39 領地経営4
ちょっとダラッとした回になってしまいました
岡部又右衛門一行が吉又城に到着したのは、前田利家達と技を披露しあった翌日の夕方頃だった。
大工道具など自分達で数台の荷車に分けて運んできたので、かなり時間が掛かったようだ。
それでも、街道からこっちは道が広くて真っ直ぐだから助かりましたわ、と言っていた。
やっぱり道は真っ直ぐの方が良いよな。
荷物の量から、かなりの大所帯だと思ったのだが、連れてきた弟子は6人ほどで、こういう物は少数精鋭の方が効率が良いという話だった。
彼らには予定通り、鍛冶職人の鐵之助と同じ建物で寝泊まりしてもらうことになるので、その工房に案内すると、かなり町の中心地だったことに驚いたようだ。
領地が尾張のだいぶ外れなので、工房も山の中の小屋のような物を想像していたようだ。
意外に開発が進んでいる上に、飲食店も多いので、こいつは余計な金を使っちまうなぁ、と嬉しそうに悩んでいた。
そうそう、そうやってお金を落としていってもらえば、町もどんどん大きくなっていきますからね。
まだ必要な設備が整ってないこともあり、お互いの親睦も兼ねて俺と鐵之助と岡部さんで最近開店したばかりの蕎麦屋に入り、馬車の構想について意見を交わすことにした。
二人とも酒はいける口だというので、吉又の城下町ではすっかりポピュラーな酒として定着しつつある清酒をいただきながら、図面を拡げて話をはじめる。
最初は二人とも真剣に俺の話を聞いていたのだが、酒が進むに連れ、だんだんと話が横道に逸れて行くようになる。
この辺が潮時かなと、思い、じゃあ締めで蕎麦を一杯いただいて今日はお開きにしましょう、という実に健全なオヤジ吞みコースを目論んでいた。
いたのだが、岡部さんが蕎麦が気に入ってしまい、蒸籠を3枚平らげてしまったうえ、その他のおつまみ類も旨い旨いと頼むもんだから、酒量もどんどんと増えて、気がつけば閉店まで居座ることになってしまった。
今日は初日だし、最初に「俺の奢りだ」宣言をしてしまったため、こっちが支払うはめになってしまった。
俺が払ったんじゃ意味ないんだけどなぁ。
まあ、これがきっかけで蕎麦と日本酒の取り合わせを気に入ってもらえれば良いんだけどな。
おかげで次の日は、二人とも何を話したかよく覚えていない、とか言い出しやがって、結局今日も昨日と同じ話をすることになってしまった。
まあ、オヤジの世界では良くあることですが。
こっちが馬車の話をしている傍らで、岡部さんの弟子達と秀吉が小牧山城の建設計画について、細かい話を始めていた。
いちおう丹羽さんが建設の責任者だが、彼は他にもやることが多く、特に徳川との同盟については年明け早々にも締結するために、細部の詰めやら書類の取り纏めなどで忙しいのだ。
従って、実質秀吉がプロジェクトを丸投げされたような物である。
そういう意味では岡部さんがこっちに詰めてくれてるのは大変ありがたい。
そして、寡黙な男鐵之助は、設備もまともに整わないウチから何やらカンカンと作り始めていた。
かなりの天才肌のようだな。
上手くいくと面白いけどね。
バリスタなんかも作ってもらえないかな?
さて、着々とインフラ関係の整備が動き始めるなか、俺はと言うと意外にも法律の制定に向け、作業を開始した。
月が変わってからにしようと思っていたのだが、状況がいろいろ変わってきたので、人が揃うのを待っていられなくなったのだ。
もちろん法律と言ってもこの地域限定の条例みたいな物だが、商売を大々的に拡げようとすると必ずズルをする輩が現れる。
まあ、最初のウチは大目にみた方が、経済全体の発展には効果的という意見もあるようだが、こういう物は最初にキッチリ決めておかないと、後付けでやろうとすると必ず反発を受けるのだ。
規制を強化する前に恩恵を受けていた者たちは、他の土地に移動したり逆に当主を追い出したり、などという事態になりかねない。
最初からルールをきちんと決めておけば、あそこはそういう土地なんだから仕方無いと、従ってもらえるだろう。
錦之輔を当面の法度の制定、発布に向けての責任者とする、と本人に告げると、ものすごい強ばった顔を顔をして恭しくお辞儀をして「私のような者に務まる仕事ではございません」と言って断ってきた。
まさか断ってくると思ってなかったので、思わす「えっ?断っちゃうの?」と素で答えてしまった。
錦之輔はただ「申し訳ございません」と、繰り返すのみである。
どういうこと?
※この場合、中村錦之助さんは大谷さんの家族では無いから、お断りになったのだと思います。
はい?
家族でないといけないの?
※大谷さんは大名ではありませんので、大谷さんが作る法律はあくまでも大谷さんの家の中で通用する決まり事、程度の意味しかありません。
それが領地の領民を縛る法律だったとしても、大谷家の中の話なのです。
つまり、家の決まり事を家長以外の人が決められる訳が無いと言うことですね。
あ〜そういうことか。
俺が独立した勢力だったら、違ったのかな?
※大名で無いとしても、室町幕府に国主として認められており、他の勢力に属していなければ、その法律は分国法として認められるかも知れません。
ただ大谷さんは織田家の家臣ですし、決められるのはあくまでも家法・家訓まで、と言うことになりますね。
わっかりました〜。
勉強になるねぇ。
ありがとうございます神様。
錦之輔には、「ごめん、気の迷いだったから忘れて」と言って下がらせたが、なんともばつが悪いな。
仕方ないな、自分で考えるしかないのか。
ついでながら、何か参考になる物は無いですかね?
武家諸法度だと話が大きくなりすぎると思うので、もっと簡単なヤツで。
※先ほども説明したように、あくまでも国を治める立場の者としての分国法ですので、大谷さんのケースにあてはまらない物も多いと思いますが、一応ご紹介しておきますね。
武田信玄が制定した「甲州法度次第」と長宗我部元親の「長宗我部元親百ヶ条」を資料としてお渡ししておきます。
特に長宗我部家の物は今から35年後の物ですので、取り扱いにはご注意ください。
ありがとうございます。
よくあるよね、友達のノート丸写しして同じ所間違えちゃうという、間抜けなことが。
どうやら皆さん、鎌倉時代の御成敗式目というものを参考に作られた物が多いようで、わりと似たような文言が多い。
コピペとは言わないが、昔からそういったことは行われてきたんだと、これは日本人のDNAなんだと思い知らされたりもしたが、ともかく一晩かけて大谷家法度50箇条Ver.0.0.1をひねり出して取り纏めることが出来た。
次の日、皆に見せて意見を聞いたところ、色々と厳しい指摘が寄せられ、あっと言う間にVer.2.7.5まで行ってしまった。
特に厳しかったのが町子ちゃんと錦之輔だった。
たった50箇条の条文に120箇所も修正入れやがって。
あいつら恨みでもあるんじゃないか?
50箇条の内容については割愛するが、ともかくこれで商取引や土地・建物の取引などで不正をする輩を一掃出来ることとなった。
法律の制定と同じぐらいか、もっと重要な案件がある。
戸籍とそれに伴う身分証の発行である。
こちらも準備が整い次第、施行していく予定だ。
年明け早々にも実行できればと思っている。
これによって怪しげな流れ者が、諜報活動などをしにくくする効果があるし、人の出入りを管理することで、税の取りっぱぐれや取り過ぎなどを防ぐことも出来る。
領地経営では箱物やインフラ整備などに目が行きがちだが、こういう細かい部分こそが大事なのだ。
ふーやれやれ、と一服しているところに、鐵之助が何やら金属製の丸っこい物体を持って現れた。
「こんな物を作ってみたんすが、何かに使えますか?」
「ん?何これ?」
良く見ると、薄く延ばした鋼の板を渦巻き状に丸めた物を持って来た。
ゼンマイのような物だろうか?
ただ、思ったより頑丈で、ゼンマイとして使うには堅すぎるようだが、サスペンションとしてなら使えそうである。
待てよ、俺の馬車のイラストには竹の子バネもゼンマイも描いて無かったはずなのに、どうやって思いついたんだ?
実は大天才とか?
「鐵之助君!これどうやって思いついたの?」
「いや…何となく。使えないんなら良いです…」
「待って待って、使えないとはひとことも言ってないでしょ!凄いって驚いてるんだよ」
「はあ…」
「これって、簡単に作れる物なの?」
「そうすね、全く同じ物ってことすよね。…半時もあれば」
「凄いな、君!」
「そ、そうすか…」
なんか、これまで人生で一度も褒められたことがないけど憧れの女性教師に褒められて照れてるヤンキー、って感じのヤツだな。
ただ、このままではちょっと使いにくいので、竹の子バネとして完成させてもらいたいな。
口で説明しにくいから、絵にするかな。
そう思い、スラスラと3Dな感じで竹の子バネ完成予想図を描いてみせると、フンフンと納得したような顔をして黙って戻っていった。
「わかりました」とか「任せてください」とか言えよ、全く。
どんだけ口下手なんだよ。
寡黙なヤンキーが実は大天才かも知れないという期待を抱きつつ、工房まで視察を兼ねて訪ねてみた。
木工工場の方は機材の設置などがだいたい終わり、材料の木材などを置いておく所をどっちにしようかで話し合いをしているところだった。
まあ、その辺は専門家にしか分からないことだろうし、任せておくしかない。
さて、鐵之助君である。
鋼の板を不思議な形をしたハンマーで薄く延ばし、細長い板にすると、熱した状態で片方を万力に咥え、鉄の棒を使い器用にクルクルと巻いていく。
その際、竹の子状になるよう、少しずつ角度をずらして巻いていく。
形が決まったら水に浸けて焼き入れし、その後再び加熱し焼き戻しを行う。
その状態で寸法が変わってないか確かめる。
本当に1時間足らずで竹の子バネが完成してしまった。
横で一緒に見ていた岡部さんも感心した様子で、さっそく板を二枚持って来てバネに載せて、足で踏んでみたりしている。
なるほど、サスペンションは板バネじゃなくても、これで十分役に立ちそうである。
ただ、構造的には竹の子バネもコイルスプリングであるため、上下運動以外の揺れを生み出してしまう。
そのため可動域を限定させるスイングアームかストラット、あるいはその両方が要る。
なるべく構造は簡単な方が良いのだが、人が乗る以上ある程度の乗り心地も欲しい。
バネだけではいつまでもユサユサと揺れて気持ち悪くなってしまうので、オイルダンパーに代わる何かも考えなくてはならない。
それはさすがに急には無理だろうから、まずは竹の子バネを使った懸架装置の完成を急ぐべきだろう。
とりあえず、簡単に作れそうなのでスイングアーム式のサスペンションをスケッチにしてみる。
さっそく岡部さんとお弟子さんが喧々囂々と始める。
その脇で鐵之助は、黙々と蝶番を作り始める。
なかなか素晴らしい連携である。
まあ、その前に車輪が要るんだけどねぇ。
暫くは任せておいても大丈夫だろう。
そう思い、気まぐれに環状道路をプラプラと歩いてみた。
すると、結構皆さんがこっちを見て挨拶をしてくれる。
中には、「ありがとうございます」と土下座をする人までいる。
農家の人たちが年貢を初年度免除にしたんで、感謝してくれるって言うのは分かるけど、この人達商人だしねぇ。
税金が年収の3割じゃ安すぎたかな?
そんなことを考えながら歩いていると、新領地の方から泥だらけになった荒木又右衛門が歩いて来るのが見えた。
なんで?と思ったが、そういえばこの道まっすぐ行くと荒木邸だったな。
むしろ、向こうがなんで?って顔をしている。
「やあ、なんで泥だらけになってるの?」
「いや、どうもこうも無いですよ。あの土地は、とてもじゃないが開墾なんて無理ですよ」
「えぇ〜?そうなの?」
「掘っても掘っても泥しか出てきませんし、水もどこを流れているのか、そもそも決まった水脈など無いんじゃないですかね」
「そりゃ困ったなぁ、1万石の夢が消えてしまうじゃない」
「あの土地を開拓するより、これまでの領地を開発する方が見込みがありますよ」
「そうかぁ。なんか他に利用する手は無いかねぇ」
「私ごときにはとんと思いつきませぬ」
「分かった、ありがとう。調査はもう良いですよ」
「ははっ!助かります」
ふーむ。
そうか、あてが外れたか。
どうしたもんかねぇ。
ここまでお読みくださりありがとうございます。
出来れば次回で馬車を完成させたいけど、難しいかな?




