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20 進展

またまた妙な時間で済みません。

 浅井から返事が来たのが、書状を送ってから10日後のことであった。

 その間、坪内玄蕃が中心となって浅井家の関係者にパイプを作る作業を続けていた。

 まだ、派閥というほどにはなっていないが、織田と結ぶという案を検討に値すると考える者が何人か現れているそうだ。

 最初に取り付いたのが宮部(みやべ)継潤(けいじゅん)、次に阿閉(あつじ)貞征(さだゆき)、さらに遠藤直経も、やや同盟に傾きつつある、という感触だった。

 そのような情勢で、返事にはまずは代理人同士で会ってみましょう、と書いてあった。

 代理人とは即ち俺と、浅井方は遠藤直経が出てくるようだ。

 浅井長政は去年浅井家の当主になったばかりであるが、遠藤直経はその長政の傅役(もりやく)を務めてきたということで、信長さんで言えば平手政秀が出てくるようなものである。

 いきなり大物が出てくるとは、相当乗り気なのかと思ったが、玄蕃曰く、単なる敵情視察だという。

 遠藤直経は傅役と同時に調査部門のトップでもあった。

 伊賀の忍びとも繋がりがあるらしく、浅井家の諜報活動を一手に担っているという噂だ。

 こちらとしては交渉役が俺では格が違いすぎるのだが、柴田さんがいるので、それでどうにか釣り合いがとれてる感じだ。

 まあ、柴田さんは何もしないんだけどね。

 いちおう遠藤さんと会う日取りを決めたので、そのことの報告と、吉乃さんの詳しい経過報告のため、節さんを連れ清洲に向かった。


 清洲に着いて感じたのは、いつもと違って物々しい雰囲気だったことだ。

 どうやら三河松平との同盟話が大詰めに差しかかっているようで、三河の松平元康と知多半島の領主水野信元が清洲にやって来ているらしい。

 こりゃ、暫くは会えないかもなと思っていたが、信長さんはすぐに会ってくれた。

 まだ、取り掛かったばかりだから何とも言えないと前置きしながらも、先方の交渉役が遠藤直経と聞いて、気を良くしたようだ。

 そのまま進めよ、と言って軍資金を追加してくれた。

 節さんにも会ってもらい、経過は順調なことを報告すると、礼として曲直瀬道三の活動に資金援助を約束してくれた。

 節さん個人には信長直筆の感状と、蒔絵の入った高級感溢れる薬箱をプレゼントしてくれた。

 たかだか一女薬師に大名がここまで礼をすることは、この時代ではあり得ないことである。

 それほど感謝しているということなのだろう。

 節さんはこの後、もう一度吉乃さんの様子を見て、京に帰るというので、一緒に行こうとしたところ、俺だけ信長さんに呼び止められ、松平・水野との三者会談に同席せよと言われてしまった。

 自分じゃ格が足らないからと言ったが、特別に今から警護役に任ずるとして、無理矢理引っ張り出されてしまった。

 仕方なしに、節さんには一人で行ってもらうことになった。

 お見送りも出来ずに済みません。


 歴史上で清洲同盟が実現するのは来年の話である。

 ただ、桶狭間の戦い以来、水面下での交渉は続いていたのだ。

 なかなか合意できる線が見出せなかったのは、双方に敵同士だった時の遺恨が拭えなかったためだ。

 おそらくここに至るまで、信長さんが家臣一人一人を説得して廻ったのだろう、この同盟に掛ける意気込みが感じられる。

 俺をここに同席させたと言うことは、現在進行中の浅井との交渉も同じくらい大事なものと言いたいのだろう。

 経済的に豊かな尾張をほぼ掌握しているとは言え、三方を敵に囲まれて生き残れるものではないのだ。

 まあ普通、そういう交渉は家老ぐらいの身分でないと、やっちゃダメなんじゃないかと思うのだがな。

 松平元康とはもちろん後の徳川家康であるが、このころはまだ今川から独立したばかりの三河の一土豪に過ぎない。

 ただ、既に今川方の城を幾つか落としており、勢力として侮れないという判断があっただろうし、幼少の頃、織田方の人質として留め置かれていた時期があり、信長さんは当時の竹千代と吉法師時代に会っていることから、浅からぬ因縁を感じたのであろう。

 問題は水野信元である。

 正直、今の今まで名前を聞いてもピンとこなかった。

 織田家の家臣だとばかり思っていたのだが、武将名鑑で調べたところ、独立した勢力として頑張っていたようだ。

 桶狭間より5〜6年前には、水野氏も今川から攻められ、居城を包囲されるも、信長の救援により救われた経緯がある。

 なので、ほぼ織田に従属しているようなものなのだが、桶狭間以降、松平家とは刈谷城や石ヶ瀬川などをめぐって小競り合いを繰り返していて、今回の同盟の仲介役となったと言う話が、どういう心境の変化によるものか良く分からない部分がある。

 その辺も今回の面談で分かれば良いのだが。


 我々が面会場に入ると、既に松平・水野双方の面々が顔を揃えていた。

 この時松平元康は19歳。

 今の数え方でしかもグレゴリオ暦だと17歳という若さである。

 小柄で丸顔だが、目には鋭いものがあるという印象だ。

 だが交渉の実務者は石川数正である。

 飄々とした面立ちだが、何となく腹に一物ありそうな捕らえどころの無い人物、という感じだ。

 対して水野信元は、この時既に52歳。

 歴戦の猛者という感じで、私の言う通りにしてれば大丈夫という、貫禄に溢れている。

 水野さんところは本人以外、出席していない。

 あくまで、仲介役ということなのかもしれない。

 こちらの出席者は信長さんと俺と丹羽長秀に佐久間信盛である。

 俺だけが完全に浮いているな。

 こういう席なので、さすがにビキニみたいな防具で出るわけにもいかず、かと言って寧々さまに貰った服では町娘みたいなので、急遽お濃様に服を借りることとなった。

 実は濃姫に会ったのはこの時が初めてである。

 まあ、ゲームのイメージそのままなので妖艶な印象なのだが、名前の通り色々と濃い人ではありました。

 どうもお濃さんの持ってる服だと、濃い色の物が多いらしく、若い子に似合う物が無いとかブツブツ良いながらも、赤に紫の柄の入ったなかなか高そうな小袖を選んでくれた。


 「妾(わらわ)が返せと言うまで持っておるが良い」


 と、遠回しに上げると言って貸してくれた。


 「其方(そなた)からは他の娘とは違う空気を感じるぞえ」


 と、目の中に怪しい輝きを見せていたのが非常に気になる。

 初対面で男とバレるとも思えないし、まさかレズか?

 背筋に寒いものを感じながら、丁寧に礼を述べて逃げるように奥を出た。


 ※アイテム「お濃様の小袖」を入手しました。

  効果:名声値+10


 おっ。

 久しぶりですね神様。

 最近レベルアップもしてないので、すっかりご無沙汰だったからね。


 ※私があまり出しゃばると歴史にあたえる影響が大きすぎるので、控えるようにしました。


 それは誰かに言われて?


 ※……もちろん私が決めたことですよ。


 少し間があったよね。

 やっぱり上に誰かいるんだな。

 どうも怪しいな。


 ※それと、名声値が上がったことでレベルアップが可能になりました。

  ステータスを確認してください。


 おっ、そうかぁ。

 どれどれ。


○大谷吉子(女)

 年齢16

 織田家:武将

 所持金:6220

 総合レベル:14

 思想:革新

 宗教:なし

 名声:105(補正+10)

 使用武器:火炎鳳凰緋扇

 領地:吉子村

 能力値:

  統率76、武力74、知略93、政治86

  体力81、腕力61(補正+10)、技量52(補正+10)、乗馬6、砲術1、走力7

 常駐スキル:鑑定

 製造スキル:なし

 戦場スキル:看破、非道

 家臣:柴田勝家(織田家出向) 忠誠88(織田信長に対して)

    木下秀吉(臨時) 忠誠90

    木下小一郎(臨時) 忠誠95

    蜂須賀正勝 忠誠85

    前野長康(臨時) 忠誠82

    坪内(玄蕃)定利(臨時) 忠誠88

    小谷町子 忠誠98

    荒木又右衛門 忠誠97

    中村錦之助 忠誠100

    伊勢新九郎 忠誠98

    弥四郎 忠誠85

    海老蔵 忠誠86


○友好度の高い人物

 99 木下秀吉

 85 木下小一郎

 77 小谷町子

 75 池田恒興

 70 生駒吉乃

 68 荒木又右衛門

 66 鉄吾郎(たたら場オヤジ)

 65 伊勢新九郎

 60 織田信長

 55 蜂須賀正勝

 55 中村錦之助

 50 坪内(玄蕃)定利

 50 弥四郎

 50 木下寧

 45 前野長康

 40 海老蔵

 40 生駒家長

 35 柴田勝家

 30 佐々成政

 30 丹羽長秀

 25 佐久間信盛

 20 曲直瀬道三


 ※最近、所帯も大きくなり、お知り合いも増えてきたので、一覧にしてみました。


 おお〜、なるほど。

 ん?砲術が1増えてるな。

 鉄砲撃ったこと無いけど、なんでだ?


 ※おそらく、火縄銃の機構を理解したからではないかと。


 え?銃の構造は色々知っているんだけど。

 ダブルアクションとかブローバックとか。


 ※この時代の銃のことは詳しくは無かったのでしょう?


 まあ、正直言えば。

 え?じゃあ、この時代にライフルとかあれば砲術はググッと上がるわけ?


 ※まあそうですが、もし自分で作る気なら、鍛治のスキルに加え冶金のスキルも必要となりますし、機械の発明が必要になりますね。


 はあ、あと100年ぐらい掛かりそうだな。

 実際にはライフル銃の完成には200年ほど待たねばならないのだが。

 それはともかく、小六より信長さんの方が友好度が高いじゃないかよ。

 あいつ、あれだけ一緒に飲み食いしていながら、まだ俺のこと信用してないのか?

 意外なのは丹羽さんとはほとんど話もしてないのに30もあるなぁ。

 何か目立つことしたか?

 ところで神様。


 ※はい。


 「お濃様の小袖」で名声にゲタ履かせてレベルアップしたのなら、これ脱いだらレベル下がっちゃうの?


 ※そうですねぇ人前で着物を脱げば色々なものが下がりそうですねぇ。


 そういうことじゃ無くて!まあ、そうなのかも知れないけど、レベルはどうなるのよ。


 ※いったん上がったレベルは下がりません。

  そもそもレベルとは総合的なものですので、補正付のアイテムはきっかけに過ぎません。

  その他のステータスが上がった結果、レベルアップした訳ですから。


 もうひとつ納得いかない感じだが、まあいい。

 名声が100を超えたので、一応一人前の武将と言えるほどには成長したことになる。

 交渉なども少しはしやすくなるだろう。


 話を会談の場面に戻そう。

 最初に口火を切ったのは、水野信元である。

 つい数ヶ月前も石ヶ瀬川で小競り合いをしており、双方に戦死者も出ている。

 今川は義元を失ったがまだ勢力としては大きなものがあった。

 だが、その後を継いだ氏真が、父の敵を取ろうともせず、松平元康が独立しても何の行動も起こさないのを見て、今川を見限ったと考えられる。

 さらに実際に松平元康と闘ってみて、こりゃこいつ伸びるな、と感じたのかも知れない。

 だからこそ領地を接している水野としては、自分のところで戦争になっても困るし、和睦してもらった方が三者にとって好都合と思ったのかもしれない。

 先ほどからこれまでの交渉の経緯を聞いていると、どうやらそういうことらしい。


 「いやぁ、松平殿はお強い。ワシも戦場(いくさば)には何度も出てそれなりにやる方だと自負しとったが、此度は手も足も出なかったですわ」

 「何を仰る、水野殿こそこれ程の戦上手、某は知り申さぬ」


 応えたのは石川数正である。

 松平元康はここに来て、まだ一言も発していない。

 憮然としているようにも見えるが、こういう顔なのかも知れない。


 「そんなことは無いですぞ。松平殿が全力で当たれば、今の今川なら簡単に取れましょうぞ」


 この言葉で元康の顔つきが急に変わった。

 まだ、旧主に対する恩義を感じているのだろうか。

 実際、桶狭間で義元が討たれた後、追い腹を斬ろうとしていたという話だし、まだそういう気持ちもあるのかもしれない。

 ここで丹羽長秀が入ってきた。


 「水野殿、その言葉は松平殿にとって聞き捨てならぬことでしょう。しかしながら義元無き今川は、嘴(くちばし)の無き鳥も同然。さらに越後の上杉が関東へ手を延ばしているさなか、武田・北条との同盟関係も怪しい状態と聞く。我々も斯様にお強い松平殿に戦いを挑むより、背後を守ってもらう方がどれほど安心できようか」

 「そのためにも、まずは三河一国を固めなされ。それが旧主に仇なすことには成り申さぬ。むしろ敵討ちにも乗り出さぬ氏真こそ敵ではなかろうか」

 「水野殿こそ、御自分の領地が戦場になるのがかなわぬからであろう。我々をけしかけても無駄じゃ」


 あれあれ?

 ここまで来てそういう話してるの?

 ある程度まとまったから集まったんじゃないの?

 その時である、信長さんが声を発した。


 「竹千代。久しいのぉ」

 「ははっ。ご挨拶が遅くなりまして申し訳ございませぬ」

 「そのように畏まらずとも良い、今や一城の主。もっと堂々となされよ」

 「は、有り難きお言葉」

 「松平殿、此度の同盟は織田と松平の対等なる同盟ですぞ。勘違いなさらぬように」

 「左様、松平殿を将来大身となられると見込んでの話じゃ。今川と一戦交えるとならば我ら即座に駆けつけ申す。代わりに織田の戦いには係わらずとも良いとまで、仰っておるのじゃ。これを受けぬ手は無いでござろう」


 なるほど、日米安保条約みたいなもんだな。

 まあ、正直織田としては美濃攻略に専念したいためであるのと、武田にプレッシャーを掛ける意味もあるよな。


 「竹千代、今は元康と申したか。まだ答えずとも良いが、ここにおる大谷吉子の街を見ていくが良い」

 「へ?街?」


 思わず変な声を出してしまったが、なに?なに?いつの間に信長さん、ウチの城下町見て歩いたの?

 しかも家康に何を見て行けと?


 「おお、そちらの御淑女が大谷吉子殿であるか」

 「なるほど、ようやく合点がいったわ。お主が四方から風を呼び込む城を建てておる大谷吉子であったか」


 石川数正と水野信元がどういう噂を聞いたのか、えらく感心している。

 風を呼び込む城?何それ。

 そうだ、一応紹介されたから挨拶しないとな。


 「お初にお目に掛かります、大谷吉子と申します。田舎者の精一杯でございます故。お捨て置きくださりませ」


 そう言ったのだが、どういう訳か急に松平元康の態度が変わり、こちらに興味の中心が完全に移ってしまったようだ。


 「其方、街づくりに風水を用いて作っておると聞いた。戦の為ではなく街人のために街を作っておると」

 「あぁ…風水はよく知りませんが、そうですね確かに人のための街と言われればそうかもしれません」

 「それは是非見てみたい」


 俺は思わず信長さんの方を見てしまった。

 だが、信長さんはこちらに向かってニヤリとしただけであった。

 何か上手くダシに使われた感じだな。


 「それで松平殿、此度の話どうじゃ?」


 と丹羽長秀が聞く。


 「分かり申した。盟を結ぶことに異存はございませぬが、まだ家臣の中にわだかまりの消えぬ者も居ります故、今一度機会を戴きたい。それまでに家中を纏めて参ります」

 「うむ、よくぞ申してくれた。待って居るぞ」

 「はは、必ずや」


 ということで、どうやら同盟については纏まる空気になってきた。

 しかし、どうしてそうなったのか、この場の全員でウチの領地を見に来るという話になってしまった。

 仕方ないので、町子ちゃん宛に「偉い人たちがゾロゾロと行くので準備しておいて」というメッセージを早馬で飛ばした。

 一応全員馬に乗っているが、カッポカッポとゆっくりと我が領地へと向かう。

 いったいどうなってしまうの?


ここまでお読みくださりありがとうございます。

神様を出すのをすっかり忘れてました。

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