青い光
「全てを喰らう牙の暴走」
ドットの言葉と共にバレルの銃口から光が暴れだす。その光景を疑って止まない二人に対して、ドットは頭さえ垂れているものの膝から崩れ落ちるようなことはなく、その場に立っていた。
そんな静寂の時はすぐに動き出す。
「何をするかと思えば、驚かせるだけ?」
撃ち出されたように加速したシャオフェイはただ一点、ドットを捉えて拳を握る。紫紺の気神が構える一撃も秒読み段階に入っており、動こうとはしないドットを見かねてモニカも動く。
もはや障壁を張る余裕がないと見たモニカはとにかくシャオフェイをドットから遠ざけようと、魔法を放つ。白い衝撃が地面を伝ってシャオフェイへと向かっていくが、彼女の一撃がドットを捉えるより先に届くかどうか、かなり微妙なラインだった。
「お願い、届いて…………」
モニカが呟いた時だった。シャオフェイに異変が起きる。
弾丸のような速さでドットに向かって接近していたシャオフェイが突然見えない壁にぶつかったかのように弾き飛ばされたのだ。それだけではない、振りろされる気神の一撃もまるで磁石の反発に力尽くで抵抗したように、大きく横にずれて何もない地面に叩き落とされる。唖然としているモニカが最後に見たのは、青く輝くドットの瞳だった。
「モニカ王女、大丈夫です。離れていてください。今の私は加減がわからないのです、どうか」
ただでさえ冷淡なドットだが、今のドットはまるで以前のドットが比にならないくらいに冷酷無比であるように見えた。青い瞳が発する光がゆらゆらと揺れ、制服から伸びる手首、首筋、そして顔。人肌を鮮やかな青いラインが走っている。鹿を思わせるような巻角、獣化したような顔つき、威厳と気品を感じさせる伸びた髪、みるみる姿が変化していくドットをモニカは後ずさりしながら見ていた。
吹き飛ばされたシャオフェイは起き上がったものの、何が起こったのか分からない様子だった。ただ皮肉なことに、自分の気神の一撃が躱されている事実だけは目に入った光景から理解していた。
「さっきから…………何がどうなって」
「余裕だな」
「――なっ」
モニカが見たのは尾を引く光だった。周りが暗いからだろうか、残像のように輝く冷たい光はドットが残したもの、瞬間移動のように見えた移動もこの光の軌跡によって通常の移動となんら変わりない、究極の速さで移動したということの証明でもあった。シャオフェイを片手で吹き飛ばしたドットはそのまま飛んでいくシャオフェイを追走し、追いついた瞬間地面にねじ伏せる。
地面に叩きつけたシャオフェイなど気にも留めず、ドットは垂直に跳ぶ。そうして眼前に見据えた紫紺の気神、その比較にもならない大きさの気神に向かって右腕を伸ばす。すると突如気神の胸のあたりに無数の刺のようなものが突き刺さる。生えてきたようにも見えるが、おそらく刺さったのだろう。
気神の胸に刺さった刺は次第に形を変え、一つ一つが異なる剣のようになってそのまま気神の背中を貫通する。ドットが地面に着地した頃には、既に気神は消え去ってしまっていた。
「さてと」
衝撃の痛みで身動きが取れないシャオフェイにゆっくりと近づくドット。その足音を聞いてか、シャオフェイは自分の体に鞭打ち体を起こす。さすがのシャオフェイもかなりの量の気を使っており、体の治癒に回す気も、またそのために集中する気力もなくなりかけていた。
「もう気神も呼び出している暇もない…………一旦引いて体勢を立て直さないと……」
足を引きずりながらドットから離れるシャオフェイ、だがふとした違和感を覚えてシャオフェイは足元を見る。すると、自分の足に無数の剣が貫通していることに気が付く。刺さっているという事実に気がついてしまったことで痛みを鮮烈に感じてしまう。シャオフェイはそのまま地面に倒れた。
「なに………………これ」
足に突き刺さっていた剣はやがて消えてしまうが、その傷は癒えない。このままでは痛みで歩くことすらままならないため、僅かな気を使って足の治癒を始めた、その時だった。肩を二度つつかれる。シャオフェイの全身を悪寒が走ったが、間に合いはしない。
青い瞳を持つ少年によって掴み上げられ宙ぶらりんとなってしまったシャオフェイに、ドットはようやくその凍てついた表情を崩して微笑んだ。
「さて、長い戦いもついに終焉だ。どうだ、楽しめたか?」
「楽しめたかって……そんなわけないでしょ。このまま終わる……? そうはさせない……」
襟を捕まれ身動きが取れないシャオフェイは、足の治癒を諦め最後の気を気神に使おうとした。背面に魔法陣を展開し、もう幾度と召喚した気神を再び呼び出そうとする。だがしかし、もうそんな猶予は残されていなかった。
「なぁシャオフェイ。俺が戦いの最初にお前になんて言ったか覚えているか?」
言葉には反応しない。できる限りの最速で気神を呼び出すために全神経を注いでいるからだ。答えがでないことを確認して、ドットはその目を更に輝かせる。
目だけではない。ドットの体が暴力的な光で輝き出す。その輝きが増していくごとに、ドットの立つ地面は次第に剥離していき、長い髪が風に吹かれたように暴れだす。シャオフェイはドットに掴まれている首のあたりに熱を感じていた。
しかしその間に気神を呼び出す準備が整ったシャオフェイは思わず笑みが溢れる。意識を少年に戻し、哀れみの言葉でもかけようかと視線を移したその時だった。
凍てつくドットの表情はシャオフェイを完全に貫き、とてつもないプレッシャーを放つ。ドットは言った。
「この力はトリガーで喰らったエネルギーを無理やり俺の体に封じ込めることで生まれた、いわば暴走状態の力。そして俺が今からしようとしているのは、その力の譲渡だ」
シャオフェイは黙ったまま聞いていた。いや、言葉を発することができないのだ。
「俺の体はこの能力のために力を封じ込める器と化している。だが、器ではない奴に無理やり力を流し込んだらどうなると思う?」
それまでシャオフェイは掴み上げられても抵抗はしなかった。それは気神さえ出してしまえば形勢逆転できると思っていたから。
だが、今のシャオフェイは違った。手足を暴れさせ、その拘束からの解放のために全力を尽くしていた。襟をきつく縛られ、そして圧倒的な威圧で言葉がうまく出ないシャオフェイから嗚咽が漏れる。ドットは笑った。
「さぁ、最後くらい美しく散れよ。暴走する力の奔流」
まばゆい光に包まれた。そのあとで耳を劈くような轟音がとどろき、同心円状に衝撃波が走る。
最後に残ったのは、疲れ果てて力なく上を向いた黒髪の少年だった。目にかかる髪も払わずに、少年は小さく息を吐いた。
「こっちは終わったぞ、ヴァン」




