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一番欲しいもの  ショートストーリー


ーー今日は早く帰って来てね。用意して待ってるーー

有崎は高野に連絡をした。今日は高野の誕生日。プレゼントの用意も食事の買い出し、ケーキの予約、完璧に出来ていた。

「俺も早く帰れるように仕事を済ませないと…」

頭の中では今日のタイムスケジュールを何度も確認していた。ふと昨日の高坂の事が思い出された…プレゼント…何だろう…やはり気になる。

気持ちを切り替え集中していると弓月の声が響いた。

「有崎!!」

「はい!」

部長のデスクの前に立っている弓月の横に立つ。

「有崎、トラブルが起きて弓月がこれから京都に出掛ける。弓月の仕事を引き 

 継いで欲しい。大丈夫か?」

「はい、分かりました。やってみます」

「頼んだ。分からなかったら俺も見るから聞いてくれ」

「はい」

有崎は嫌な予感がしていた。

「弓月さん…もしかして…」

「ああ…高野も一緒だ…悪いな…」

「やはり…」

弓月と高野はトラブルになるとコンビで駆けつけ解決させる。それが今定着していた。しかしよりにもよって今日なんて…仕事と分かっていてもやるせなさが溢れる。

「…高野の所にいくぞ…」

「…はい…」



静かな会議室にふたりの声が響く。

「冬真…ごめん…」

「高志さんが悪い訳じゃないから…」

話しを聞いた後、高野は弓月に言って少し有崎との時間を貰った。

「今日、楽しみにしていたのにな…明日に延期…だな」

「うん、待ってる」

今にも泣きだしそうな顔の有崎を強く抱きしめた。有崎はわがままを言わない…

自分で消化しようと溜め込む。だから高野は心配だった。

「今日は七夕なのにな…離れるなんて…ろくでもない…」

「…大丈夫、明日会えるから…」

「ああ…」

高野は有崎の顔を持ち上げ優しく微笑み深いキスをする。名残惜しいそうに唇を離し先程重ねていた有崎の唇をそっと指でなぞる。

「行って来る」

「うん、いってらっしゃい」

会議室を出て高野は出張の準備、有崎は弓月と引継ぎに忙しく動いた。

流石に弓月の仕事はとても大変で部長の力を借り何とか緊急性のあるものは処理する事ができた。忙しくて寂しいと感じる暇が無かった事は救いだった。

「疲れた…」

有崎が帰った先は高野の部屋で手にはケーキを持っていた。予約していたケーキは閉店ギリギリで受け取る事ができた。暗い部屋の電気を付ける。

ケーキを冷蔵庫に入れてソファーに疲れた身体を沈める。部屋は寂しいほど静かだ。

「はぁ~疲れた…」

本当なら楽しく笑って幸せな時間を過ごしていたはずなのに…

ふとテーブルに置いてあるプレゼントに目が止まった。

「高坂のもあるのかな…」

包装してあるプレゼントは3つ、後はバラバラにお菓子の包などが置いてあった。このお菓子は”え?今日誕生日だったの?これあげる!”的な感じの物だろう。

プレゼントの一つに小さな紙袋に入った青い紙で包装してある物の中に、二つ折りのメッセージカードが入っていた。無意識に手に取ってしまった…

見たい気持ちと見たくない感情が入り乱れる。自分が知りたくない内容だったら…もしそれが高坂の物だとしたら…カードを持つ手が震える。意を決してカードを開いた。


      お誕生日おめでとうございます。

   仕事ではお気遣い頂きありがとうございます。

   仕事だけではなくプライベートでも高野さんと

   関われたら嬉しいです。今度キャンプ連れて行って

   下さい。よろしくお願いします!

                   高坂



「はあ~~!何をやってるんだろう俺は…高志さんは俺を大事にしてくれて

 いるのに…」

信じているのに…信じて貰っているのに…好きだから大切だから欲が出る…不安になる…自分だけを見て欲しい…

「わがままだな…もう止めよう」

カードを元に戻し着替えて料理の下準備を始めた。明日は楽しい日にしたいから。



次の日、高野と弓月はトラブルを解決し商談の日程まで取り付ける事が出来た。帰りの新幹線の中で高野は弓月に相談をしていた。

「有崎が最近変?」

「はい、ため息ついたり寂しい表情をしたり…仕事で何かありましたか?」

「別に何も…それは…仕事では無いんじゃないか?」

弓月は有崎を見て何となく気が付いていた。

「高野…有崎が元気を無くす原因は本当に仕事だと思うか?」

「他に何かあるかな…」

腕を組み考える高野。

「本当にお前は鈍感なんだな…」

「なっ!鈍感…先輩…知っているなら教えて下さいよ!」

「もし…もしもの話しだ。有崎が俺と寄り添いながら歩いていたらお前はどう

 思う?」

高野は少し考えて

「何か問題点を話し合ってる?かな」

弓月は頭を抱えて”違う違う”と頭を振った。

「悪い、例えが悪かった…あ~、うん。有崎が他の奴と仲良く笑いあっていた  

 ら? 四六時中一緒にいたらどう思う?」

「嫌です!」

高野は即答した。

「それだ!」

”それ?”と言い首を傾げた。弓月は大きなため息を吐き高野の肩を叩いた。

”色恋沙汰には本当に疎い奴だ”と呆れる弓月だ。

「お前が誰かに取られやしないか不安になってるんだよ」

「ええええ!なぜ?」

「なぜって…お前…何気に人気あるからな…心配なんだろう…」

高野が高坂と話している時の有崎の不安そうな顔を弓月は見ていた。

「安心させてやれ」

弓月に言われて腑に落ちなかったが、有崎に寂しい顔をさせているのは確かな事で、原因が自分なのであればどうにかしなくてはいけない。

「…どうしよう…」

悩んでいる高野を見てニヤニヤしている弓月だった。



有崎は仕事を定時で上げ急いで会社を出る。高野は出張から直帰になり有崎よりも早めに帰宅している。が、”出掛ける用事が出来たから急がなくても良いよ”と連絡が入っていた。ならば居ないうちに用意したいと急いでいるのだ。

「逢える!」

嬉しい気持ちから足早になってしまう。家に着き着替えた。テーブルにあったプレゼント達は消えている。

「見たんだ…」

呟くとキッチンに行き手際よく調理していく。料理がほとんど出来上がる頃に高野が帰ってきた。

「ただいま~」

「お帰りなさい」

「ん~~ん、いい匂い!」

食卓には高志の好きな料理が並んでいた。高野が料理を見ていると後ろから有崎が抱きつく。

「逢いたかった…」

高野は有崎に向き合い抱きしめた。そしてキスをする…何度も唇は重なり寂しさを埋めていった。席に着き料理を堪能した。どの料理も美味しかったが高野は珍しく酒を飲まなかった。料理が少なくなった頃、有崎は箱を出す。

「高志さん。これ!」

そう言いながらプレゼントを渡す。

「ありがとう。嬉しいよ。何かな~」

箱を開けるとアウトドア用の時計が入っていた。

「俺とお揃い!これなら普段一緒に付けていても大丈夫かなと思って…」

有崎は自分の腕にしている時計を見せた。

”そうだな”と言い高野も時計を腕に付け有崎に見せた。時計を見ながら高野は言う。

「冬真…俺さ、一番欲しい物が有るんだ」

「え?何?」

高野は有崎の右手を取りポケットから小さな箱を出した。中には二つの指輪が入っていてその一つを有崎の薬指にはめた。そしてもう一つを自分の薬指にはめて微笑む。

「!…高志さん…」

「冬真…俺冬真の事しか見えてない…俺にとって冬真が一番なんだ。

 俺も冬真にとって一番で有りたい…俺は冬真の物だと思ってる。

 一番欲しい冬真の全部貰っていいか?」

有崎の目からは涙が落ちるが最高の笑顔で頷き高野を見ている。

高野の指輪と自分の指輪を触っている有崎に言う。

「これで、俺は冬真の物だよ…左の薬指の時は一緒に買いに行こうな」

有崎は声を出せず頷いて見せた。高野は有崎に近づき抱きしめキスをする。



高野は会社にも指輪をはめて行った。女性の影が無かっただけに驚かれたが、思いのほか祝福ムードで高坂に至っては“今度紹介してください!”とニコニコしているのを見て有崎は気が抜けてしまった。

舘石には”あら~~”と茶化されたので経緯を話したら”嫉妬されちゃったのね~”と言われ”嫉妬?”と天然を爆裂させ呆れられた。


その週末”タップ”では高野の誕生日会を開いており常連さんも指輪を見てダブルでお祝いだ!と高野はたらふく酒を飲まされ騒いでいる。

「冬真は指輪しないの?」

ヒロに小さな声で聞かれたので首元からネックレスに付いている指輪を見せた。

「俺はこれ。してもいいけど後々面倒だからって高志さんが」

「良かったね」

ヒロの言葉に満面の微笑みを浮かべると

「こらこら、その顔は俺の前だけにしてくれ」

と耳元でささやかれて赤面する有崎だった。


                         完


君の瞳に映る笑顔   ご覧いただきありがとうございます。

高野の天然、鈍感に有崎は苦労しそうですね。思いのほか長くなってしまいました。

 ふたりに幸あれ!!

今回も楽しんで頂けたら幸いです。そして今までお付き合いいただきありがとうございました。

                       あらかると


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