日常の光景から滲み出る…何か。
「あああ……。」
金髪のアホが唸りをあげる。
「暇ぁぁぁぁぁああ……」
「知らねぇ。」
机に上半身を投げ出して腕をバタバタさせるアニエス。
「ねぇ。」
そのまま顔をあげて向かいに座る俺を見てくる。いつもなら俺の右隣に座っているのに今日は向かいに座っている理由は、つまり。
「何で今日誰もいないのよ。」
……つまりはそういうことである。
「ノッチとシスティは所用とかで来ないしぃ…ヘンリは忙しいって言って来ないしぃ…」
「ティリアは『布団の魔力が私を離しません…』って言って起きてこない。」
「暇ぁぁぁぁぁああ……!」
バタバタが今度は足に変わったらしく、テーブルの下で暴れながら俺に鬱憤をぶつけてくるアニエス。マジで今から背負い投げで外に追いやれないだろうか。
「あーあ…結局マルデキカクガイもリバ川には生息してないって…王宮調査隊から正式に発表があったし。」
「むしろ何でいると思ったんだよ。」
「だってナマズよ?」
「ナマズだからだろ。ナマズは泥地とかが適正地なんだよ。ヤマメモドキだって清流に住んでるんだろ?適所適正。分かったらさっさと初等学校に行ってこい。そして義務教育を1からやり直してこい。」
「しばくわよ。…ところで義務教育って?」
「ん?違うのか?俺のいたところだとある程度の年齢になると義務教育って言って教育受けなきゃ行けないんだけど。」
「うーーん。ここ…というかアキュリスでは適正年齢…大体12歳くらいかしら。そのくらいになると教育を受ける場所を選んで受ける。って感じね。兵隊になりたかったら仕官学校、教師になりたかったら教化学校、みたいな。」
「はぁー…最初からエキスパートを絞ってそれだけを教えるのか。」
向こうとこっちとの教育の違いに関心しつつ、本来の目的であるアニエスからの攻撃の防衛に成功した喜びに緩んでしまった頬を誤魔化すようにお茶を啜る。
「あ、そうだ。リバ川といえば。」
タコのカルパッチョを食べながら思いついたようにアニエスが切り出してきた。
「イレウスが正式に軍師から外されたらしいわ。」
「そりゃ死んだら外すも何もないだろ。」
「それがまだ生きてるらしいわよ。」
「…んん?」
アニエスからの思わぬ情報に思わず巻いたパスタを落としてしまうところだった。
「アイツ、とっくに殺されたもんかと思ったけどな…」
折角巻いたパスタをほどくのは忍びないのでそのまま口に運んで咀嚼。
「なぁんかあるみたいだけどね…それもわざわざ近隣諸国には軍旗パレードの際に生きてることをアピールしたくらいだし。」
「ふぅん…」
アピールした。ってことは生きてることを知って欲しかった訳だ。しかも確実に。誰もが知ってる事実として。
「まぁ……狙いがあるとしても、しばらくは謹慎だろ。」
「そうだといいんだけどね。」
とりあえず先送りにしつつアニエスから塩をもらって、ポテトに振ってから1本つまんで食べる。アニエスも当然のように手を伸ばして一気に数本さらって咀嚼。その一撃で空になってしまったバスケットを退けるとテーブルにあった皿は全部きれいに片付いていた。
「さて…アンタこのあとどうするの?」
「どうすっかな…ティリアも今日は1日寝たままだろうし。」
「あ、ならさ。ヘンリのとこ行かない?」
「……ついに自分の頭が悪いことに向き合ってくれるのか。」
「いつか殺す。そうじゃなくて、調べて欲しいって言われてたの思い出した。」
マジの殺害予告をしながら腰のポーチから指令書を取り出して広げるアニエス。
「これこれ。最近いきなり大きくなったからちょっと調べて欲しいってさ。」
「なぁ何で指令書の上に刻印が押してあんだ?これここの国の紋章だろ?」
「は?」
「あ?」
「……」
「……」
「そうね、不思議ね。」
「ああ、そのひとことで乗りきれると思ってるお前が不思議だわ。」
誤魔化す為に吹いてるつもりの口笛がピスー、ピスーと全く鳴ってないのが滑稽だ。
「細かいことは気にしない!」
「いや、かなりデカめの疑問点なんだけど。」
「うっさい!仕事をこなしに行くわよ!」
勢いよく立ち上がると俺の腕を掴みあげて立たせ、会計に来た店員に当たり前のように「ツケて!」と言い残し、食堂から引きずり出された。




