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もはや芸術の域

 お互い隠していた事を曝け出したため、より一層仲良くなったシェリルとアリスの二人は、互いに恋敵だというのに楽しそうにヴァンの話をしながら笑い合っていた。


 今現在ヴァンはモニカというまた別の少女と一緒にいるというのに、その点に関してはまるで気にしていないかのような振る舞いだった。


 そんな時、二人の背後にあるボックスが稼動し始めたのだ。自分たち以外に誰もいないのに聞こえ出した突然の音に二人は驚く。アリスはボックスに関しては完全な素人で、何が起こっているのかまるで分からないでいたが、シェリルは何度か触ったことがあるのでそれが通信、または言伝の受信を意味する起動だとなんとなく分かった。


「アリスさん、これ、たぶんヴァンさんからの連絡ですよ」


「え、勇者さんからですか?」


 目を丸くしながらボックスに駆け寄るアリス。シェリルは手馴れた操作でボックスの世界に飛び込んでいく。そもそもボックスは公共の場にあるものはフリーだが、この家にあるタイプは個人に向けたボックスであり、個人用のパスコードなどを入力しないと使用できない。しかしシェリルは普段家によくいて、アリスより機械に強いため、勇者のものとは別に個人のアカウントをもらっていた。シェリルは自分のパスコードでボックスへとログインしていく。


「魔法ってこんなことまでできるんですね!!」


「この王国のすばらしい技術です!!」


そんなこんなでボックスの世界への入場を果たすと、確かにシェリルの言う通り一件のメッセージが来ていた。ヴァンからのものだ。


「やっぱり、ヴァンさんから連絡です」


「うわさをすれば何とやらというやつですね」


 これまた手馴れた操作でそのメッセージを画面に表示させると、そこにはこんなことが書いてあった。


「シェリルへ。これは大事なメッセージだからアリスが見ているならシェリルに許可を得てから読むこと。今さっきモニカと一緒にいたものだから、昨日の話をモニカに聞いてみたところ、普通に好きだということだった!! 大事な所は、普通に、というところ。愛的な好きに発展するのかどうかはまだ微妙なところだな!!」


「「…………」」


 そのメッセージを読み終え、シェリルとアリスは恐る恐る顔を見合う。そして堰を切ったように――


「――プッハハハハハハハハハ!!」


「アハハハハハハハハハ!!」


 お互い大爆笑した。シェリルはお腹をかかえて転がるように、アリスはテーブルを叩くようにして大声を出している。勇者もまさかこのメッセージを読んだ二人がここまで爆笑するとは夢にも思っていないだろう。


「これは……完全にヴァンさん勘違いしてますね」


「そうですね。アリスさんの言った通りでした。どう勘違いしたのかわかりませんけど、これは多分間違って解釈してますね」


 ヒィヒィ言いながらようやく収まってきたところで、二人はボックスの前に椅子を持ってきてそのメッセージをよく読んでみることにする。


「シェリルちゃん、もし差し支えなければどのようにヴァンさんに気持ちを伝えたのか聞いていいですか?」


「どうって……それはもう普通に勇気を振り絞って好きだと、伝えましたけど」


「うーん、シェリルちゃんのミスとしてまず第一に挙げられるのがヴァンさんが好き、と名前を言わなかったこと。そして次に挙げられるのは……」


 アリスは探偵気取りで顎に指を当てて少しうなり、そして人差し指を立ててその指をシェリルに突きつけた。


「ズバリ、話題への入り方、じゃないですか!?」


「話題への入り方!?」


 シェリルは何を言われたのか分からないでいた。そんなシェリルの表情を見てアリスはニコニコ、いや、ニヤニヤと微笑みながら説明をはじめる。


「シェリルちゃん、いきなり好きって言ったわけじゃないでしょ? どういう話題からそういう方向の話に持っていったの?」


「え、えーと……確か……あの日は丁度、コボルト村に王国軍がやってきた日で、村長を救ってくれたヴァンさんに感謝しているみたいな感じで」


「もっと前だよ。多分ね、そのヴァンさんの行動を話す前にその話題を出すための《一手》があったと思うんです」


「その前……それは、ヴァンさんが駆け出したおかげでモニカさんも踏ん切りがついたんだ、みたいな……」


 すると、アリスは突然指をパチンと鳴らしてウインクを一つ。


「それです。ヴァンさんはおよそ考えつく最悪の解釈をすることが多いんです。多分ヴァンさんはそのモニカさんという名前が出たその瞬間から、それ以降の話は全てモニカさんに向けての話だと解釈していると思います」


「そ、そんなことがあり得るんですか!!」


「ありえてしまうのがヴァンさんなんです。いつも自分の名前が出る話は基本的に罵られるだけだからか、自分に対する話だとは考えないようにしているのかもしれません」


「そうなんですねー……」


 シェリルは、恐るべきアリスの推理にもはやあの夜、アリスは寝ていなくて、私たちの話を全て聞いたいたんじゃないかとさえ思った。それほどの洞察力だった。


「そう考えて、それ以降のシェリルさんの言葉とこのメッセージの文章を照合してみましょう。するとどうなりますか?」


「…………あ」


 シェリルは少し悩みながらボックスの画面と、自分の頭の中を行ったり来たりしてようやく理解してしまった。あの少年の天性の、いや、罵られることによって備わった自分に対する驚異的な鈍さを。


「私の好きは、モニカ王女が好きって意味に捉えられて、ヴァンさんはそんな私のためにモニカ王女に私をどう思っているかを聞いたということですかね」


「私も、概ねそんな感じだと思います」


 半ば諦めたようなアリスの笑みに、シェリルもまた苦笑してしまう。それにシェリルはこうしてアリスとともにヴァンの考察をしたことで、もう一つわかったことがある。


「多分、このボックスのメッセージもヴァンさん的には早く送りたくて仕方がなかったんじゃないですかね。ちょっと妄想が過ぎるかもしれませんが、早速シェリルの役に立てたぞー、みたいなテンションで送ってきているような気がします」


「その考察は上出来です」


 アリスからグッジョブをもらい、シェリルは小さく微笑んでピースで返事をした。そして、そんなテンションのヴァンを頭の中で思い描いて、また少し笑った。


「どうですか、あまりの鈍さに笑ってしまうでしょ?」


「……はい、もう笑うしかないですね」


 アリスの問いかけにシェリルは幸せそうに笑って答えた。いつの間にか陽は傾き始め、暖かな日差しが二人を包み込むように部屋を照らす。その温もりにシェリルは溶けてしまいそうな、そんな幸せな感覚に浸っていた。


「こんなに鈍くて意味不明で、国民の殆どに嫌われているのに、目の見えなかった小さな私を救ってくれて、生きる意味を与えてくれて、一生のお願いまで叶えてくれたんですよ」


「そうですね。こんなに鈍くて意味不明なのに、素性も知らない私を助けるために命を張って戦って、それで勝って、私のわがままを聞いてくれてるんですよね」


 二人はもう一度同じように見合った。そして今度は爆笑はせず、二人小さく笑った。


「あぁ、格好良すぎますよ。勇者さん」


「いつになったら、私の思いは届くのかな」


 奇しくも二人の恋敵は、またも同じ相手への思いを募らせるのであった。


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