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実際のシスターって男性もアリらしい。

スッ、スッ、と素早く十字を切って黙祷。


「化けて出ませんように……」


さて、気分を切り替えなければ。折角夢の国に来たというのにいつまでもこのままじゃいけない。


「あ、あの……」


私が助けた女性が気づいたみたいなので、ズンズンと近寄って


「あんた自分から死のうなんてするんじゃないわよ!私が助けなかったら死んでたのよ!!」


「助けたのはユウだろ。」


「あ、申し訳ありません…」


何処かオドオドしながら返事を返してきた。もっとシャンとしなさいよ!と言いたいけどグッと我慢。


「あ、あの…私システィっていいます…あの……」


ゆるゆると細い指を伸ばして、橋の欄干を差すシスティ。


「何?」


「あ、お連れの方が…その……」


「ああ。気にしなくていいわよ。アイツ、オークに殴られて平気だったから。」


「いやいや。」


ノッチが何か言ってるけど気にしない。アイツなら平気だろう。…多分。


「さてと、じゃあ行きましょうか。」


目の前に夢の国があるのに無事な奴の心配なんてしている暇なんてない。


「ホントに放っていくのか?」


「放っていくわよ。アイツなら平気でしょ。」


言いながら喉が乾いてきたので水筒を飲む。


「お二人は付き合ってるのですか?」


水筒の中身が全部リバースした。


「そうだな、知り合ってまだ一週間位なのにもう以心伝心だ。」


「やっぱり!」


これはマズイ。何がと聞かれたら答えられないけど!



「違うわ!アイツが化けて出たら面倒だから!」


「ね?」「ええ。確定ですね。」


ノッチとシスティは元々の波長が合うのかもう完全に誤解している。これはもうメイスで訴えかけるか。と思ったら二人が完全に固まった。その視線は…私の後ろ。


ビシャ、ビシャと何かが迫ってくる。


ボタ、ボタッと夥しい量の水を纏いながら。


まさか。と後ろを振り向いたとき、黒い手甲に包まれた手が私の肩を掴み


「…お「キャァァァァッァァァア!!」







「ぶえっくしょう!」


水を吸いまくったコートを絞っていくが何分コート。一ヶ所絞ると他の所に染みてしまう。思いっきり振り回して脱水したいのだが、公共の橋の上なのでそういうわけにも行かない。さて、どうするか…


「ビックリしたじゃないのよぉ!ちょっと!聞いてんの!」


…コイツ。



「うるせぇんだよ、さっきから!こちとらあれから必死に橋をよじ登ってきたんだからな!!」


「あんたこそうるさいわよ!普通はミンチよ!何で原形とどめてんのよ!」


落下する寸前に思いっきり四肢を体の前で丸めて一個の岩のようにして水面に着水。


橋までスイスイと泳いでいき、背中の激痛に耐えながら、橋をよじ登り舞い戻ったというのにこの仕打ちだ。


「あー、背中痛った……」


「あ、あの有難うございました。」


俺が背中をさすっていると先程の女性が話しかけてきた。


「何の償いにならないかもですが…。」


そう言いながら回り込み、俺の背中に右手を添え、左手を自分の前でかざし何かを唱え始める。よくわからないが多い。恐らく5つ以上の魔法を連続でアナウンサーの早口言葉のように詠唱している。


「…魔法?」


「そうです。痛みをとれるようなものを唱えてみました。…失礼します。」


そう断ってスッ、と俺の背中に魔法が付与されたであろう、ほんのりと輝く左手を差し出し、その左手が触れるかというときにカシャン、と小さな音を立て消えてしまった。


「へー。これが治癒魔法……」


アニエスは夢の中に入った子供のように目を輝かせているが、システィは自らの左手を信じられない。というように見つめている。


「あ、すいません…魔法が弾かれまして……」


「は?魔法を。ってことは今ユウは、」


「相変わらずクッソ痛い。」


ヒリヒリ、ジンジン、チクチクだとしたら神経障害性疼痛だと言うが、これはズキンズキンという単純な外傷だろう。


「薬か何か持ってたらそれの方がいいんじゃない?」


そんなことより早く行こう。と顔いっぱいに書いてあるアホが急かしてくる。何か持ってるか探してみたら


「あ、」


「何よ。」


「腹立つの入ってた。」


そういえばいつか使うかと入れておいたアニエス特製の軟膏を発見。打ち身用。


「じゃあそれでも塗ってなさいよ。」


俺のバックに手を突っ込んで書状一式を取りだし、ズンズンと門番に近寄っていくアニエス。マジで今度覚えておくんだな。


「アキュリス王国からの使者です。」


ここに至るまでの醜態を全て書き消すほどの毅然とした態度で門番と向かい合う。なんだかその様が妙に慣れているようで違和感を感じた。門番は書状を流し目で確認し、持っていた槍で門の横に設置してあったミニチュア門をさし、


「あっちで武装を全て置いていけ。」


などと仰った。


「ちょっと。正式な使者よ。」


「それでもだ。本来なら服すら全て着替えて貰うところだ。」


俺とノッチはもう苦笑いをしている。


「…なぁ。俺の手甲って手袋です。って言えば」「そこのお前はコートも置いていけよ。」


門番さんからの有り難い配慮に涙が出そうになった。なおも食いつきにかかるアニエスを止めたのは


「彼らは私の友人です。」


意外にもシスティさんだった。


「!し、失礼しました!どうぞ。」





「すいません。今警戒体制らしくって…」


「あ、ああ気にしないでくれ。入れてこっちも助かった。」


ノッチが若干引きながら返している。


「ノッチ、ノッチ。」


「…何だ?」


「気になったことがあるんだ。…確認していいか?」


「…多分俺も同じ疑問を感じている。」


門の中を歩きながら、もうすぐ門も終わってしまうので確認を早めに終わらせる。


「なぁ、システィさん?あんたもしかして……王女。とかじゃないよな?」


あれだけ警戒されていたのにあっさりそれを潜り抜けるなんてただ事ではない。


「違いますが…何故?」


「いや。回避の有無を確認したかったんだ。」


不思議そうにしているシスティさんを横目に先に駆けていったアホを探す。


「あ、いた。」


門の終わりあたりに見つけ、声をかけようとしたが固まっている。


「…私……ここにすむ。」


いきなりかっとんだことを言ったことを責められないほどに目の前は凄かった。


円形の領土の中、中心に大きな円形の土地があり、そこを基準に4つ円形の土地が繋がっている。回りの各土地の中心部に二段ケーキのような塔がそびえ、そのてっぺんから中心の土地、そこには三段ケーキ塔がたっており、二段目に各土地の塔から箱のような物がひっきりなしに行き交っている。町の至るところに大きなプリズムを携えた女神像のある噴水があり、


…想像していたように絨毯等が空を飛んだりしていないが、十分魔法使いの国だと分かる。


「皆さん?」


システィさんの声で我に帰る。システィさんはそのまま塔に向かって歩いていき、


「宮殿にはあの浮遊箱に乗っていくんですよ。」


と、空中の箱─浮遊箱─を指さし教えてくれた。


「ああ、そうでした!」


俺らの手前でくるりと回ると、スカートの裾をちょんと摘まみ、


「─ようこそ。『魔法使いの自治する魔法使いの為の国家─ティエルフール』へ。」


完璧なお辞儀と共に俺達を迎えてくれた。






─第二章 ティエルフール──



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