88話 人間どもを浄化してやろうじゃないか
――ダンジョンの最深部、玉座の間――
俺はドラゴンを復活させる儀式を始めていた。
手から血が滴り落ちる。
「ドラゴンよ。
目覚めよ」
俺は、竜にドラゴンと名付けていた。
地面から光り輝き、竜の姿が……
違う、人の姿となった竜人が復活した。
「我の名はドラゴン。
サンク様に忠誠を誓います」
竜の鱗の肌になっているが、ほとんど人間の姿。
知的で勇敢な戦士のようだ。
見境なく暴れまわった竜だ。
ダイヤに恨みを持っているはずだが……
ルールは守ってもらわないとな。
「うむ。
ならば、これより人間を殺すな。
憎しみは憎しみを生み出す」
地面で拳を握りしめ、
ドラゴンは歯を食いしばっている。
「分かっておる。
そなたの、つがいのことであろう」
ドラゴンは、驚いたように俺を見ていた。
「なぜそのことを……」
「我はお見通しだ」
ドリュウの報告を聞いただけだけどな。
そしてドリュウは竜の死骸を買取り、ダンジョンへ運んできていた。
***
――竜人のドラゴンを復活させる前――
ドリュウが運んできた、死んだ竜に俺は血を呑ませてみる。
だが、普通に血を飲ませただけでは、うまくいかなかった。
それでもあきらめなかった。
俺には、ひとつの妙案が浮かんでいたからだ。
実は、俺は五大英傑のミスリルと仲良くなっていた。
変態でナルシストだからではない。
初めて俺が、自分の実力で勝った相手だ。
そりゃあ、俺は嬉しくてたまらなくて喜んだ。
俺のへなちょこパンチが、ヒットして……
ビックリするくらいミスリルが吹き飛んでいった。
もちろん、カンカイの能力じゃない。
俺の弱い素の力だ。
「ふぁっ!?」
俺は自分の拳を見て驚いた。
「お、お前……本当に魔王なのか?」
ミスリルも頬をさすり、目が飛び出るほど驚いている。
そのまま白目をむいて、ミスリルは気絶した。
コノハの木の根が包み、地面へと消える。
「おおーーー!!!
五大英傑に拳で勝ったーーー!!!」
コノハの視線を感じ……
「ん~、ご……ごほん。
素が出てしまった……」
気を取り直して、魔王を演じる。
しかし隠れて、拳を握りしめた。
でも、次の日に懲りずにミスリルがまたやって来たのだ。
そして、俺にこう言った。
「お前、魔王のくせに弱いだろ?」
「はぁ!?
わ、我は……最強のま、魔王な……なるぞ」
ミスリルが笑っている。
彼の口癖は――
「俺は弱いものは相手にしない。
強い者しか相手にしない」
それは、彼も五大英傑なのに「弱い」からだった。
「分かってるって……
お前も大変だな。
……弱いのに魔王なんて」
突然のことに、俺は言葉を失った。
「正反対の結果へ捻じ曲げる。
それが、俺の能力だ」
ミスリルの言葉に、やっと理解した。
彼も弱いんだ。
だから、弱いものとは戦わなかったのだ。
同じ弱い者同士が、魔王だの五大英傑だのという重圧を抱えていた。
そんな弱者同士が意気投合しないはずはない。
こうして、俺とミスリルは仲良くなっていたのだった。
***
そして――
ミスリルに頼んで死んでいる竜を生き返らそうと試みた。
俺の血を竜の口に含ませる。
死んだままの竜の心臓に、剣を突き刺すようミスリルに頼んだ。
彼の反転の能力が、死を生へ捻じ曲げようとした。
「ドクン。ドクン」
死んだ竜の鼓動が、聞こえてきた。
そして、ゆっくりと竜が起き上がる。
「成功だ!」
俺とミスリルは抱き着きながら喜んだ。
しかし……
その姿を見て、俺は困った。
「これじゃあ、片割れの竜が喜ばないだろ……」
竜は、ゾンビとして生き返ってしまったのだ。
「おいおい、このままじゃ、俺の計画が台無しになる。
どうにかならないのか?」
「俺はお前の言った通りにしただけだ。
俺に責任はない」
ミスリルが、長い前髪を振り払った。
***
――竜人のドラゴンを復活させた時に戻る――
「分かっておる。
そなたの、つがいのことであろう」
ドラゴンは、驚いたように俺を見ていた。
「なぜそのことを……」
「我はお見通しだ」
そして俺は、そのままゾンビとなって復活した竜を呼んだ。
「ドラゴンよ。
お前のつがいであるドラゴネスだ」
ドラゴンが、涙交じりに喜んでいる。
メスのほうはドラゴネスと名づけた。
ゾンビの竜でも良かったのね……。
まあ、幸せそうで良かった~。
だが、ここからが俺の本題だ。
俺は毎日、ダンジョンにいるゾンビたちを成仏させていた。
もうすぐ、すべての徘徊するゾンビたちはいなくなる。
リュウドウ王国の住民たちのダンジョンへの恐れも、
竜の討伐により信頼を勝ち取ったことで薄れるだろう。
これで、カンカイへの憎しみも忘れ去られるはずだ。
これからは、俺自身のすべきことを考えないといけないと思っていた。
そこでだ。
俺は、ドラゴンにダンジョンを任せようと計画していたのだ。
そして俺は……
***
――最後の別れの時――
最後のゾンビが、黒鉄門の前に来ていた。
「最後のお別れだな」
扉の向こうから、勇者ジュンの声が聞こえた。
「もう、最後なんだな。
……。
そして、カンカイも……」
しばらく沈黙が続いた。
「ダンジョンで魔物側として戦ったりできて面白かったよ」
カンカイを囮にした冒険者も、勇者ジュンの隣にいた。
「彼も一緒になって戦ったんだ」
勇者と冒険者が、お互いに肩を抱き合って喜んでいた。
そして俺は、浄化の能力を使うために彼らの手を取った。
<もう、彼らは消えてしまうんだ……
ということは、僕も……>
カンカイが、昔の人間の時の少年のようになっていた。
「カンカイ。
あの時は本当に悪かった。
今度は一緒にパーティーとして成仏したら異世界で戦おう」
<もう、君と一緒は嫌だね>
そう言いながらも、みんなで笑い合っていた。
そして最後の時を迎える。
<じゃあな。
サンク。
お前にダンジョンを任せて良かったよ>
「俺も、カンカイと出会えてよかった。
魔王と勇者の関係じゃなければ、もっと良かったのにな」
<それじゃあ出会えていなかっただろ?>
みんなで笑う。
寂しさに包まれた笑いだった。
「そうだな」
<でも、楽しかった>
「俺もだ」
<傷を癒してくれてありがとう>
「俺は回復師だからな」
温かい空気が流れた。
「これからは、新たな未来を生きていくよ」
<そうか……
そろそろお別れだ>
「今までありがとう」
<ありがとう!
……さらばだ>
勇者ジュンと冒険者、そして魔王カンカイが成仏した。
***
そして――
俺は、コノハ、ドリュウ、カブト、シンエイ、レッド。
そしてミスリル。
彼らと一緒に、勇者召喚の部屋へと向かっている。
「さあ、これが俺の最終目的だ」
勇者と話をしたんだけど……
勇者の世界は争いや揉め事が絶えないらしい。
「勇者の世界なら、勇者らしく平和な世の中じゃないと駄目だろ」
最初は俺ひとりで行くつもりだったんだけど、
仲間たちもついて来ると言って、いうことを聞かなかった。
勇者の世界へ行くこと。
これが俺の最終目的地だ。
俺は勇者のいた世界に行って、人々を回復してやろうと思ったんだ。
俺は回復師。
皆を癒す存在。
王の許可を取って勇者召喚の神殿へ向かう。
勇者召喚は、大量の魔力によって発動する。
顔を見合わせ、皆が頷く。
全員の魔力を、一気に部屋で放出した。
勇者召喚の部屋が光り輝く。
そしてミスリルが、能力を発動した。
その瞬間――
勇者召喚は、正反対の結果へ捻じ曲げられた。
皆の姿が、光と共に消えていく。
勇者召喚ではなく……
勇者のいる世界へとサンクたちは飛び立った。
そしてサンクが言った。
「さあ、人間どもを浄化してやろうじゃないか」
終わり
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