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37 職人気質

2020/02/11:誤字修正しました。

 「吉子はそれでええのか?」


 小牧山城建設の補佐役の話をしたところ、秀吉は若干不服そうな顔で言った。


 「いや、私としては問題は無いですよ」

 「じゃが小一郎が抜けると、そっちは困るじゃろ?」

 「大丈夫、当面は道路工事だけだから」

 「又右衛門殿によれば、なかなかに難儀な土地というお話。小牧山がさほど手間がかからなければお手伝いしたいところですが」

 「いやいや、ここは名を上げる好機なんだから、全力で当たらないとね」

 「ならば、小牧山がさっさと片付きゃええんじゃ、一月ぐらいで建てたるわ」

 「いちおう信長様の居城になる予定なんだから、あんまりいいかげんな物も建てられないよ」

 「そうですねぇ。墨俣でさえきちんと城郭の形になるには2ヶ月近く掛かってますからね。もっと規模の大きい小牧山はさらに掛かると見るべきでしょう」

 「なんかええ手は無いんか、小一郎」

 「う〜ん。墨俣には川がありましたから、上流から組んだ部材を流す手が使えましたけど、今回は…」

 「いや、だからこっちは大丈夫だから」

 「ワシの出世よりは吉子が心配なんじゃ。三月で結果を出せ言われたんじゃろ?」

 「そうです、今回はきちんとやらないとまずい気がします」


 なんだか、ずいぶんと皆さんに心配されてます。

 まあ、成り行きまかせでここまで来たからな。

 心配になるのも分からなくもないけどな。


 「小牧山城を一ヶ月でかぁ」

 「今から建てられれば良いんじゃがの」

 「国境(くにざかい)に近いから徳川を刺激しないようにするためなんでしょうけどね」


 こういう時、現代人である俺は早い工事法と言えば、プレハブとか考えちゃうんだけど、この時代でも可能なんだろうか。


 「ねえ、他所で建てておいて、後から持って行くって出来ないの?」

 「ん?どういうことでしょう?」

 「壁とか櫓とか、予め別なところである程度作っておいて、さあ建てるとなった時に、それを持って行って組み上げるだけにしておくって言うのは?」

 「ふむ、どうやって運ぶのかさえ解決できれば、不可能ではありませんが」

 「そっか道かぁ」

 「今度頂いた吉又城の東側というのはどのくらいの広さなのです?」

 「30町歩というから、大した広さじゃ無いけど、東側は中島城の城下の近くまであったかな」

 「ふうむ、さすがにここから持って行くのは無理か」

 「そういえば小牧山の近くに廃城になったところがあったでしょえーと…」

 「岩倉城ですか?」

 「そう。あそこは川も流れてたし、材木も運びやすいんじゃない?」

 「その手じゃな!さすが吉子じゃ」

 「そうですね、あそこでなら築城のような真似をしても、奇異には思われませんね」

 「それが出来れば一月とは言わんが二月ほどで完成できるやも知れんな」

 「ま、信長さんと奉行の丹羽さんを説得できればだけどね」

 「そのくらい、やってのけたるわ」

 「何とか希望が見えてきました」

 「いやいや、こちらこそです」

 「なに、我らが吉子のためじゃ。なんぼでも手を貸すがな」


 いやあ、我らがって…こっぱずかしいな。

 「ありがとうございます」と礼を言って、みんなでそのまま清洲へと向かう。


 清洲に着くと、まずは信長さんからもらった新しい鉄扇を受け取りに武器屋に入った。

 さっそく鉄扇を手に取り、スペックをチェックする。


 ※専用武器、「烈風孔雀翠扇」を入手しました。

  戦場スキル:二刀流を獲得しました。


 おおっ!二刀流?

 バージョンアップじゃなくて、二つ使えってか!

 それと、けっこうチート臭い武器だぞ、これ。


 烈風孔雀翠扇

 種別:鉄扇

 武器レベル:4(使用者レベル15〜23)

 攻撃力:50

 属性:風

 スロット:3(使用済み2、空き1)

 特技:使用者は二刀流を獲得

    他の属性の鉄扇と合わせて使うことで攻撃力25%アップ


 ちなみに前の武器のスペックはこちら。


 火炎鳳凰緋扇

 種別:鉄扇

 武器レベル:3(使用者レベル8〜15)

 攻撃力:38

 属性:炎

 スロット:2(使用済み)

 特技:攻撃範囲拡張



 ※新たな必殺技「火炎大竜巻」が発動可能になりました。

  これは術者を中心に半径25m、高さ40mの炎の竜巻を発生させ、範囲内の可燃物を焼き尽くす大技ですので、使い方には注意してください。


 いや、聞くからにヤバそうな物なので、どっか広いところで試してみます。

 しかし、もはや妖術の領域ですな。

 それにしても、攻撃力がだいぶアップしてるな。

 ただ、火炎放射が使い勝手が良かったんで、使い方を覚えるまでは、今の武器がまだメインかな。


 ※ちなみにレベルの低い武器を打ち直してバージョンアップすることも可能です。

  その場合、名人クラスの鍛冶職人と高級玉鋼が必要となります。

  また、スロットに入っていた属性や技能もリセットされてしまうので、ご注意ください。

  また、鉄扇本体に属性を仕込むことも出来ますが、その場合属性付きの玉鋼が必要となります。

  かなりの高級素材ですので、新たな武器を買った方が安い場合もあるかも知れません。


 別にレベルの低い武器でも使えないわけじゃ無いでしょ?

 現にこれまで使えてたわけだし。


 ※そうですね、ただ、本来の実力が発揮できないと言うことにはなります。


 そうですか、ま、お金が貯まったら考えてみます。


 さて、ついでに武器屋の親父に手の空いている鍛冶職人がいないか聞いてみたところ、あいつなんかどうだ?とばかりに、店の隅で暇そうにしている男を親指で指さした。

 その男は鐵(てつ)之助といって、腕は確かな職人なのだが、実用性の無い変わったものばかり作るので、生活は貧しく女房にも逃げられたという。

 なんでも先の割れた釘とか三つ叉の鎹(かすがい)とか、アイディアは面白そうなんだけど使い道が無い、または使い方が分からないものばかり作っては、周囲に使ってみてくれと持ち込んで、結局使われずに放置されていることがほとんどだそうだ。

 やらせてみないと分からないが、けっこう適任者なんじゃないか?

 いちおう馬車のイラストを鐵之助に見せてみると、それまで三日放置したサンマみたいな目をしていたのが、みるみる目が輝きだして、是非手伝わしてくれというので、そのまま即(仮)採用となった。

 その場で仮採用の書類を作成し、それを持たせて吉又城に向かわせた。


 当初の目的の半分を達成した感じなので、続いて宮大工と船大工を探す。

 「船大工についちゃ川並衆にええ奴が居る」と秀吉が言うので、この辺で探すなら宮大工ということになる。

 熱田神宮もあることだし、きっと沢山いるんじゃないかと思ったのだが、どの辺で探したら良いのか見当も付かない。

 じゃあ、熱田神宮で聞くか、ということで、まず、お宮さんにお参りをして宮司さんに聞いてみると、この辺の仕事を取り纏めているのは、岡部又右衛門という人らしい。

 わりと有名な人らしく、将軍家の番匠頭をやっているそうで、熱田大工の総元締めのような役割を担っているようだ。

 そんな偉い人じゃなくても良いんだけど、と思ったのだが、そういう人と面識があっても損にはならないだろうと思い、紹介してもらおうと自分の名前を出したところ、既に織田家お抱えとなっているという。

 それも、そうか。

 ということなら、信長さんを通さないとまずいことになりそうだ。

 一旦清洲城に戻り、信長さんの予定を聞くとちょうど小牧山城建設についての最終決定会議を行っているという。

 なんと岡部さんもその会議に出ているという。

 ということなら、終わるまで待っていれば秀吉が招集されるかどうかの確認と、岡部さんとの面会の両方が一度に出来そうである。

 小姓の方に、待たせてもらうことを告げると、控えの間に通された。


 待つこと2時間あまり。

 現代人の俺にとっては地獄のような2時間だが、この時代の人は3〜4時間待つのは当たり前ぐらいに思っているようだ。

 小姓が呼びに来て、会議の終わったばかりの部屋に入る。

 するとまだ全員残っていらっしゃる。

 ん?会議終わったんじゃ?


 「吉子と秀吉は、まさに運を摑むための運も持っておるようじゃな」

 「はい?」

 「小牧山城普請の与力として木下秀吉を当てることと致した」

 「おお!」


 すかさず秀吉は上座にひれ伏し「ははぁ!謹んでお受けいたします!」と礼を述べた。


 「来月からここにおる岡部又右衛門と共に、小牧山城を一刻も早く築城出来るよう長秀を支えてやって欲しい」

 「え?来月から?」

 「左様、築城は徳川との盟が成ってから始めるが、その前に別なところで城を建てる準備を進めておくのじゃ」

 「なんと、我らと全く同じ考えじゃったとは!」

 「ほほう、それは興味深いの。誰の発案じゃ?」


 そう言って目を輝かせたのは、岡部さんである。

 ここは秀吉の発案にしておかないと、と思ったが間に合わなかった。

 「もちろん吉子…」と秀吉が先に言ってしまった。


 「秀吉の発案ですよ!」と慌てて被せて言い直すが信じてもらえなかった。

 「そうか、やはり吉子か!」と信長さんが膝を打つ。

 その言葉で、岡部さんの目がキラリとこちらに向かったのを感じた。

 そして岡部さんはこちらに躙り寄って来て、言った。


 「お初にお目に掛かります、岡部又右衛門以言(おかべまたえもんもちとき)にござる」

 「あぁどうも、大谷吉子です」

 「先ほどのお話、大変興味深い。具体的にはどのような腹積もりであったかお聞かせ頂ければ幸いにございます」

 「いやいや、そんなのは釈迦に説法というものでしょう」

 「言うて見よ吉子」

 「は!わかりました。私は城の作り方を隅々まで理解してはおりませんが、実際に建ててみて、ある程度のことは知ることが出来ました。その時感じたのが、既に部分的に組み上げた物を後から一度に纏めて組み立てた方が効率的かなと思ったもので」


 いやいや、実際にはプレハブとかユニット住宅とか知ってたからなんだけどねぇ。

 まさかそんなことも言えないしな。


 「なるほど、して、どの場所で事前に組み上げておくのが良いとお考えか?」

 「えーと、どこだっけ?岩倉城か。あそこで仮組みをしておけば城の修復だと思われるでしょうし、川が近いので木材も川から運べるので便利かなと思います。ただし、さあ築城となった時にすぐ持って行けるよう、事前に道路の幅を拡げておく必要があるますけどね」

 「流石にございます!まさしくワシの考え通り!」

 「いやいや、ただの素人考えですよ。実務では秀吉にかないませんから」

 「聞けば秀吉殿は墨俣に城を3日で建てられたそうですな」

 「そのとおり、ここにおる小一郎と一緒にやったことじゃが」

 「その際、上流から筏で仮組みした部材を流し、それを墨俣で組み上げたというのは真にございますか」

 「全てではないが、櫓や壁の一部はそうやって作ったんじゃ」

 「なるほど、大殿様、丹羽様、ご安心くだされ。これで築城開始から二月もあれば入城も叶いましょうぞ」

 「うむ、任せたぞ」

 「ははっ!」


 「して、吉子は何用でここに来たのじゃ?」と、信長さんが思い出したように聞いてきた。


 「あ、それがですね、このような物を作りたいと思っているのですが、岡部様のお知り合いで、こういう細かい物が得意な方はご存じ無いかお聞きしたいと思いまして」

 「ほう、なんじゃこれは?」

 「馬車という物で、西洋では普通に使われている物なのですが、牛ではなく馬で引く牛車のような物です」

 「これは何をする物じゃ?」

 「人や荷物を運ぶのですが、牛車より速く、馬や人より沢山の荷物が運べます」

 「なるほど、その方の城から清洲まで走らせたいと言っておったのはこれか」

 「はい、そうです」


 その時「よろしいかな」と横から岡部又右衛門が興味津々といった顔で、馬車の絵を見せろと言ってきたのだ。


 「あ、どうぞどうぞ」


 岡部さんはイメージスケッチと図面を受け取ると、暫くじっと見ていたが、意を決したようにこちらに向き直り言った。


 「これはなかなかに面白そうじゃ!ワシにやらせてはくれんかの?」

 「はい?でも岡部さんは城づくりで忙しいんじゃ?」

 「なに、既に城の絵図面は出来ておるのじゃ。ワシの仕事は半分は終わっとる」

 「いやぁ、それは岡部さんに手伝ってもらうのは有り難いですけど、よろしいんでしょうか信長様?」

 「岡部が出来ると言うておるのだ。大丈夫であろう」

 「有り難き幸せにござります」


 岡部さんは深々と頭を下げると、馬車についてかなり細かいことも聞いてきた。

 そして、「船大工など要らぬから、ワシに全て任せてくれぬか」と言う。

 えらいやる気だな。

 そういうことならと、鍛冶職人の鐵之助と協力して築城作業が本格化するまでの一ヶ月の間だけと言う話で、明日から早速吉又城で馬車の開発に当たってくれるそうだ。

 妙に話がトントンと進みすぎる気がするが、ともかくこれで馬車の開発に本格的に取りかかれるのだ。

 良しとしよう。



ここまでお読みくださりありがとうございます。

馬車の件は無理矢理に纏めに入ってますが、この話は長引かせても仕方ないので、悪しからずご了承頂ければと思います。


以言(もちとき)って読めないですよねぇ。

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