工事の補佐役として錦之輔を指名してきた。

 さすがに小一郎一人で全部出来るわけではないので、現場指揮官を錦之輔に任せて、自分は総監督のような役割をすることとなった。

 だが、やはり勘所では現地に出向いて直接指示したりしている。

 これで、効率が大幅にアップしているのが見た目にも分かる。

 さすがは土木・建築スキル+政治力99である。

 あれ?99?

 いつの間にレベルアップしたの?


 ※おそらく築城の下準備を全て終えた時点だと思われます。


 ほぉ〜、そりゃ少しぐらい大口叩いても納得ですわ。


木下小一郎(男)

 年齢22

 木下家:武将

 所持金:17620

 総合レベル:11

 思想:革新

 宗教:なし

 名声:70

 使用武器:刀

 領地:なし

 能力値:

  統率72、武力62、知略88、政治99

  体力77、腕力57、技量35、乗馬2、砲術0、走力7

 常駐スキル:目利き(鑑定の上位スキル)

 製造スキル:土木、建築

 戦場スキル:なし


 いやぁ、素晴らしい。

 これで、治水のスキルが有れば、土木のスペシャリストだね。

 そしてさらに、城に戻ると帳簿を引っ張り出して千恵蔵君にあれやこれやと指示を出し始めた。

 そして、一冊の書物を彼に渡すと、良く読むようにと言ったあと俺のところに戻り、では市場に出かけるとしますか、と誘ってきた。

 俺は「お、おう…」としか答えられなかった。


 商売の手を広げるにあたり、堺の商人達と懇意になることは大きな意味がある。

 いくら尾張で楽市楽座をやっても、顧客の数は知れているので、やはり大きく儲けようと思えば、どうしても豪商との繋がりを持たなくてはならない。

 応仁の乱以降、堺の町はどの大名の下に付くこともなく、商人達の手によって自治が行われていた。

 近畿周辺の大名が互いに牽制しあう中で、自由港として海外との貿易などで巨万の富を築き、その財力を元に都市の周囲に堀を巡らせ、堅固な防御施設を設けたことで、より一層独立した都市国家のような様相を呈していた。

 そんな堺との繋がりを持とうとしても、双方にうま味がなければ、なかなかここまで来て商売をしようとはしないだろう。

 そこで市場への投資をするにあたり、ちょうど堺から来ている商人がいるから、話をしてみようという事になった。

 いつの間にそんな情報を。

 どうやら織田が斎藤と一戦交えそうだという情報は、堺にも届いているらしく、軍需品の需要が増えることを見越して、尾張と美濃の境目に近いうちの領地に目を付けた者がいるらしい。

 その商人は今井宗久と名乗った。

 まあ、そんな有名人が!と思ったが、このころはまだそんなにメジャーじゃなかった。

 今井宗久が名を上げたのは、信長と知り合い、茶の湯を広めたからである。

 今はまだ一介の革製品の商人である。

 このころ宗久は既に茶の湯の世界に入っていたが、まだ大名などに広める事はしていない。

 あくまで公家や僧侶の間で広まっている文化として嗜んでいたのだ。

 まあ、いずれ有名になるだろうから今から良い関係を作っておいた方が良いだろう。

 扱ってる商品が革製品と言うことで、もしかしたら西洋の馬具について詳しいかも知れないと思い、聞いてみることにした。

 すると、今井さんは俺の領地でやろうとしていることにひどく興味を持ち始めたようで、「そら、おもろいことやないですか、ぜひ協力さしてください」と言って、馬車と馬の扱いに詳しいヨーロッパ人を探してみると言ってくれた。

 その言葉で、なにか急に目の前の霧が晴れていくような気がした。

 そして、今井宗久は「尾張家」で出してる料理にも興味を抱いていた。


 「先日、初めて天ぷら言うのを頂きましたけど、ごっつう旨いもんですなぁ。ぜひ堺でも流行らせたい思いましたわ」

 「あぁ、だったら「尾張家」の支店を作る、って言うのはどうです?」

 「ほぉ、支店でっか…」


 そう言って暫く考えていたが、こちらの意図に気付いたのか、ニヤリとして、「大谷様も抜け目無いでんなぁ、商人に向いとるんちがいます?」と言いながら何やら目録のような物を取りだして眺めていた。


 「支店いうのはまだ気が早いといいますか、まずは天ぷらを流行らすんが先やと思うんですわ」

 「なるほど、で、そのあとで天ぷらの老舗と言えば「尾張家」となると?」

 「えぇ、そういう順番ですわなふつう」

 「でも、先に堺で評判になったら、堺が老舗って話になるんじゃない?」

 「あいやぁ、ほんま、抜け目無いでんなぁ」

 「いやいや、そちらこそさすがは商売人」

 「なるほど、大谷様とはなかなかおもろい仕事が出来そうですんで、ちょっと真剣に考えまひょ。その話いったん持ち帰らさしてもらえまっか?」

 「別に急いでないから良いですけど?」

 「いや、こっちが急がなならんのですわ。これ程の名物、放っとくほうがおかしいやろうから、先越されん前に手ぇ付けとかんと」

 「ああ、今井さんの一存じゃ無理なのね」

 「そらそうですわ、これだけの話、まず納谷衆の会合にかけななりまへんのや」

 「まあ、それはそちらの問題と言うことで、こっちはいつでも大丈夫ですから」

 「へぇ、ほな、一旦堺に戻りますが、この市場に手前の店も置かしてもらえますやろか?」

 「それは願ってもないことです」

 「よっしゃ決まりや。ほな、今後ともご贔屓に」

 「こちらこそ」


 思わぬ流れで、堺の商人とのパイプが出来た。

 それもこれ以上を望みようが無いほどのパイプが。

 小一郎も「さすがは吉子様です」と、褒めること頻りである。

 彼だけではこういう話にはならなかっただろうしな。

 今回は俺がポイントを稼いだな。

 今井さんが「尾張家・堺店」で、どういう儲けを睨んでいるのかは分からないが、いわばこの時代の三つ星レストランである。

 上手くブランドとしてもり立てて、話題を作ってくれればお互いにうま味があるということだろう。

 ちょっと事態が動き始めたな。


ここまでお読みくださりありがとうございます。

ようやく出口が見えてきた感じですね。

次回、馬に異変が…

ひきつづきよろしくお願いします。

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