訓練開始
「では、訓練を始めようか。まずはやはり、結界魔法からかな。慣れて練度が上がれば、どんなものも結界で防げそうだし」
「そうだの。まずは即戦力になり得るそれを使いこなせるようにすべきだろうて」
「ですね。その他は追い追いでいいでしょう。代えがきくものですし」
「えっ……あ、あのぅ……私、空間転移の魔法も練習したいんですが……。年移月までに少しでもレベルを上げて、実家に一時帰省したいので……」
「「「 え 」」」
「え?」
私のステータス確認を終えた後、訓練方法について話し出した三人に遠慮がちに自分の意見を述べると、それまでお互いを見ていた三人の視線は一気に私へと集中する。
そしてそのまま固まったように私を見つめる三人に対し首を傾げると、やがて三人は再びゆっくりと動きを再開した。
「……まあ、"一時帰省"と言うなら、こちらにもまた戻るという事だし……」
「しかし、場合によっては考えを変え、そのままという可能性も……。これは、陛下方にご報告せねばの。女神様の恩人を得たというに、もし一時で見限られ去られたとなっては他国にどのような目で見られるか」
「気になっている花嫁候補に去られたくはないですね。帰省するなら、私もついて行きますかね……」
「?? あの……?」
「「「 おっと、失礼 」」」
再びお互いに視線を合わせ、小声で何かを話し合っている三人に声をかけると、次の瞬間、三人は一斉に私を振り返った。
三人とも、何故か凄く良い笑顔で。
な、何……?
「じゃあ、結界魔法をメインに訓練して、その合間に息抜き程度に空間転移魔法も訓練しようか。息抜き程度にね」
「え? でも」
「うむ、それが良いですな。まずは有用性の高いものを一番に考えねば」
「えっ、でもあの、それじゃ年移月の帰省が」
「ああ、大丈夫ですよユイカ嬢。転移魔法なら私も使えます。いざとなれば、私がお供する形で貴女の帰省をお手伝いしますから」
「え、お、お供って? それって、一緒に」
「「「 では結界魔法の訓練を始めましょう 」」」
「…………はい」
……私の訓練は、結界魔法からに決まったようだ。
三人に宥めるように説得の言葉を告げられた後、良い笑顔のままに揃って結界魔法の訓練の開始を、どこか有無を言わせぬ口調で放たれれば、反論などできない。
大人しく頷くより、私が取れる行動はなかった。
「よし、じゃあまずは一回結界を展開させてみようか。自分をぐるりと包む結界をイメージして、"結界発動"、もしくは"結界展開"と口にしてみて、ユイカ嬢」
「は、はい! えっと……防御結界、展開!」
私は買い物の時に展開できた薄い膜が体の前後左右を覆うように現れるイメージを浮かべながら、呪文を口にした。
すると次の瞬間、目の前に半透明の薄い膜がてきる。
周囲に視線を巡らせれば、それはちゃんと体の四方を覆っていた。
「や、やった、成功だ……!」
「そうだね。……けど、これは。ちょっと脆い、ですかね? 閣下?」
「うむ……そうだの」
「"薄さは脆さの表れ"、でしたかね」
三人は難しい顔をしながら、私が作った結界をコンコンと叩いてくる。
そして、大将軍様はジューン様とクルスイード様に『離れておれ』と短く告げると、ゆっくり腰を落とし、『むん!』と言い放って結界に向かって勢いよく拳を叩きつけた。
直後、バキーンという派手な音をたてて結界が粉々に砕け散る。
……あの技は確か、正拳突きと言っただろうか?
先日の男達が何度も叩いて壊した結界を一度で粉砕するとは、さすがは大将軍様。
格が違いますね。
「……やはり脆いの。ユイカ・トガクレ。結界は展開できるようだから、その強度を上げる事が貴女の最初の課題だの。薄い膜ではなく、厚みのある何かを強くイメージして、とにかく何度も展開する事だ」
「そうですね。一度で砕けなくなればひとまず合格にしようか。展開する範囲を広げる練習は、それからだな」
「は、はい! 頑張ります!」
「うん、じゃあもう一度」
「あ、はい!」
えっと、薄い膜じゃなく、厚みのある何かをイメージ……。
厚みに加え、固い物のほうがいいよね?
厚くて固い物、厚くて固い物……。
防弾ガラス、切り出した石や木、鉄板…………よし!
「防御結界、展開!」
イメージして呪文を唱えると、今度は透明と白と茶色と黒が斑模様になった板が現れた。
「せ、成功……した?」
「むん!」
「え。あっ……」
イメージしたもののそれぞれの色が混じりあったその板に成功した事を期待したが、次いで聞こえた大将軍様の声の直後、それはやはりバキーンという大きな音をたてて粉砕された。
「まだまだだの、ユイカ・トガクレ」
「は、はい……もっと頑張りますっ」
その後も、結界を展開しては大将軍様に一撃で粉砕される事を繰り返し、午後の訓練は終了した。
ひとまずの合格が貰える日は、まだまだ遠そうです……がっくり。
次の更新は四日です。




