26話「エピローグ」番外編12
――アリシア視点――
「アリシア、結婚式に使うブーケのことだけど」
「エデル、それなら良い花があるわ」
私がタイムリープしてから、かなりの時間が流れた。
私とエデルは学園を卒業し、公爵家の仕事に勤しんでいる。
私は庭の隅にある花壇にエデルを案内した。
「この白い花はどうかしら」
花壇一面に純白の花が咲き乱れている。
「見たことがない花だね。
どこから手に入れたの?」
「それがよく分からないの。
いつの頃からかここに生えていたのよ。
庭師に聞いても植えた覚えがないって」
「草原に行ったとき靴の裏に種がついてたのかな?
それか鳥が運んで来たのか、風で運ばれてきて自然と花壇に根付いたか」
エデルが花壇に白い花が咲いている理由を推測する。
「私もそう思うわ」
「なんでこの花をブーケにしようと思ったの?
確かに綺麗な花だけど、公爵家の庭には見た目が豪華な花や、鮮やかな色の花だってあるのに」
「そうね他にも美しい花はたくさんあるわ。
でもこの花を見ると落ち着くの。
なぜだか懐かしい光景が見えるような不思議な感覚に襲われるの。
だから私どうしてもこの花がいいの」
「不思議な感覚に襲われる……か」
エデルは半信半疑という顔をしていた。
「花嫁のブーケをこの花にしたいというのは私のわがままよ。
だめ、かしら?」
小首をかしげ、エデルを見上げる。
「そんなに可愛い顔でおねだりされたら、断れないよ」
「ありがとう、エデル」
「その笑顔も反則、可愛すぎる。爆発する」
エデルが口元を手で押さえ、顔を赤く染めた。
「綺麗に咲いたのに切り取ってごめんなさい。
結婚式の当日に、あなたがたの中から何本か選んでブーケにするけどいいかしら?」
風を受けゆらゆらと揺れる花に触れ、そっと話しかける。
「花に話しかけているのかい?」
「そうよエデル。
この花には結婚式のブーケという大役を担ってもらうのよ。
花に了承をもらわないと失礼よ」
「そういうものかな?」
「そういうものよ」
「結婚式で白いブーケを手にした君を早く見たいよ。
美しい花嫁姿の君を国中の人に見せびらかしたいような。
誰にも見せずに寝室に閉じ込めておきたいような、複雑な気分だ」
「私の旦那様になる人は独占欲が強いのね」
「君の父上には負けるよ。
フォスター公爵は結婚式で号泣するだろうな。
義父になる人のために、ハンカチを多目に用意しておかないとね。
それともフェイスタオルの方がいいかな?」
「あらそれもいい考えね」
私とエデルの結婚式で、フェイスタオルを片手に号泣する父の姿を想像したら、吹き出してしまった。
つられてエデルも笑う。
私とエデルの笑い声が花畑に響き、白い花がゆらゆらと揺れていた。
☆☆☆☆☆
――結婚式・当日――
新婦控室。
やり直す前の世界では、お父様に私の花嫁姿を見せることができなかった。
やり直す前の世界のお父様にも、私のウェディングドレスを見せたかったわ。
庭で摘んだ白い花を、メイドのレニに頼み束ねてもらい白いリボンをつけてもらった。
とても可愛いブーケに仕上がった。
本来は新郎の控室にいるはずのエデルが、私のウェディングドレス姿を見たいといって、新婦控室をおとずれていた。
「……お父様。
お父様、私はエデルと結婚します。
今幸せかですって? とても幸せよ。エデルが私を愛してくれるから。
私はとっても幸せです。だから泣かないで、お父様」
結婚式の前にエデルと手を繋ぎ父にそう告げると、父は号泣した。
正確には父は私の花嫁姿を見た時からずっと泣いている。
「アリシア……大丈夫?」
エデルに名を呼ばれ、自分がボーッとしていたことに気づく。
「エデル。今、花畑でたたずんでいるお父様が見えたの」
「フォスター公爵……いやお義父様なら、そこで号泣してるけど?」
父は新婦控室の隅で、ハンカチを片手にわんわん泣いている。
あのハンカチで五枚目だ。
ハンカチを使い切ったときのために、フェイスタオルも用意してある。
「あらあらお父様ったら、あんなに泣いてしまって。
バージンロードを一緒に歩けるかしら?
私はお嫁に行くのではなくお婿を取りずっと公爵家にいるのだから、これからも毎日会えるのだから、そんなに泣かなくてもいいのに……」
「それでも悲しいのが、父親というものですよお嬢様」
メイドのレニがベールを片手に近づいてき
た。
これからベールを取り付け、式場に入る前にベールダウンする。
それまでにエデルには部屋を出てもらわないと。
ベールダウンした姿は、祭壇の前で初めて見せたいもの。
レニは前回の人生では馬車の事故で亡くなった。
だが今回は事故を未然に防いだので、今も元気に生きている。
泣いてるお父様を見た参列者は「鬼の目にも涙」とか言いそうね。
私が人生をやり直したことを話してからのお父様は、それまでの温厚な人柄が嘘のように、他家の貴族に厳しく接していたから。
私の前では変わらず甘々でデレデレなお父様だけど、外では鬼公爵と呼ばれているのを知っている。
鬼公爵でも泣くことがあるのかと……後世の語種になりそうだわ。
「エデル様、今からお嬢様にベールを取り付けます。ですから……」
レニはエデルに部屋を出て行ってもらいたいらしい。
「分かったよ。
一足先に祭壇の前に行き、アリシアが来るのを待っているよ」
エデルは私の手を握りそう呟くと、名残惜しそうに何度も振り返りながら、新婦控室を出ていった。
またすぐに祭壇の前で会えるのに、エデルは寂しがりやね。
メイドのレニが手際よくベールを取り付けていく。
「お嬢様、お支度が整いました」
「ありがとう、レニ」
ベールを取り付け終えたので、レニに席を立つようにいわれる。
『ありがとうアリシア、わしももう少し生きてみるよ』
「えっ?」
「どうしました? お嬢様?」
「今、お父様の声が聞こえたような?」
「旦那様なら先程ようやく泣き止み、式場の扉の前で待っていると言って、新婦控室を出ましたよ」
お父様は控室の外にいるの?
では先ほど聞こえた声はいったい?
「お嬢様、お支度は整いました。
式場に集まった皆様が、花嫁の入場を首を長くして待っていますよ」
「そうね」
少し前に見た花畑の光景は幻覚で、先ほど聞こえたお父様の声は幻聴かもしれない。
それでも私は、少し前に見た花畑に佇むお父様も、先ほど聞こえた声も、やり直す前の人生のお父様のような気がして仕方なかった。
やり直す前の人生で、私を失ったお父様は、あれからどうなったのかしら?
花畑に佇むお父様の姿は、今のお父様と同じぐらいの年齢に見えた。
でも目の下にくまを作り、頬は痩せ、この世界のお父様より随分やつれているように見えた。
「お父様、私は必ず幸せになります。
私は今でもお父様の幸せを願っています。
だからそちらの世界のお父様も、健康に気をつけて長生きしてください」
私のこの言葉がやり直す前の世界にいるお父様に届きますように。
やり直す前の世界のお父様が、一日でも長く生きられますように。
「さあ、お嬢様お早く」
「今行くわ」
そう願いながら、私は新婦控室を後にし式場に向かった。
――終わり――
最後までお読みくださりありがとうございます。
少しでも面白いと思っていただけたら、広告の下にある【☆☆☆☆☆】で評価してもらえると嬉しいです。
次回作を執筆する励みになります。
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最後までお読みくださいありがとうございます。
番外編にまでお付き合いいただけてとても嬉しいです。(^^)
番外編は後付けなので、いろいろと矛盾が出てきましたね(^_^;)
三回目があれば、ルーウィーとジェイはやり直せそう……かな?
スタン、ゲレ、カスパーは何回やり直してもだめっぽいかな(;´∀`)
ラストのフォスター公爵とアリシアの話は、ある時ふっと降りてきました。
公爵ももしかしたらタイムリープ……?
公爵がアリシアの話をすぐに信じたのも、アリシアをエデルに引き合わせたのは、なんとなく前回の人生を覚えていたから……?
その辺は読者のご想像におまかせします。
後書きにまでお付き合いいただけて嬉しいです。ありがとうございました。(^^)
現在、新作を投稿しております。そちらもよろしくお願いします。
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【番外編追記】
「ジェイ・ヨッフムの家族」
・ジェイの両親→毒殺
・ジェイの妹と弟→名前を変えて国外の修道院へ(兄貴の犯した罪は教えてあります)
・使用人は無事
・師匠→弟子の犯した罪に衝撃を受けて自害
「ゲレ・ベルガー(男爵家庶子)」
・ゲレの父親→毒殺
・男爵夫人(ゲレの義母)→強制労働所へ
・父親の親族→強制労働所へ
・母親の親族→何らかの巻き添えくってる
・使用人は無事
「カスパー・ラウの家族」
・カスパーの両親→毒殺
・その他の親族は強制労働所へ
・使用人は無事
「ルーウィーの家族(実家のホルン子爵家)」
・ルーウィーの両親→毒殺
・使用人は無事
「スタンの親族」
・母(側妃)、祖父(ハッセ子爵)毒殺
・父(国王)自害
・ハッセ子爵家の親族は強制労働所へ
・使用人は多分生きてる……と思う
※三親等先の親族と使用人と家畜まで皆殺しにしようと思ったのですが、流石に残酷なので止めました。
本人と両親のみ毒殺。
その他の親族は平民にして強制労働所へ、未成年者は国外の修道院へ。
使用人と家畜は無事です。(ハッセ子爵家の使用人は生きているかあやしい)
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下記の作品もよろしくお願いします。
【連載】「不治の病にかかった婚約者の為に危険を犯して不死鳥の葉を取ってきた辺境伯令嬢、枕元で王太子の手を握っていただけの公爵令嬢に負け婚約破棄される。王太子の病が再発したそうですが知りません」 https://ncode.syosetu.com/n5420ic/ #narou #narouN5420IC
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