夜会にて3
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あれから、踊り終わった私たちはルイ兄様を探していた。
それにしてもーーーー
「アレクセル様、わたくしと踊っていただけませんか?そこのご令嬢とは踊っていたのですから、わたくしとも踊っていただけますよね?」
「アレクさまぁ。ぜひ今度、我が伯爵家の領地にいらしてくださいませ。お父様もそう申しておりましたわ」
「僕はレドモンド・コルドンと言います。ご令嬢、この後僕とサロンにでも行きませんか?」
「いやいや、ぜひ私とーー」
さっきから煩い。アークは、街でも夜会でも呆れるほどモテるのようだな。あれからずっとこんな調子で、一向に兄様が見つからない。というより、前に進めない。探せない。
むしろ、これほど人だかりができているのだ。わざわざ探すまでもなく、兄様の方から来てくれるのでないだろうか。ついにそのような境地に至ってしまった。
アークにも私にも、ひっきりなしに人が話しかけてくる。
「貴女、チェルシーとおっしゃるそうね。アレク様とは、どのようなご関係なのかしら?」
私に声をかけてきたのは、栗色の髪に緑色の大きな目をした小柄な令嬢だった。この小動物みたいなご令嬢は、リズリー伯爵家の長女だ。社交に出ない代わりに、大抵の貴族の名前と顔は暗記した(させられた)から知っている。先程から凄く睨んできていたのだが、ついに話しかけてきた。敵意剥き出しで。
怖い怖い、嫉妬を隠す気すらないのだな。
だが今の私は女の嫉妬より、男からのダンスの誘いの方が怖い。先ほどの恐怖を味わうのはもう御免である。
だがら、面倒でもアーク(ダンス防止剤)とこうして一緒にいるのだ。
「アレクセル様とは″兄″が知り合いですの」
私は落ち着いた声でそう答えた。
私ではなく、兄が知り合いだと強調して。
「兄??そう言えば貴女、どこの家の方なの?初めて見る顔ね」
やはりそうか。このご令嬢、私のことを知らなかったのだな。まぁ、そうだと思っていたが。何せ今日初めて社交に出たのだ。私のことを知らない人は多いだろう。今日だけで何度も名前を聞かれている。
それに、知っていたとしたら、伯爵家の娘が侯爵家の娘である私にこんな無礼な態度取れるわけないだろう。爵位は私の家の方が高いのだ。
「わたくし、エルドルド侯爵家の者ですの。兄様はルイス・エルドルドとカイン・エルドルドの二人ですわ。もしかして、ご存知なかったのですか?」
にっこり笑ってそう言ってやった。私のことを知らなかったとは心外だ、という意味をこめて。
「……あっ、あら。エルドルド侯爵家の方だったのですね。え、ええ。チェルシー様が侯爵家のご令嬢とは知らなくて……まさか本当にいらっしゃるとは」
「わたしくは知っていましてよ。ロザンヌ様。リズリー伯爵家の長女ですわよね?」
そう言った途端、ロザンヌ嬢の顔が盛大に引きつった。
当然だろう。嫌味を言った相手が自分より上の地位であり、相手は自分のことを知っていたのだ。知らなかったとはいえ、大変な無礼である。その上、私の父様はこの国の宰相だ。宰相の娘である私がこのことを父様に話したらーーーー。
うん、ちょっと可哀想だな。私は別に苛めたいわけではない。それに、ロザンヌ嬢は裏表がなさそうな性格で、むしろ好感が持てる。何を考えているのかもわかりやすく、先程から思ったことが顔に出ているのだ。
私は知っている。
本当に怖い人は、仮面の下でしか本性を現さないことを。
「あの、その……私……」
ロザンヌ嬢は先ほどの威勢が嘘のようにシュンとして、居心地が悪そうに視線を彷徨わせている。
大きな瞳がキョロキョロしていて、可愛らしいな。
子リスみたいだ。
「わたくし、病弱で……今までなかなか外に出れなかったのです。そのせいでお友達も少なくて……。ロザンヌ様、ぜひ私とお友達になってくださいませんか??」
私はロザンヌ嬢に助け船を出した。
病弱なのは全くの嘘だが、貴族の友達が少ない(殆どいない)のは事実だし、ロザンヌ嬢とも仲良くしたいと思ったのも本心だ。
ロザンヌ嬢は仮面を被るのが苦手そうである。そういう人とは、ぜひともお近づきになりたい。
「もちろんですわ。私でよろしければ、喜んで」
おおおおお!!やったぁ!!ロザンヌ嬢、先程とは打って変わって明るい笑顔だな。明らさまにホッとしているのがわかる。
しかし、こんなに簡単に了承してもらえるとは……。
いや、せざるおえないのか……状況的に。
でも、そうだとしても、私は嬉しい。
「ありがとうごさいます。とっても嬉しいですわ」
かなり嬉しかった私は、本心からの笑顔でそう答えた。それはもう、溢れんばかりの笑顔だったと思う。自分でも自覚したくらいだから。
「ーーっ!!チェルシー様っ!!私のことはローズとお呼びください。こちらこそ、とっても嬉しいです」
ローザンヌ嬢はそう言って、私の両手をガシッと握りしめてきた。
ん??なんだかロザンヌ嬢、顔が赤くないか?それに、何故だろう。気迫が凄いのだが。
「わかったわ、ローズ。わたくしのことも、チェルと呼んでちょうだい」
「はい、もちろんです。光栄ですわ」
そう言ったロザンヌ嬢ーーローズの顔は紅潮して、目が爛々と輝いていた。なんだかよくわからないが、喜んでいる様である。変わり身が早いな。
……本当にわかりやすくて、単純な子なのね。もしこれが演技なら本気でゾッとするところだが、 私にいきなり嫌味を言ってきた時点でそれは考えられない。
こんなにわかりやすい性格で、この貴族社会を生きていけるのだろうか?
私としては嬉しい事ではあるが、心配である。
「くっ……ははは」
突然、横から笑い声が聞こえてきた。声の主はアークである。何が可笑しいというのだ。もしや、話しかけられ過ぎてついに発狂したのか??
「アレク様、どうしたのですか」
「アレクセル様がお笑いになられたわよ!!」
「嘘……!!アレク様がお笑いになるなんて」
アークの周りに群がっていた令嬢たちが驚きの声を上げる。アークが笑うというだけで、こんなに驚くものなのだろうか?街で会うときも、今夜踊ったときも、普通に笑っていたのだが。
「いや、失礼。チェルシーが面白くてな」
えっ!?私が原因??笑うような面白い要素など、どこにあったというのだ。というか、私に話を振らないでほしい。せっかく、ローズと話していたというのに。それになにより、令嬢たちからの視線がまた鋭くなるではないか。
「そんな、恥ずかしいですわ。わたくし、笑われるようなことしてしまいましたか?」
「そうではないのだが……。いや、そうか??」
なんだその答えは。全くもって意味がわからない。
「アレクセル様ーー」
「チェルシー!!アレク!!」
私が喋ろうとしたその時、ルイ兄様の声が聞こえてきた。
慌てて声がした方を振り向くと、そこにはこちらに気づいて近づいてくる兄様がいた。
ーーよかった。見つけてくれたのね。
♢♢♢
兄様と合流した私とアークは、直ぐさまその場を離れた。離れる前に、ローズとは今度また会う約束をした。せっかくできた貴族のお友達なのだ、この繋がりは大切にしたい。
現在、私と兄様はバルコニーに来ている。
アークとは途中で別れた。私が全力で拒否したからだ。どうやら、私とアークが二人でいると、人が寄ってくるみたいなのである。
兄様曰く、凄く目立っていたらしい。
アークの方もあっさりと別れてくれた。
別れ際「3日後にいつもの所で」と、こっそり耳打ちしてきたがーー。
それは私としても、有難い提案だった。アークにはいろいろと言っておきたいことがあったのだ。口止めとか、口止めとか、口止めとか。
それにしても、今夜は驚きと恐怖の連続だった。
カイン兄様の友人である公爵家令息が アークであったのはもちろんのこと、地獄のようなダンスの申し込みに、令嬢たちからの恐怖の視線。息つく暇もなく話しかけてくる貴族たちの相手も大変だった。
良い事といったら、 ローズと友達になれたことだけの一つしかない。
こんな事になるとわかっていれば、絶対に夜会など来なかったのに。
最初に掲げていた『目立たず楽しむ』という目標など、会場に入った瞬間から見事に崩れ去った。
はぁーー予想とは大違いだ。
バルコニーは先ほどまでの騒がしさが嘘のように、とても静かだった。会場からの楽器の音色が、どこか遠くに感じられる。
「ルイ兄様、わたくしとっても疲れましたわ。もう帰りましょう?自分でも十分頑張ったと思うのです。さすがにもう無理ですわ」
本当によく頑張ったよ私!!今にも倒れそうだ。
早く帰りたい、全力で帰りたい。
「そうだね。早いけど、もう帰ろうか。チェルもかなり限界のようだし」
そうして、私の散々だった社交界デビューは幕を閉じた。
ーーもう絶対、夜会になんか参加しない!!そう強く心に刻んだ。