21 おたく訪問
すみません、遅くなりました。
9月15日現在、小一郎の宣言通り、4本の放射道路は全て完成していた。
環状道路もメインの商店街になる予定の道路を残し、ほぼ完成しつつあった。
そのせいか、道ができあがる端から家が建ち並びはじめている。
目聡い商人が良い土地を求めて買いに走っているので、若干土地の値段が上がりつつあるという。
ちなみに我が領地では既に楽市・楽座制を導入している。
当面は人口増加のための規制緩和策な訳だが、ある程度規模が大きくなると統制が効かなくなる恐れがあるので、どこかで締める必要があるだろう。
その辺の管理は経済のエキスパートを呼んでくるか、養成するかしないとな。
そんなことを考えながら、織田信長と松平元康それぞれの家臣と水野信元を引き連れ、メインストリートをゆっくりと進む。
皆さん道の広さと目新しさに、京の大通りのようだと頻りに感心するも、やはり気になるのは何の障害もなく一気に城門までたどり着けてしまうことで、防御に不利なのでは?という点であろう。
ただまあ、逆の見方をすれば、城に至る道はこの4本しかないという点だ。
ゆくゆくは各門の上に櫓を作るつもりだ。
さらにそこに固定式の連弩(いわゆるバリスタと呼ばれるクロスボウの大型版)を2〜3基設置し、押し寄せる軍勢を遠距離から一方的に攻撃する方策を考えている。
その辺の話は、信長さんにもまだしていない。
その連弩がまず製作可能かどうかという問題があるし、可能であっても、お金が懸かりすぎるようでは困るので、ある程度見通しが立ってから言うことにしていた。
だが、城に近づくにつれ、建設中の櫓が門のすぐ後にあるという、あまり見かけない構造を見て、信長さんはいち早く俺の真意を見抜いたようだ。
「なるほど、あそこから狙い撃つ訳か」
「ありゃ、バレちまいましたね」
「ほほう、ならばこの城を攻めるには、まず街を焼かねばならぬな」
「城の周辺部が武家町のようだが、逆に門の廻りを固め外と連絡出来ぬようにすれば簡単に孤立化できそうじゃ」
などと不穏当な発言が飛び出す。
まあ、どのみち防御はあんまり重視してないから。
しかし、松平元康はちょっと違う反応を見せた。
「ここまで道を広くした意味は、何でござろうか」
「荷車が2台すれ違ってもまだ人の歩く幅が残るようにしたものです」
「とはいえそんなに頻繁に荷車が通るものでもあるまい」
「うーん、仕方ない、まだ構想段階なんで言いたくなかったんですが、将来定期的に走る馬車と言うものを走らせようと思いまして」
「ばしゃ?」
「ええ、馬に荷車を引かせて、それに人を乗せて運べるようにするのです」
「ほう、馬に乗るのではなく荷車に乗るのか」
「まあ、荷物も運べると思いますが、主に人と考えています」
「それは面白い考えだが、武人ならば車になど乗らずとも、自分の馬で行く方が速かろう」
「武士はその方が良いでしょうが、この馬車は一般人が使うものです。お金さえ払えば商人や女性、農民も使うことが出来ます」
「なんと!そのようなことをして大丈夫なのか?」
「そうですね、そのために誰がどこに住んでるか把握する必要があるのですが、まだ人口がどんどん増えてる最中なので、ある程度まとまったら住民台帳というものを作って、住民一人一人を管理出来るようにしたいと思ってます」
「ほほぉ良く分からんが、大変そうじゃのぉ」
「それは、商人が荷物を運ぶときにも使えるのか?」
「まあ、専有した分のお金さえ払えば、ですかね」
「それでは、抜け荷などが横行するではないか」
「あー、そうですね、ただ領主の独占事業ってあまり無いので、不正を働くにしても取引の当事者の問題になるのかな」
※抜け荷とは南蛮の製品や麻薬などの、取引が禁止されている商品の密輸のことです。
あ、そういうことか。
勘違いしてた。
※更に言えば、戦争中の相手に戦略物資を密かに持ち出そうとしたり、その逆などの行為で不当に利益を得ようとする者が、現れやすいということですね。
まあね。
自由にするとそういうことになるか。
手荷物検査をやるしかないのかな。
「あの、まだ構想段階ですので細かい点は詰めてませんが、手荷物などを検査する仕組みが必要になるかも知れませんね」
「そうであろうな」
「しかし、それが実現すれば今まででは考えられんほど、人も物も行き来が活発になる。その結果様々な商売が発展をするであろうな」
「それは同時に悪しきものも多く呼び込むことになりますな」
「それはある程度仕方ないです。とりあえず法律を作って対処するしかないでしょうね」
それまで俺とゲストの面々とのやり取りを黙って聞いていた信長さんが、ニヤリと笑って言った。
「どうじゃ、面白き街であろう」
それに答える石川数正。
「左様、何も建てる物が決まっておらぬのに、道だけが整備してある街も珍しい」
「それだけ発展の余地があるということですね」
「ふむ、この先どうなるのかが気になることには間違いない」
それぞれ松平さん水野さんが感想を述べたところで、ちょうど門に到着した。
門の横で町子ちゃんと又右衛門がお辞儀をして待っていた。
又右衛門が前に出て挨拶する。
「此度は遠方よりお越しいただき、恐悦至極に存じます。某、大谷吉子様居城の普請役を務めております荒木又右衛門と申します。まだ普請の途中にて、狭き屋敷にしかお招きできませぬこと、ご容赦くださりますよう…」
「良い。承知の上じゃ」
「はは!」
「済みません、まだお見せできる状態じゃないんですが、どうぞお入りください」
「うむ、邪魔をするぞ」
今の感覚だと、コーヒーの一杯も出して、ちょっと会話をして、じゃあ今後とも宜しくって感じになるんだけど、こういう場合どうしたら良いんでしょうね?
お茶とか出すと、妙なことになりそうだしな。
だがしかし、俺の予想を覆し、町子ちゃんがやってくれました。
「お茶をご用意しましたので、先ずは皆様、御一服下さい」
え?この時代でお茶といえば、あれですよね、みんなで四畳半に座って順番にお茶を飲む。
って言うか、招いたの俺ってことになるなら、俺が茶を点てないといけないのか?
俺は慌てて町子ちゃんをつかまえ、小声で話しかけた。
「ちょっと町子ちゃん、茶の湯なんてよく知らないですよ。どうやって茶を点てたら良いかもわからないのに」
「大丈夫です。これを読めばすぐに出来るようになります」
そう言って「喫茶養生記」と書いてある本を渡された。
パラパラと捲った瞬間、何かにひらめいた感じがして、女神さまがお出ましに…。
※スキル書:「喫茶養生記」を入手しました。
効果:常駐スキル「茶の湯」の獲得。
譲渡した相手の友好度+10
※常駐スキル:「茶の湯」を獲得しました。
効果:茶会を開くことが出来る。
茶会の出席者との友好度+5
いやぁ、町子ちゃん、素晴らしい!
持つべきものは良く出来た部下だね。
俺が男なら絶対結婚してるね。
本当は男なんだけどなぁ。
それはそうと、ウチの屋敷に茶室なんて有ったかな。
結論から言えば、全て杞憂でした。
茶室は又右衛門がいつの間にか作っていたようだ。
実は又右衛門、実家が京都の商人だったらしく、戦乱を避けてこっちに逃げてきたのだそうだ。
なので、京で流行っている茶の湯は、いずれ全国に波及していくと分かっていたので、ついでに1部屋作っておいたそうだ。
偉いなぁ。
大したことないヤツと思っていた又右衛門だが、実は拾いものだったとか?
さらに参加した面々で、茶の湯に詳しいのは丹羽長秀ぐらいのもので、後に高価な茶器を買い漁るようになる信長さんも、この頃はまだ良く分からないものだったようだ。
俺のなんちゃって茶道でも、なんとか誤魔化せたようだ。
最後、城を出る頃にはみんな和やかな雰囲気になったのは良かった。
何か、建設中の城というのが、皆さんにとって良いものだったらしく、水野さんも「ワシも城が建てたくなってきたのう」などと言って、笑いを誘っていた。
別れ際に信長さんは「此度は突然押し掛けて迷惑を掛けた。だが良くやってくれた。一週間後に今一度登城せよ。その際、新たな身分を与えるので、身なりを整えて参れ」と言い残し去って行った。
えぇ?
新たな身分って何?
身なりを整えて、ッてことは、この格好じゃダメってことね。
これより上の衣裳って、えっ?十二単?
まさか、そんなものが要るって、官位をくれるわけ……無いか。
さすがにそれは無いな。
ただ、役職ぐらいはくれるのかも知れない。
それでも大変なことである。
女で、しかも源氏でも平家でも藤原さんでもない俺に、はたしてそんなことが起こるのだろうか。
そんなことより十二単って、どこで買ってくればいいんだ?
町子ちゃんに聞いてもさすがにそこまでは分からなかったようだが、呉服屋さんに聞いてみたらどうでしょうと言われ、次の日には尾張の呉服屋に駆け込んだ。
だが、出来合いの十二単など置いて無いそうで、頼んでから40日ほど掛かると言われ頭が真っ白になってしまった。
再びお濃さんに頼むわけにも行かず、途方に暮れていると小六が吉乃さんなら持っているに違いないというので、ダメ元で訪ねてみた。
すると、驚いたことに3種類も持っているらしく、一番明るい色の取り合わせの「かさね」を用意してくれた。
土下座してお礼を言うと、コロコロと少女のように笑って「他ならぬ吉子様のためですもの、この程度のこと如何ほどのこともございませぬ」と言って、快く貸してくれた。
信長さんも、この着物は見ていないはずだから、安心して着ていってくださいと気持ち良く送り出してくれた。
いやぁ、情けは人の為ならずだねホント。
※アイテム「吉乃様の十二単」を入手しました。
効果:自分より身分の高い物に対する友好度+5
出た。
神様。
このところアイテムゲットしてばかりだからな。
最近よく出てきますな。
※出てきてはお邪魔でしょうか。
いえいえ。
どんどん出てきていただきたいですよ。
どんどん。
※では適度に出ることにしますので、今後ともよろしゅうに。
よろしくってなぜ京言葉?
※……
さて、少し時間があるし、せっかく小折城まで来たので、敵情視察をかねて犬山城と鵜沼城の廻りを少し巡ってみた。
しかし、実際に目にしてみて改めて面倒な城が残ったものだと思う。
どちらも木曽川に面した小山の上に建てられた城で、木曽川側から攻めることは不可能である。
そしてどちらも90mほどの標高がある斜面の急な平山城である。
攻めづらく守りやすい、しかも城下町も発展しやすいという良いとこ取りのような城郭である。
ただ、この二つの城で言えば間違いなく防御重視である。
城下町については、発展してくれたらめっけものぐらいの感じである。
城下町に至る道でもかなり細くクネクネ曲がっており、見通しが悪いことこの上ない。
二つの城で違う点としては単純に敷地と規模が違うことであろう。
鵜沼城の方が小さいのだが、だからと言って攻めやすいわけでは無い。
むしろ小さい分、斜面が急で、攻城兵器など到底持ち込めないだろう。
登るのだけでもかなりの重労働である。
こんな所によく城など建てたものである。
馬から下りて鵜沼城の周辺をプラプラしてみると、けっこう茸などがいっぱい生えており、山の幸も豊富な感じである。
かなり大きめの舞茸を見つけたので、持って帰ろうとしたところ、後から咎める声がした。
あ、取っちゃダメだったかな。
振り返ると二十歳前後の猟師っぽい男がこちらを睨んでいた。
「それはワシが先に見つけたもんじゃ!勝手に取っていくな」
「あ、すみません、美味しそうだったのでつい…」
「お主、これが何か分かって居るのか?」
「え?舞茸じゃないんですか?」
「なんと!舞茸と申すのか」
「はあ、知らないで取ってたんですか?」
「名前は知らなんだ。だが、汁物に入れると旨いのでよく食べていたのだ」
「そうですね、炒め物や天ぷらでも美味しいですよ」
「う、うむ、で、てんぷらとは何じゃ?」
「あ、そうかまだだったか。えーとそうですね、小麦粉を水で溶いたものに舞茸を浸けてそれを油で揚げるんです」
「それがてんぷらというのか?」
「まあ、九州の方ではあったと思いますが」
「もそっと詳しく教えてもらえぬか」
仕方ないので例の手動プリンターで、簡単に衣の作り方と天ぷらに使える油を書きだしてあげた。
「いや、有り難い、これで籠城中の楽しみも増えると言うもの」
「ん?籠城?」
「左様、ワシはそこの城の城主じゃ」
「げ!まさか、お名前は大沢さんと言うのでは?」
「いかにも大沢次郎左衛門である」
「あらまあ」
さてどうしよう。
名乗るべきか、このまま帰るべきか…。
ここまでお読みくださりありがとうございます。
ちょっとご都合主義でしたかねぇ(^_^;)




