初めてのクエスト
結局、いろいろな話し合いの結果最前線がレベッカ、続いて僕、勇者。最後尾に王女モニカが付くことになった。
作戦としては、レベッカがオークの体力を減らして、僕がとどめを刺す。その際に体力が減ったら、すかさずモニカが回復するという抜け目無い作戦だ。
場所は王都をから少し離れた街道脇の草原。夕暮れ時になるとオークの群れが草原で暴れ騒ぐ被害が起こっているというものだ。オークのレベルは7。 まぁ、一撃だろうね。ものの見事に。
「では王女、クエスト区域はこの辺です」
「わかったわ、勇者、構えて」
「ほーい」
どうやら着いたみたいだ。思ったより広いな、それに見晴らしがいい。これなら奇襲される心配もなさそうだ。
取り敢えず、武器屋で貰った片手剣を装備してみる。うわ、なんかすごく強くなった気分。
「王女様、今の僕の攻撃力ってどれくらいなんですかね?」
黒いウィザードハットに白いローブで完全に魔法使いと化している王女に訪ねてみる。そういう数値とか聞けば、テンション上がるかなとか思ったのだ。
「え、そうね……オークを倒そうと思ったら数十回攻撃しないといけないくらいかな」
はい、お疲れ様でした。お荷物決定です。
「……しねッ」
はい、来ると思ったよ。だから構えてたよ。そのおかげでダメージも最小限さ、褒められて嬉しくなった気分がまだ勝ってるもんね。ざまあみろ!!
「あ、オークです!! しかも能力持ちですよ!!」
レベッカが王女に聞こえるように声を上げた。どうやらお出ましのようだ。でも能力持ちオーク? まあちょっとだけ強いってことか。
「第一波、来ますッ!!」
おうおう、なんか本格的に戦闘らしくなってきたね。基本的に面倒くさいから何事もやらないわけだけど、何も嫌いなわけじゃない。実際、こういう局面に立たされると結構滾るものである。
「勇者、一応防御上昇付与しておくから!!」
「あ、ありがとうございます、王女!!」
手に持ったロッドを振って、青い光を生み出す王女。それが僕の体に溶け込むように伝わっていく。
すると、なんだか自分の表面に薄い膜ができたような感覚を覚えた。おぉ、初体験。
「攻撃きますッ!!」
レベッカが言って身構える。腰を据えて、レイピアを構える。レイピアといえば、防御には向かない、刺突専門の剣みたいな感じだけど、熟練者になれば飛んでくるものにかすり当てるように突く事で軌道をずらしたりすることができるって本で読んだことがある。そこまでレベッカが熟練しているかは別として、最前線を任されたその責務くらいは果たすだろう。
慌てて、剣を構えて防御姿勢を取る。まさかの事態もありえるし。
一瞬光に包まれ、オークが能力を放つ。右手に持った棍棒を大きく振りかぶって、勢いよく投げてくる。
「おぉ、最近のオークは投擲も心得ているのか!! 時代は進歩してるんだな!!」
素直に感心。本で見てもモンスターたちの戦い方には何度も非効率な物が見られていたからな。改善するとは知の豊かなモンスターだ。
さて、レベッカのおてなみ拝見の時間だな。さぁ、このスキルにどう対処する?
「ハッ――」
威勢良く息を吐いて躍動したレベッカ。だけどどうしてだろう、目の前からレベッカが消えた。
あれ、レベッカさん? 刺突か何かで棍棒の軌跡を変えてくれたんじゃ……
「ブッはッ――」
一瞬何が起こったか分からなかった。気がついたら視界に空が広がっていた。そして頬が尋常じゃなく痛い。
「ちょっと、大丈夫!?」
慌てた声色でモニカ王女が近づいてくる足音が聞こえる。そこで初めて自分が仰向けで倒れているんだと自覚した。
「ううぅ……痛い」
「待ってて、いま回復するから!!」
程なくして、白い光の祝福で傷が癒される。ホント、何があったんだ。
「すいません王女様、フェンサー故避けるのが精一杯でした」
「それはもういいわ、レベッカ。それより次の攻撃が来る前に早くオークの体力を」
「お任せを」
王女が言い切る前にレベッカが地を蹴りすごい勢いで前進する。
「グオオオオオオオ!!」
あ、またオークが能力を発動したぞ。あの速度で進みながら横に避けられるのか?
「邪魔だァアアアアアアアアアアアア!!」
あれ、いともたやすく棍棒を弾き返したぞ? あれ、おかしいな。さっきレベッカなんて言ってたっけ。
「こらっ!! グズグズしないで、レベッカが峰打ちしたオークを倒さないとレベルは上がらないでしょ!!」
「あ、あぁ。そっか!!」
言われて、僕も地を駆ける。いや、移動速度もレベル反映だからこれは駆けていると言えるかどうか分からないけど、精一杯走る。
「削りは任せたぞ、レベッカ!!」
「うっさいわ!! 消えろ、しねッ!!」
くそ、この連携の流れの最中ならと思った僕がバカだった。というかちょくちょく調子乗っちゃうな。自制心が足りない。
一生懸命走る眼前で奮闘するレベッカは終始回避に徹底している。僕の到着待ちか、だったら急がなければ――
――その時、レベッカのレイピアが一層強く煌めいた。
その煌めきがレイピアの先端に集中し、刹那、レベッカが勢いよくレイピアを地面に突き立てる。
「はあああああああああああああああああッ!!」
すると、なんということでしょう。圧縮した光が地面と触れた瞬間に四方に直進し大きな方形を描いたではありませんか。その範囲に収まるオークはまるで縛られたように動きを阻害されています。
そして、もうここまで来たらもう案の定。
「ふんッ!!」
レベッカが範囲から抜けると同時に方形が瞬き、白い光に包まれ直後凄まじい衝撃波が生じる。
「…………」
場が落ち着きを取り戻すと、そこにはオークの亡骸、さらに草原の隅の方で待機していた第二派のオークも消し飛んでいた。
「…………もぉー。……えぇー?」
もう言葉が出なかった。なんじゃこれ。
「え、えっと……今の大きな音、勇者から? 随分大層な一撃だったようだけど」
モニカの声が背後からだんだん近づいてくる。いや、違うよ王女様。全部持って行かれたよ。
「いや、今のは僕じゃ――」
「しね、勇者!!」
「――グハッ!?」
えええええぇぇえぇえええ。まだ足りなかったの? あんなに嫌がらせしたのにまだ足りなかったんですか。もうすっかり油断しきってたよ。だってクエストクリアしたじゃん……終わってたじゃん。まさかここへ来て背中をレイピアで一突きされるとか、それはないですよ……レベッカさん。
「もう風当たり……強すぎ」
「すいません、モニカ様。先ほどの激闘で軽い脳震盪が。オークに見えてしまいまして……」
「ゆうしゃああああああああああぁあぁぁぁあああ!?」
いや、思いっきり『しね、勇者!!』って言ってたじゃん……がはっ。
僕の意識は、ここで途絶えた。




