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第4話 本拠地強襲


 南国の島、エラミ島に強い日差しが降り注ぐ朝。

 俺は倉庫で装備を整えて広場に来た。

 捕縛網を打ち出すネットランチャー二門と捕縛縄十本。さすまたにスタンガン。

 

 NPOのプレハブ小屋が立ち並ぶ傍にある広場。

 そこにはすでに40人ほどが警備服を着て四列に並んでいた。

 普段は交代を含めて6名。

 本土からの応援だと思われた。


 隊員たちの前に立ち、演説をしていた隊長の戸田さんが言う。

「おう、来たか悠斗。これから作戦を話すぞ」 

「りょうかいっす」

 俺は小走りで最後列に並んだ。



 戸田さんは言う。

「これから左隊、中央隊、右隊に分ける! 左と右は10名ずつ、中央は20名だ。まずは中央が突撃し、逃げた少女を左右の隊が捕える。各隊の隊長は地理に詳しいバイトと職員をつける。――悠斗、お前は中央でいいな?」

 戸田さんには妹を助けに来たと言ってあった。

 それを考慮してくれたのだろう。

「はいっ、望むところっす」

 戸田さんは、うむっと頷いた。

「では出発だ!」


 戸田さんの号令とともに、各隊に別れて進軍を開始した。

 緑の雑草を踏み、鬱蒼とした森の茂みを掻き分けて進む。

 中央隊は島の真ん中を流れる川に沿って北上する。


 俺はいつになく真剣に歩いていった。唇を噛み締めながら。

 ――妹を助ける! 必ず助けてやる!


 

 太陽が昇ってきて、ギラギラと照りつける。

 中央隊は静かに北上するものの、汗が額に浮いてきた。

 川岸を行軍する中央隊。

 濡れた足場に気をつけながら進んでいく。

 時々川の水がはねて靴を濡らした。


 小一時間もたった頃。

 島の北にある山が見えてきた。

 川に沿って急な上り坂を登っていく。

 辺りは大きな岩が転がり、よじ登るようにして進んでいった。

 時折、がらがらと小石が転がり坂道を転がっていった。

 


 そして。

 ついに川から離れた崖の中腹にある、洞窟近くまで来た。

 入口付近は木々が生い茂っているため、教えられなければ気付けなかった。

 ――こんなところに本拠地があったのかっ。

 

 中央隊の隊長、戸田さんが振り返っている。

「最高学年の少女たちが、野生化した少女たちのボスでもある。彼女たちを捕えなければ鬼ごっこは終わらない。――覚悟はいいな?」

「「「はいっ」」」

 それぞれが小声で唱和する。


 戸田さんは洞窟に向き直って右手を上げた。

「かかれっ!」

 ダダダッと駆け出す俺たち。

 洞窟の入口目掛けて駆け登っていく。


 ――すると。

 足音に気付いたらしい一人の少女が入口から顔を覗かせた。

 お嬢さまの雰囲気を持つ、長い黒髪の少女。端整な顔が美しい。

 俺たちを見て、驚愕で目を見開いた。

 さっと首を引っ込める。


 ――突入がバレた! やるしかない!



 そう思ったのは俺だけではないらしい。

 中央隊の人たちは、おおお! とときの声を上げて入口へ殺到した。

 戸田さんが叫ぶ。

「ひるむな、かかれぇ~!」


 どどどっと俺たちは洞窟の入口になだれ込んだ。

 ――しかし。


「ぐわっ!」

 突如、先行していた隊員の一人が倒れた。


 奥へと目を凝らす。

 明るいところから暗い場所へ入ったため、視野が効かない。

 それでも、暗闇から飛来する灰色の塊が見えた。

 おぼろげながら事態を把握する。


 ――投石だ!


 野性に還った少女たちは、洞窟の奥からこぶし大の石を次々と投げてきた。

 薄暗い洞窟の中で、艶やかな黒髪が次々と弧を描く。

 破れた吊りスカートの制服からのぞく白い素肌がきらめいた。


 俺はとっさに叫んでいた。

「壁だ! 壁に身を寄せるんだ!」

 隊員たちは、すぐさま壁に身を寄せた。

 ゴツッ、カツンッと石が転がっていく。

 そこまでコントロールが良いわけではないらしい。

 命拾いをしたと思った。


 俺の隣に張り付いていた年配の隊員が言う。

「助かった。さすがベテランだな」

「いや、それほどでも」

 俺は謙遜したが、壁に張り付いた隊員たちが口々に褒めてくれた。

「さすがだな」

「油断していたよ」

「まさか石を投げてくるなんて」

 少し恥ずかしくて、俺は照れ笑いを浮かべた。



 しばらく激しい投石が続いた。

 砲弾のような速度で飛んでくる石。

 何人かがうずくまる。


 しかし、しだいに石の飛んでくる間隔が広くなった。

 ――弾が尽きてきたらしい。


 俺は洞窟の真ん中で仁王立ちになって叫ぶ。

「行こう! 今がチャンスだ!」

「「「おおおっ!」」」

 隊員たちの声が薄暗い洞窟に反響した。



 十人以上の動ける隊員が突撃する。

 少女達は、白い歯をきらめかせ、ナイフのように長い爪を振りかざして襲ってきた。

 黒髪がひるがえり、スカートがめくれる。

 すらりとした細い太ももを付け根まで見せつけながら飛び掛ってくる。


 しかし、ここは洞窟の中。

 最前列でネットランチャーを撃てば、洞窟いっぱいに広がった。

 交代しながら連続でネットを発射していく。

 美しい黒髪の少女たちは、次々とネットに絡め取られて地面に転がった。

「しゃあああ!」

「みゃああああ!」

 彼女たちは目を吊り上げて暴れるけれども、ワイヤーの入ったネットは破れない。


 そんな少女たちを飛び越えて、俺は洞窟の奥へと走った。

 少女たちの確保は他の隊員に任せて。

 ――ここにいるはずの妹がまだいなかったから。


 できることなら自分の手で妹を捕まえたかった。

 他の人に任せたくなかった。

 いいや、違う。

 妹を助けられなかったら兄として失格だ、ぐらいに思っていた。


 ――待ってろよ、里梨花!


 俺の足音が、どんどん暗くなっていく洞窟に反響した。



 駆ける、駆ける、駆け続ける。

 俺は暗い洞窟の中を走り続けた。

 奥へ進むと天井を支えるための木の柱が立っていた。思い出したようにぽつぽつと。

 どうやら鉱山跡地らしい。


 時々、目の前に野性的な少女たちが現れた。

 襲いかかろうとする者。逃げようとする者。

 俺は二門のネットランチャーを駆使しながら、容赦なく彼女たちを絡め捕えて、地面に転がしていった。


 けれど知った顔がいない。

 妹は見当たらない。

 だんだん嫌な予感が募ってくる。

  


 そして――。

 ついに洞窟の最深部まで来た。

 壁は広げられて部屋のようになっていた。

 教室が二つはすっぽりと入りそうなぐらいの楕円形の部屋。

 俺はランチャーのカートリッジを装填しながら中へ入った。


 驚くことに、中は明るかった。

 焚き火が赤々と燃えている。


 ――火を使えるほど高度なのか!?


 焚き火の煙は上へと流れ、天井の穴へと消えていった。

 どうやら通気口があるらしい。



 そして焚き火の傍でうずくまる人影があった。

 野生少女たちのボス。

 長い黒髪を腰まで垂らした少女。背中が髪で覆われている。

 その横顔は忘れたくても忘れられない。


 俺は思わず叫んでいた。

「――里梨花!!」

 呼びかけに、里梨花はゆらりと首を巡らせた。垂れ目がちの可愛い顔に黒髪がかかる。

 目が据わっている。大きな黒い瞳には正気の光は無かった。

 まさか妹がボスになっているなんて。

 信じられなかったし信じたくなかった。


「……里梨花?」

 俺の呼びかけに、里梨花はゆらりと立ち上がった。

 ゆっくりとした動きだけれども、尋常じゃない動きに見えた。

 全身がバネのよう。

 野生化しすぎている!?


 俺は、背筋に冷たいものが伝うのを感じながら、それでも説得した。

「里梨花、お兄ちゃんだ。――迎えに来たよ」

「ソンナモノ――イナイ」

「え?」

 俺は野生化したのに言葉を喋っていることに驚いた。

 そんな俺の途惑いをよそに、里梨花は続ける。

「ココ ハ テンゴク――モウ ツラクナイ……」

 にいっと口の端を上げて里梨花は笑った。

 狂ったような笑みに見えた。

 彼女が、一歩踏み出す。洞窟の地面がジャリッと鳴る。


 俺は胸が締め付けられる思いに捉われながら叫ぶしかない。

「里梨花!! 辛くなくても、楽しさはないだろう! もう大丈夫だ! 必ず兄ちゃんがなんとかしてやる!」

 しかし俺の説得も、彼女には届かなかった。

 里梨花は可愛い唇を舐めながら、ニヤリと笑う。

「ウルサイ――キエロ!」

 

 ドンッ!


 里梨花が天井に頭が付くぐらいの大きな跳躍をして飛び掛ってきた。

「くうっ!」

 俺は横に飛びのきながら、ネットランチャーを構えた。


 ――里梨花は滞空中。

 確実に捕えた。


 バフッ


 気の抜けた音が洞窟に響く。

 ネットランチャーからネットが発射された音。

 ネットは飛び掛ってくる里梨花を捕えるように、確かに広がっていった。



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