第一話 鉄の墓場
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称・事件等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
ここは安心して快適に住むことを求めた人間が、科学技術を集結して作った塔、通称「九天楼」
その最下層「セクター零」、上層の明るい光も賑やかな音も、ここには届かない、薄暗がりの中、グラインダーが放つオレンジ色の火花、鉄を打つ音が、男たちの顔を激しく照らす。街が排出した超高度テクノロジーの残骸を、ただの「粗大ゴミ」として山となしている場所。通称「鉄の墓場」
鼓膜を刺すような金属音が響くなか、立ち込める、焼けたオイルと重油の臭い。その中を一人の男が杖を突き、キン、キン、一歩、また一歩と、油膜の張った水たまりを避けて進んいた。
「シュウゾウ、生きてるか」
奥から姿を現したのは、身の丈ふた回りも違う大男だった。
男の手には、巨大な油圧式断裁鋏。その刃先には、さっきまで兵器の一部だった合金の破片が、ぐずぐずに噛み砕かれて残っている。
「あぁ? カイトか。」
シュウゾウはそう言って、傍らにあったドラム缶にドカリと腰を下ろした。
首筋にあるプラグは、ススで真っ黒に汚れている。
「用件は何だ。お前のその『へなちょこカーボン杖』の修理か? それとも……」
シュウゾウの濁った瞳が、カイトの右拳に向けられます。
そこには、過負荷を引き受け、黒く変色したまま肉の表面が爆ぜた、痛々しい「傷痕」が残っていた。
カイトは鼻で笑い、右拳を軽く握って見せました。
「杖の修理じゃねえ。この拳の『重み』に耐えられる、本物の鉄が欲しい」
「……味気ねぇな」
シュウゾウは、鉄屑を一つ拾い上げると、それを口の中に放り込み、ガリ、と奥歯で噛み砕きました。
彼には味覚も嗅覚もありません。ただ、金属が砕ける微細な振動と、舌に残る鉄錆のざらつきだけが、彼の「食事」でした。
「お前も俺も、まともな世界からはじき出された欠陥品だ。だがよ、カイト。お前はそのボロ雑巾みたいな身体で、まだ何かをするつもりか? もう満足して、じっとしてりゃいいだろ」
冷たい言葉だが、シュウゾウの目は、カイトの奥にある「モノ」を値踏みするように見つめていた。
「じっとしてる? 冗談言うな」
カイトの足元、泥だらけの床から、かすかに地鳴りが響いている。
「あいつは今、自分の不自由な手と戦ってる。あいつが絶望の中から何かしようとしてるのに、兄貴の俺が、ここでじっとしてるわけにはいかねえだろ!」
カイトが杖を強く踏み締めると、その瞬間、工房中の鉄屑が一斉にカタカタと震え始めました。
シュウゾウの目が、ギラリと輝きました。
「ハッ……! いいねぇ。やっぱりお前は、最高に不味くて、最高に硬ぇ!」
シュウゾウが立ち上がり、背後の巨大な遮熱扉を乱暴に開け放ちます。
そこにあったのは、最深部から略奪してきたという、鈍い黒光りを放つ『超高密度地脈伝導鋼』通称龍骨鉄の塊だった。
「これを叩いて、お前の『新しい足』、いや……その拳の芯になる『鉄の手』を作ってやる。だがな、カイト。この鉄は、生半可な覚悟じゃ、お前の肉体を逆に食い破るぞ」




