09 縄張り
さんざん迷った挙げ句、2話連続でいきます。
次の日、俺は何事も無く朝を迎えることができた。
ていうか、寧々さまと一緒に寝かされ、逆にこっちがまんじりともできなかった。
それと言うのも、秀吉が寧々さまの前でやたらと俺を褒めるものだから、要らぬ誤解を生んだせいである。
いくら友好度が100になったからって、「寧々に会う前じゃったらお主をもらっとったかも知れん」なんてこと言うもんだから、寧々さまがすっかり疑心暗鬼になってしまったではないか。
この家には暫く近寄らない方が良いかもな。
そんな疑念のこもった寧々さまの作った朝食をいただき、眠い目を擦りながら俺は秀吉を連れて川並衆の棟梁、前野長康を訪ねた。
それにしても棟梁を待つ間、眠くて仕方がない。
あれ?そう言えば私、ゲームの中の人なのに何で眠くなるのかしら?
教えて、女神さま〜♡
※仕様です。
ていうか、キモいからそういう言い方やめて。
なんだ、神様って呼ばれたいんじゃ無いのか?
※神様ですけど、言い方がキモいんです。
だって、女の子らしくって言うし。
※心まで女になってるなら良いですよ。
違うでしょ!
はい、違います。
そんな不毛なやり取りを心の中でやっているうちに、前野さんが部屋に入ってきた。
「これは大谷様。わざわざお越しいただけるとは、どのようなご用件でしょう」
「ご無沙汰しててすまないね。今日は墨俣の城主になった木下秀吉殿を紹介しようと思いましてね」
「おお、そちらが木下様ですか。お噂は耳にしておりますぞ」
「おっ有名だね、藤吉郎」
「冗談じゃねぇ。吉子に比べれば、まだまだよ」
「それで、木下様はご近所になられたから、挨拶に来たと言う訳ではありませんでしょう?」
「その通り、実はお主らに頼みたいことがあるんじゃ」
「なるほど、わざわざ大谷様を伴ってお越しいただいたとあれば、伺わないわけに行きませんな」
「なに、簡単な話じゃ。材木をちょっとばかり大量に欲しいってだけなんじゃ」
「ほほう、大量とはどの程度?」
「ざっと1000石もあれば」
「なるほど、結構な量ですな」
「それを来月いっぱいまでに墨俣に届けて欲しい」
「材種は?」
「杉でも檜でもええ、まっすぐなヤツが要るんじゃ」
すいません。
1000石ってどれくらいですか?
※1石=180.39ℓ
したがって1000石= 180390.68ℓ
立方メートルですと180.39㎥です。
ふーむ、分からん。
まあ、沢山ってこったな。
※ちなみに本格的に築城しようと思えば、この10倍は必要となります。
1000石程度では櫓を2〜3個作って終わりでしょう。
そうですか。
秀吉はいったい何を作るつもりだ?
そう考えていると、前野さんは暫く考えたすえ、返答した。
「1000石の木材をご用意することはできますが、38日しか御座いません。墨俣までお届けするとなれば、それなりの料金が掛かりますこと、ご承知願いますれば…」
「分かっとる、なんぼ掛かるんじゃ」
「そうですね、金18000ほど…」
「分かった!20000払おう」
「その代わり、運ぶ際に片方の切り口を一列に揃えて縛って欲しいんじゃ」
「ほほう、そりゃまたどういう訳で」
「最初から揃えて縛っておけば、いざという時そのまま馬防柵にも使えるし、加工する時にもやりやすいんじゃ」
「なるほど、木下様は現場のことをよくご存じのようですな。良いでしょう、その仕事請け負いました」
ふうむ、流石は秀吉だな。
しかし、20000なんて金、無いだろうに。
その上、俺に5000払うって言うし、再来月までに12000ぐらい入って来る当てがあるってことか。
すごいな秀吉君。
前野さんとの商談を終え、我々は再び墨俣に向かう。
その道の途中で俺は秀吉に聞いてみた。
「なあ、そんなに沢山の木材何に使うんだ」
「そいつはたとえ吉子でも言えんわ。ただ、これは御屋形様直々のお話しなんじゃ」
「信長さん?墨俣を要害にする使命は無事果たしただろう?」
「墨俣は大垣城と稲葉山城の両方に睨まれちょる。到底今のままでは防御が足らんのじゃ」
「あれ?ってことは近々動きがあるってことか?」
「まったく、これだから吉子には敵わんのじゃ」
「え?」
「そうやってこちらの言葉尻から、答えを導き出す才は、ある意味危険じゃぞ」
「へぇ、そりゃ意外な評価だな」
「それとじゃ、この木材はワシが使うだけじゃ無い。御屋形様も近々犬山城攻略のため、築城をすると聞く。となれば木材の確保が急務になるのじゃ」
「おぉ、そん時に高く売りつけようって算段か」
「い…、いや、そこまでは考えておらなんだが、それはええ手じゃな!」
「なんだ、それは考えてなかったのか」
「いや、それも良い手ではあるが、今のうちに杣夫(今で言う林業)や河岸(渡船も含めた水運業)の人材を確保しておきたいんじゃ」
「ああ、商売の相手がいないと、いくら金があってもダメだものね」
「その通り。今から誼を通じておけば、いざという時に助かるんじゃ」
「なるほど、やっぱり藤吉郎はすごいな。私なんかすぐに追い抜かれるわ」
「よく言うわ、戦場での知略では、わしゃ到底敵わん」
「そうでもないさ、私なんかよりよっぽどすごい人は五万といるよ。それに戦でしか使えないんじゃ戦が無くなったら、ただの役立たずじゃないか」
「ハッハッハ!吉子に限ってそんなことは無いじゃろ。今だってワシより上手い方法を考えておったろうが」
いやぁ、こんなのは現代人の知識の一部だからな。
こいつみたいに本気でこの世界で生き抜くこと考えないと、ただ流されるだけで終わっちまうな。
そのためにも、まず足場を固めないとな。
近々斎藤攻めも再開するとあれば、今の砦もせめてまともな陣が構えられるようにしておかないとな。
墨俣に戻ると、秀吉はさっそく俺に金5000を支払ってくれた。
そこで小一郎君の雇い賃を取り決めてなかったことを思い出した。
月々いくら払ったら良いんだと聞いたら、タダで良いと言う。
その代わり、市場と渡船場の売上げの5%をくれと言う。
それって、後々すごく高く付く気がするぞ。
抜け目がなさ過ぎる。
まあ良い、それだけのことはしてもらってる気がするし、当面は彼無しでは立ち行かないだろう。
交渉も纏まったところで、俺はようやく自分の領地に戻ってこれた。
いよいよ待ちに待った縄張り作業に取りかかれる。
ハッキリ言ってこれがやりたくて、このゲームを買ったようなものである。
さあ女神さま。
縄張りのやり方を教えなさい!
※教わる立場のくせに、ずいぶん上からじゃないの。
すみません、教えてください。
よろしくお願いします。
※最初から素直にそう言えば余計なコメント入れなくてすむのに、まったく。
まず、開発コマンドで縄張りを選択。
えーと、開発?
開発って決めたっけ?
※いいえ。
まずはそこからか。
まあ、箱物ってことで四角い箱の動きで…登録っと。
それで、メニューから「縄張り」っと。
ハイ、何かこの辺の地図が出た。
※その明るくなってる範囲が、あなたが開発可能な土地ということです。
なるほど、領地の中でも河川敷などは開発できない土地なわけだ。
※そうです。
護岸工事などをして、治水をすれば開発できる土地を拡げることができることもあります。
なるほど、やはり河川の管理には金と時間をかけてもやるべきなんだな。
※そうですね。
さて、問題の縄張りですが、開発可能な土地の中で、縄張りの中心となる拠点の選定からはじめます。
既にある砦などを利用する方法と、新たに1から築城する場合がありますが、どちらもこのメニューにある拠点の選定ボタンで行います。
ボタンを押すと地図上に拠点のカーソルが出ましたね。
はいはい。
この城のアイコンみたいなヤツね。
※そうです。
それを移動させてみてください。
はい、あーなんか赤いエリアが引っ付いて動くね。
これがひょっとして縄張りのエリア?
※そうです。
平地や街道沿いに持ってくると、範囲が大きくなることが分かりますね。
おーなるほど。
で、この今ある砦に持ってくると…、あ、かなり広いエリアだね。
これが最大なんじゃない?
※今の大谷さんの領地だとそう言うことになりますね。
逆にこの砦が無ければ、別の位置で最大になる箇所があるかもしれませんが、最大になるのが必ずしも良いこととは限りません。
と言うのも、城の本来の役割である防御拠点としての価値は、逆に下がる場合があるからです。
現在の領地はほぼ全面平地なので、あまり関係無いと思いますが、山間部になりますと経済的発展よりは防御拠点としての重要度が増します。
その場合、もともとその土地の持っている防御力という値が加味されていきます。
ああ、天然の要害とよく言うよね。
※いわゆる守りやすく攻めにくい地形というやつですね。
そういう地形的な防御力を示すのが、城アイコンの横に出ている数値です。
ああ、なるほど。
ずーっと+5って出てるから変わらないと思ったら違うのね。
※試しに河川敷に持って行ってみてください。
あーマイナスになっちゃったよ。
この砦は、既に+20なのね。
※その開発できる範囲と防御力の折り合いのつく地形を見つけるのが、最初の作業となります。
ま、今回はこの砦を選ぶしか無いな。
はいポチッと。
えーこの拠点で確定しますかと、はいポチ。
※そうしますと、まず行うのが街道との接続ですが、こちらは既に接続されているのでその必要はありません。
次に、拠点の規模ですが、城の規模を大きく取れば防御力は高まりますが、初期費用がかなり高くなります。
単純に整地する土地の面積が広くなるせいもありますが、規模に応じて必要となる資材が、面積が倍になれば4倍になる計算なので、それらを扱う人足の雇い賃も含め、規模の大きな城を作るとなると、莫大な予算が必要となるのです。
すいません、既にある砦を使う場合どうなんでしょう?
※その場合も、将来どこまで規模を拡大するかにかかってきます。
堀を二重にしたり、曲輪を作ったりするのに必要な土地を残しておかないと、後で住居を移す場合、更に多くの費用が掛かることになりますので、先を見越した縄張りが必要となります。
また、土地が狭い場合などは盛り土をして、城を高く持ち上げることもできますが、その場合も山を人工的に作るのと同じなので、更にまた費用が掛かることになります。
そうね、ま、規模は中くらいで良いか。
ただまあ、将来的には天守を建てたいからな、それなりに大きめでないとダメだろうな。
※それであれば、規模が10段階あるうちの6か7ぐらいの規模と言うことですね。
はいはい。
※今の砦の規模は1です。
これを「規模を変更」で、拡張していきます。
現在、赤で表示されている開発可能領域のうち、砦のすぐ回りに黄色いエリアが表示されていますが、これが規模を変更すると、どんどん大きくなっていきます。
規模1と書いてある横の▲を押して、規模を変更してみましょう。
ほいほい、と。
おー、7だとここまで広がるか。
この、上に出てる数字が金額ね。
※そうです。
最初にそれだけのお金が必要という意味です。
あらまあ。
仕方ない6にしとくか。
はい、変更しました。
※確定を押すと、続いて門の数と位置の決定に移ります。
門の位置は、将来の町の発展と関わりがある重要な要素ですから、慎重に行いましょう。
なお、門は後から増設もできますので、少なめに作っておいて後から増やすという方法もあります。
ほい来た。
これに関しては、ちょっとやってみたいことがあるんだ。
※なんでしょう?
放射道路と環状道路だ。
※なるほど、今の東京のような道路ですね。
そうね、あれをもっと計画的にやりたい。
※それをやるには、もっと広い領地が必要ですね。
今の広さだと環状線を2本敷いたら終わりそうですからね。
まあ、そうだろうけど、環状の道路を作っておけば、後からどんどん拡げやすいだろ?
※この時代は鉄道網というのが無いので、中心地から離れるほど衰退していきますが、放射道路の先に支城を作るという方法も考えられますね。
そうそれ!
それだよ。
城ネットワーク!
※防御的には全くおすすめできませんが、経済的な面だけを見れば、かなり大きな経済圏を生み出す可能性はありますね。
どうせいずれは尾張、美濃は信長さんが治めちゃうんだから、濃尾平野一体にそういうネットワークができれば、かなり楽しいことになるんじゃないかと。
※そのためには、今すぐ家老ぐらいに出世しないとなりませんね。
それは無理。
まあ、俺が始めたのを見て他の大名が真似してもらっても良いのよ。
どれだけ都市経営に影響が有るのか実験したいだけだから。
※そうですか。
それは存分におやりくださいと言うほかはありませんね。
おう。
それじゃ、とりあえず門の位置は東西南北に4つだな。
ポチッと。
それで、道路を作るにはどうするの?
※縄張り作図というボタンが見えますでしょうか?
あ、この物差しみたいなボタンね。
※はい。
それを押していただくと、作図モードになります。
作図モードでは直線、曲線、円、多角形などの描画ツールを使って、道路や掘り割り、街並みの区分けなどを図面に描き起こしていきます。
ほぉ。
これはマウスがないと、なかなか上手くできないかもな。
※そうですね。
コントローラーでもなかなかやりにくいと思いますが、今回はそんなものも有りませんので、例の硯箱を使おうと思います。
筆にクリックボタンを付けましたので、タッチペンみたいにやってみてください。
クリックで選択、ダブルクリックで決定です。
筆のお尻にキャンセルボタンがあります。
ふーむ。
で?道路を敷きたい場合は?
※まず、道路の中心線となる下書きの線を、描画ツールで描いてください。
描き終わったら、その線を選択状態にして、その線が何になるかを選びます。
あ、なるほど、後から決めるのね。
このやり方で、堀とか板塀とかも描くわけね。
※そうですね。
ただ、道路は幅を1本ずつ指定しないといけないので、先に主要な道路を決めた方が良いでしょう。
はーい。
ここまでお読みくださりありがとうございます。
引き続き10 縄張り2をお楽しみください。