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オムライスはやっぱりトロトロ半熟派

見慣れた道を歩いて家路につく。何故かさっき、俺の家の前にアルドとドロイがいたのが気になったけれど今はそれはいい。

ゆっくりとノブを回し、押し込む。

ドアを開けると懐かしい香りを俺を包んだ。

懐かしい、といっても俺にとってはまだ馴染み深いものではない。しかしもう第2の故郷といっても良いくらいここでの生活に馴染んでしまった。

部屋の中に入ると綺麗にしてあり、後ろに控えている側近が掃除を欠かさなかったのだろう。

俺がナマズ釣りに駆り出されて、エライ目にあっている間、ずっと。

ふと、視界が滲む。

戻れないかもしれない故郷に対する悲しさからではない。

「……!」


金髪のアホに対する憤怒だ。


「マジで一回、アイツは叩く……!」

この地でまた、1つの決意。






「にしても、帰れて良かった……」

二重の意味で肩の荷を下ろしてから冷蔵庫に向かい、水を引っ張り出して煽る。

冷蔵庫は機械のアレではなくて、早い話地面に穴を掘り地下の冷度で冷やすもの。

正直最初は冷えなくね?と思っていたけどこれが意外とよく冷える。

煽った後、ゆっくりと寛ごうとソファに腰を下ろそうと


「いけんですよ!」

テンション高めの側近にソファを蹴り飛ばされ阻止された。ズズズ……。と重い音をあげて数m移動したところで停止するソファ。足にはオーバーニーソしか履いてないのに痛くないのか。と思って振りきったままの側近の綺麗なあんよを見てみると、うっすら回りの景色が風に曲げられていた。

なるほど、『蹴り』『飛ばした』って訳か。

「いけんですよ!」

「何何マジでどうした!」

いつもより、というかいつも以上にテンションの高い側近がグイグイと詰め寄ってくるのをガードしつつ宥めにかかる。

「ご主人…気付いていないんですね。……私が止める理由が!さぁ!」

何故か1拍溜めてから叫ぶ側近。

「……ただいま?」

「のぅ!」

白髪をシャラシャラと宙に揺らし、頭をブンブン振っての全否定。

「……掃除ありがとうな。」

「のぉぉぉぉぉぅ!!」

ブンブンブンブン。

「……今日も可愛いなぁティリアは。」

「のぉぉぉぉぉぅうぉうぉおぉぉぉ!!」

ブンブンではなく予期せぬボディが俺を襲った。

「嬉しいです、けどそうじゃなぁい!」

「じゃあ何故殴った……!」

肩をすくめてお手てを広げ、顎までしゃくれさせて海外の通販番組のサクラみたいに否定してくる側近。

マジでウザめのテンションについていけない。何だ。何でこんなに高いんだ……

「ご主人…今ですね。あなたは今!とっっっっっっっっっっても汚いんです!」

腹を擦りながら起き上がる俺をぴっしぃ。と指差して指摘。

そういえば拠点では風呂場は使わせてもらえなくて水浴びだけだったし、(服は洗わせてもらえた。)最後は敵自分問わずの汗やら血やらで汚れまくっているだろう。

「というわけで、ご主人。お風呂へどうぞ。」

「は?」

差し出してきた洗面器の中には着替えと下着、シャンプー擬きと石鹸入りのお風呂セット。

「ささ。冷めてしまいますからお早く。」

「いや待ておかしい。」

俺がいた世界ならまだしもここのは保温機能なんて気のきいたものはない。入りたい時に汲んできて溜めて沸かして。とっても手間がかかる。側近に腕を捕まれてズルズルと引きずられ風呂場に到着。

脱衣場を抜けて浴室に入ると暖かく湿った空気が全身を包んだ。

ティリアが袖をまくって浴槽の蓋をとるとちょうど適温くらいのお湯が並々と入っていた。

「いい感じですよ。」

「いや待ておかしい。」

ティリアも丸二日位この家には帰れていなかったはずなのに……

「……まさか。」

「アルドさんとドロイさんにお願いしておきました。」

さっき家の前にいたのはつまりはそういうことらしい。

「報酬はどうする気なんだ?今うちにはあんまり蓄えないぞ?」

「それももうクリアしてますよ。」

そう言うと蓋を戻し腰の飾り帯の辺りをまさぐり始める。少し身を捩って取り出したのは小さな瓶。中を覗いてみると赤い液体の中に刻んだ生姜やネギ、ローストしたニンニクなんかが入っている。

「……これ。」

「流石ご主人…知っていましたか。そうです。これこそ


私がまだ幼い頃にご飯に物足りなさを感じて厨房を拝借して造り上げた矢先、爺やが名前を尋ねてきたので自信満々に『喰われるらーゆ!』と答えたところ私がラー油に食べられてしまうと過剰反応したお父様がその存在を一事封印した程の忌まわしき食べたら美味しいラー油です。」


「……おお。」

「ご飯に合いますよ?」

「分かった。」

ツッコミどころが多すぎて頭が痛くなってきた。

「とりあえず先に貰うけど、あれだぞ。」

「?」

「『お背中お流ししまーす。』的なやつで突入してきたら今後三ヶ月、成分補給を絶つからな?」

「失礼な!私はそんなことしません!」

本気で怒っていたからしないだろう。





「……はぁぁぁぁぁ…」

体を洗い浴槽に体を沈める。五衛門風呂みたいな作りなので先に浴槽のお湯を使ってから最大限体を綺麗にしてから浸からないと後から入る人が可哀想になってしまう。

先にお湯を多く使うであろうティリアに進めたけれど頑なに譲らなかったので仕方なく俺が今入っている。

「しかしまぁ……」

浴槽から四肢を擦ったりして確認してみるけれどやっぱり大きな傷はない。あれだけの戦闘を行っておきながら目立つような傷や怪我はない。

「変化するたびに回復してる……ってことか?」

変化中のダメージはしっかり負っているけれど変化したらまっさらになっていることが多い気がする…

「まだ分からないことが多いな…」

ため息をついて早めに風呂から上がり、てきぱきと服を着てティリアに声をかける。

「ティリア。綺麗にしてきなさい。俺が夕飯作っておくから。」

台所で今まさに準備をしていたティリアは風呂上がりの俺を上から下に。まさかの3往復して眺め回すと、まっすぐに目を見て

「……ぽっ。」

「叩くぞ。」

自分でほっぺを覆ってあざとさアピール。

「そうですよね…ご主人は女ばかりのところにいたんですから…それはもうたまりませんよね。」

「おいコラ。」

「はっ!もしかしてご主人……ダメです!確かに敵の帰り血や汗は風でバリアできてますけど、私自身の汗とかは流石に防御できませんもので!でもご主人がもし、もしそういう癖でしたら私!ここは恥を忍んで!」

パシパシパシパシパシパシパシパシパシパシパシパシパシパシパシパシ……

「目は醒めたか。」

「……やや。」

ちっこい顔を軽く往復ビンタしてあげたら元に戻ってくれたようだ。良かった。これでダメだったらヘンリに押し付けるところだった。

「何でそんなテンション高いんだよ。」

「私が思うにですけどね。」

俺に叩かれてほんの少し赤みがついたほっぺを両手でうりうりしてマッサージしながら


「─こういうのがどうしようもなく楽しいからですかね。」


フンス。といつも通りのドヤポーズを決めるもののどこか元気というかテンションが落ちたような……

「では入ってきますね。」

俺にペコリと頭を下げて脱衣場に引っ込んでしまうティリア。

何か触れちゃいけないところに触れたような罪悪感が残ったまま台所に立つ。

悪いこと聞いたかな……

『ご主人ー。』

扉ごしだからだろう。少しくぐもった声で俺を呼ぶティリアにこちらも返事を返す

「石鹸でもなくなったかー?」

『覗きならあと6分後位が最高のタイミングですー。』





心配を返して欲しい。




「……これは何です?」

ホコホコと体から湯気をあげている側近が俺の作った料理を前に首をかしげ、スプーンでケチャップライスの上に乗った黄金色の卵をツイツイとつついている。

「あー…っと。ちょっといいか?」

ティリアのお皿を少し拝借して卵にナイフを当て、すぅっ…っと滑らせるようにして真ん中を開けて左右に広げるとちょうどいい感じに半熟の卵がとろけた。

「おお。いい感じにできたな…」

向こうにいたときは趣味でよくやってはいたけれどこっちに来てからはやってなかったから腕が落ちたかと…

「ご主人。」

一人出来映えに納得しているとキンキン。とナイフとスプーンを打ち鳴らす音と呼び掛けられた声に戻された。

「どうしたティリ…マジでどうした?」

顔をあげて側近を見るとかつてない程の集中力で流れる卵を凝視する側近。

「……!」

何故早くこっちにくれないのか。視線がそう言ってる。

「……どうぞ。」

ティリアのお皿を取りやすい位置に持っていくと、いただきます!と言いつつものすごい早さでつつき始めた。

「ゆっくり食べろー。」

聞こえていないだろうけど忠告をして俺も自分の皿を寄せて食べ始める。


そういえば今まで気にしていなかったけれど、この卵って向こうの卵と一緒なんだよなぁ…。

そのくせいつもギルドで食べる軽食にも食堂(兵士の方々と接触すると非常に気まずいのであんまり行かないけど。)には鶏肉のメニューは見たことがない…

何でなんだろうか。そういう文化なのか。

考えながら食べていたからなのか。自分の皿の変化に気づかなかったのは。俺のペースで食べていたら本来あるライスがない。

いや、まだ数口しか食べていないのに。


もう半分もない。

あ、今また無慈悲なスプーンが拐っていった。間髪いれず襲来してきたスプーンを持つ手を掴んで止める。確実に掴んだつもりだったけれどスプーンの上にはしっかりとケチャップライスが乗っていた。

そのまま白い手首、腕と視線を動かし側近に白い目を向ける。

側近はどこからか持ち出したもう一本のスプーンで自分の皿を侵略している。掴んでいる右手は微動だにしないのに左手はせわしなく動き続けている。

「おいコラ。」

無視。

「おーーーーい。」

何度か呼び掛けると自分の皿が更地に変えてからケチャップで口回りをベタベタにした顔を向けて、

「?」

小首を傾げてしらを切ってきた。なんて白々しい。この家には今俺を除けば一人だと言うのに。

「ティリア。ちょっとスプーンを置きなさい。」

すると左手のスプーンを置き、その手を俺に向けて立てて『タイム。』の意思表示。

モグモグとお口を動かしてゴックン。

飲み込んでから小さくけぷっ。と感嘆の叫びをあげ、

「何でしょうかご主人。」

しらを切る。


「……言いたいことはいくつもあるけどな。」

「流石にけぷっ。は自分でも無いなぁ…と思いました……」

「そこじゃねぇ。」

「反省します!」

「ならまずはこの右手のスプーンの上に乗った俺の最後の一口を戻しなさい。」

「……」

「黙るんじゃない。」

「……えいっ!」

追い詰められた側近はあろうことか手首のスナップだけで自分の口まで最後の一口を飛ばし、モグモグモグモグ…ゴックン。

「そんなのありません!!」

「随分強引な手に出たな……。」


最後の一口どころか大抵を食った側近の満足そうな顔を見て、まぁいいか。と思ってしまう俺は……甘いんだろうか。





ちなみに仕返しとして寝てる間に三編みのお下げの刑に処しても本人は『新鮮……』と喜んでいた。

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