勇者のお仕事探し
最初に向かったのは教会。ご存知、祈っておけば蘇生することができるスピリチュアルなところだ。ちなみにこの世界ではある一定額を教会に寄付することでその蘇生の恩恵を受けることができる。まぁ、その額は莫大すぎてとても支払えたものじゃないんだけど。
「すいません」
「どうしました、悩める子羊よ」
あ、よかった。さすがに教会の人は言ってこない。もし教会の人にも言われたらホントどうしようか悩んでたよ。だって神官にしねなんて言われたらしぬしかないじゃないですか。
あれ、でもちょっと待てよ。もしかして教会の人たちって僕が勇者だってこと知らないだけなんじゃ……。だって神父とか神官とかシスターってそういう俗世のことには疎いイメージあるし、僕が勇者になったのだって急だったし、浸透しきってないことも十分ありうる。
「まさか……ね」
「どうしましたか。迷える子羊よ」
うん、大丈夫なはずだ。きっと大丈夫。さっきは『悩める』子羊だったのが今は『迷える』になってたからこの神父さんちょっと抜けてるんだろうな。今はこういう人のほうがありがたい。
「僕、勇者なんですけど、まず何をしたらいいんでしょうかね?」
「おしになさい」
……あれ?
「えっと、何をしたら」
「昇天するのです」
「…………」
やばい、何かこの神父呪文唱え始めた。あ、もしかして回復呪文? 世間の評価を回復してくれたりするのかなあれいや違うわヤバイ奴だわこれ。なんか禍々しい方陣出てきたし、なにこの紫と黒炎みたいな模様で形成された魔法、世界ごと吹き飛ばすつもり?
「し、失礼しました」
……危ないところだった。もう少しで死ぬところだった。それも王国民の命の権化、神父様に鉄槌を下されるところだった。
それにしても、ヴァンの怠惰情報ここまで浸透してたのか。ただ普通の勇者なら敬い、慕われるはずなのにヴァンという少年が勇者になるだけでここまでの忌み嫌われ様。なるべきは勇者じゃなくて魔王だったかな。
そんなことを考えながら、罵声のアーチをくぐって行く次なるところは、道具屋と、武器、防具屋。あそこは人通りが多いから十中八九言われるけど、まぁ避けては通れない道というか、勇者ならそこへ行かずして何処へ行くみたいなところあるし。
「ヘイ、いらっしゃい!! 良い薬草入ってるよ!!」
あ、割と普通。折角だから勇者ってことは黙っておこう。
「あ、じゃあえーと。お勧めなんですか?」
「そりゃあ、この良質な薬草だろうね。2束で200ゴールドだ」
お、安いな。普通ならこの値段だとただの薬草2束が限界。これはいい買い物ができそうだ。
「じゃあそれください」
「はいよ、毎度有りッ!! しねっ」
「…………」
もう国民の口癖なのかな、しね。でもこの店主、しねっていう割には笑顔だな。営業スマイルかな、屈託ない笑顔が逆に胸に刺さる。
取り敢えず、戦う予定はないがいい買い物ができた。次は武器屋だ。
「こんにちは」
「あら、よく来たね。何をお探し?」
気の強そうなお姉さんが笑顔で接客してくれた。あぁ、久々大人の女性の笑顔。癒されるなぁ。
「……あれ、あんた勇者じゃないのかい?」
「うぐッ?」
いや、気付くの早いよ。まだ気づかれることはないだろうってタカくくってたらこれだよ。おかげで変に息詰まらせちゃったじゃん。
「じゃあ、サービスだ。特注の片手剣作ってやるから待ってな、しねっ」
もうなにこれ。ギャグなのかな、新種のギャグなのかな。でも笑ったらお姉さんの脇にある大斧で殺されかねないからやめとこ。
ちょっとだけ待っていると、直ぐにその片手剣は出来た。1分間に何回しねって言われるか数えてたらできたから、ものの1分で出来たのか。さすがプロ。因みに53回言われました。
「おぉ、なんか剣なんて違い分かんないと思ってたけどこれはスゴイや。軽いし強固だし、鋭い。まさに完璧な剣だよ」
「ふふん、まぁ私にかかればこんなもんだよ。あんま褒めなさんな、ハハハしね」
うーん、ツンデレって捉えればアリかもしれない。だけど既にこんなこと考え始めてる僕自身がナシだわ。
その次は、勿論防具屋。防具屋はさっきのお姉さんのお父さんが経営していた。
「ふんッ、勇者の端くれか。お前さんはまだその辺のアイアンメイルでも着けておればいいんだ」
あれ、口調は強いけど揶揄する言葉がない。この頑固そうなお爺さんもツンデレタイプかな?」
「いやぁ、そこをなんとか。職人芸、見せてくださいよ!!」
「……ッ、好きにしろ」
うわ、なんだろ。今ものすごく感動してる。死ねって言われなかった!! 今まで会ってからしねって言われなかったの王宮の紳士と防具屋のお爺さんだけだよ。ご老人最高!!
「えっと、じゃあお言葉に甘えて……これなんてすごい強そうですね」
「バカもん、強いなんてどころかそれはうち最強の防具だよ。この辺の魔物なら傷一つつけられないさ」
「へ、へー!!」
ヤバイ、普通に会話できてる。なんで、どうして!? ヤバイ、聞きたい、聞きたくて仕方ない。えーい、聞いたれ!!
「あ、あのぉ。お爺さんは僕にしねって言わないんですか?」
「あぁ? お前さん何を言ってるんだ? なんでそんなこと言わねばならん。思いもしてないこと態々言う必要なかろう」
「師匠と呼ばせてもらいます、お爺さん」
「……呼んどらんじゃないか」
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うん、すごく気分が良い。今も現在進行形で耳に口をつける勢いで子供たちがしねと叫んでいるけど、そんなことどうでも良くなるくらい気分が良い。好意を寄せるまではいかなくても、敵意を持っていない人を見つけられた。こんな嬉しいことはない。なんならスキップしちゃう、勇者、スキップしちゃうぞ!!
「スキップやめろ、しねッ!!」
「はい」
調子に乗るもんじゃないね。反省反省。でもちょっとだけ希望が湧いてきたぞ。次はギルドだ。クエストを受注できる唯一不二の施設。ここには荒くれ者のハンターとか、狡猾なアサシンなんかがいるから、割と本気で注意しないと死ぬかもしれないな。用心しないと。
気持ち、足取りを弾ませながらギルドへの道を急ぐ。小さな光を見出したことで、周りの雑音が全て優雅なクラシックに聞こえるようなことは無いが、そんな気分で歩くくらいなら可能だ。
「よーし、ギルドにごー」
この時、大きく跳躍したんだけど、多分生まれて初めてじゃないかな。こんなに高く飛んだの。




