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交流

 今日も、午前中にこの世界の事を学ぶ為の講義を受けた。

 内容は文字の書き取り。

 私達は読む事はできても書けはしないので、書けるようになりましょう、との事だった。

 文字が五十音順に並べられた手本を見ながら、ひたすら字を書いて覚えていく作業を繰り返す。

 ……ちょっと、手が痛くなった。

 やがて終了の時間になって、午後の予定を習ったばかりの文字で書き、提出し退室する。

 その際、講師役の人に、『昨日は自分が元いた世界の文字でこれを書きましたが、どうやって読んだんですか?』と素朴な疑問を投げ掛けてみたら、その人はにっこり笑って、『翻訳の魔法で』と答えた。

 魔法って、便利だね。

 そう納得した私は、意識を美味しいご飯へと切り換えて食堂へと急いだ。

 今日は何を食べようかな?


「失礼。この椅子、空いているかな? 持って行って構わないかい?」

「どうぞ~」


 昨日と同じ席に座ってメニューを眺めていると、また男性から椅子強奪の為の声がかかり、私はメニューから顔を上げずにさらりと答えた。

 好きにするがいいさ、どうせ私の元には人は来ない。

 もはや半分拗ねながらメニューを捲っていると、視界の端に、私の正面の椅子を引く手が映り込む。

 むっ、いくら誰も座らないからとはいえ、一言の断りもなく無言で持って行く気?

 必要ない椅子だけど、そんな人には渡しませんよ!?

 ええ、必要ない椅子だけどね!!


「ちょっと! いくら何でも、断りもなく持って行くって失礼すぎま……せ、ん……!?」

「え? ……ああ、失礼。お聞きするべきでしたね。ここ、空いていますよね? 座ってもよろしいですか?」

「えっ、すわ、座る、の……!? ……えと、貴方、昨日の……!!」

「あ、はい。……そういえば昨日は結局、名乗っていませんね。申し訳ありません。私はクルスイード・グランベリルと申します。どうぞ、クルスとお呼び下さい。ユイカ嬢」


 メニューから顔を上げ、怒りを表情と声に表し言い放った私の視界に入ったのは、昨日街から帰った時に出会い、あの少年と同じお説教をしてきた男性の、どこか困ったような笑みだった。

 次いで、その男性から告げられた想定外の内容に、私は激しく動揺してしまう。

 座るって、座るって言ってるよこの人!?

 私の正面の、あの椅子に!!

 え、何で、だってこの人、召喚された女性達の伴侶候補なんだよね?

 あ、あれ、そういえばこの人昨日、私とも話したかったみたいな事、言ってなかった?

 けど不用意に交流して、万一女神様のお怒りをかうのが怖くて様子見してたとか……あれ、でも誤解がどうとか、本末転倒がどうとか、言って、今からでも交流を持たせて戴こうと、って…………ぅえええええ!?

 交流するって宣言されてた!!


「…………。……ユイカ嬢? 座ってもよろしいでしょうか?」

「えっ!? あっ……!! は、はははい、どうぞ!!」

「ありがとうございます。では、失礼しますね」


 再びかけられた声に、意識を思考から戻すと、男性はまだ椅子の隣に立ったままだった。

 それに気づいた私は慌ててブンブンと顔を上下させる。

 すると男性はホッとしたように表情を緩め、椅子に座った。

 その様子を見ながら、私は混乱する頭を必死に落ち着かせようと努めていた。

 私は今まで生きてきた十八年の中で、恋愛的な意味で異性から好意を向けられた事はない。

 いつも自分の片思いで終わっていたのだ。

 離れた場所から見つめるだけで終わるのがほとんどで、バレンタインデーというイベントに乗じ勇気を出して告白しても振られて終わるのが私だった。

 だからこんなふうに男性からアプローチされるのは初めてで…………どうしたらいいか、わからない。

 えっと……そう、話、まずは話だ。

 話をしなければ……この人も昨日、私とも話したかったって言ってたんだし。

 ああ、でも、何の話を…………って、ん、んんっ?

 ……私"とも"、話したかった?

 それは……つまり、女性達全員と一通り交流して、その上で一番気の合う、興味を惹かれる人を見つけよう、って、事じゃない……?

 ……という事は、これは別にアプローチとかそういうわけじゃあないんじゃ……まだそれ以前の段階、だよね?

 えっと……うん、じゃあ、やっぱり私が伴侶に選ばれる事は、ないかな。

 たとえこの人が外見で伴侶を選ぶ人でなくても。

 何しろ私は、性格も至って普通だし。

 良くも悪くも……いや、もしかしたら、悪い面のほうが多いかもしれない、かな。

 ……なあんだ、そっか、アプローチじゃあないのか。

 ちょっと残念だけど、それなら気は楽だね。

 変に緊張する事なく、会話を楽しむ事ができるよ。


「えっと……クルスイード・グランベリルさん、ですね? 改めまして、私はユイカ・トガクレです。よろしくお願いします!」

「はい、こちらこそ。よろしくお願いします、ユイカ嬢」


 すっかり気を楽にした私は、改めての自己紹介から、会話を始めた。

 次は……とりあえず、この食堂のメニューについてかな?

 美味しいご飯を食べながら、ゆっくり話を広げていこうっと。

 て、あれ、そういえば……グランベリルって、この国の名前だし、皇太子様の姓も同じじゃあなかったっけ?

 どういう事だろう……兄弟にしては似てないし……それにもし兄弟ならクルスイードさんも王子様だから、婚約者がいるはずだよね?

 なのに私達の伴侶候補って……?

 う~ん、それも、聞いてみようかなぁ?

ストックが切れてしまった為、次の更新は、早くて月末頃、遅くても来月一日になります。

ちゃんと更新しますよ!(;゜∀゜)

詳しくは昨日、九月十三日の活動報告にて。

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