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躍進

「ガルゥウウウウウウ!!」


「せいっ!!」


「キャゥゥウウン……」


 飛びかかってきたコボルトに、横一閃の軌跡を描いて応戦する。

 あぁ、どうしてここのコボルト達は死に際にこうも悲しげな鳴き声を放つんだ。だんだん僕が悪い気がしてくる。


 コボルトの祠に入ってから、かれこれ2時間位経過した。武器が強く、防具も文句がない性能なおかげで鍛錬は至って順調だった。


 うわ、また出てきた。ほんと際限なく出てくるなぁ、どうせまた倒そうとすると――


「キャウウウウゥゥゥン!!」


 ――おかしいなぁ、散々罵倒されたせいで心のレベルは高いと思ったんだけど、そうでもなかったみたいだ。


 体へのダメージはないのに、ゴリゴリと心が削れていく音を聞きながら奥へ奥へ歩みを進める。


 横から飛び出てくるコボルトを柄での強烈な打撃で制し、ダウンしたところに止めの刺突をお見舞いする。


 上段から飛びかかってくるのには、サイドのステップで翻弄し、一瞬の隙をついて顎を思い切り斬り上げる。


 前方より群れで襲いかかってくるのには、一旦後方へ引き刺突の構えを取り、一体を突きで後方へ追いやる。続いてそのまま突き出した剣を右に薙ぎ一体を牽制、そしてその流れを生かしたまま半身を百八十度回転させ後方に陣取るコボルトを縦に両断。薙ぎで脅したコボルトを連撃で押し殺して、後方から走り寄る最後の一匹をクロスカウンターで一蹴する。


 なんだか気の持ちようなのか、すごく良く体が動く。思った通りにキビキビ動いてくれる。


 でも――


「「「キャアアアアアアアアアアアアン」」」


 この悲鳴だけは耐えられない。僕は思ったより剣士、いや、そもそも戦闘向きじゃない性格なのかもしれない。士気は上がるのに腕がどんどん重くなる気がする。それでも攻撃をやめるわけにはいかないので剣を振るう。


 そうしていると、いつの間にか自分の中に新たな力というか、新たな戦術を思い浮かんだような、そんな感覚を感じた。


 と、そんな時都合よく群れからはぐれたらしいコボルトが単体でひょっこり飛び出してきた。


 狐にも似たような口周りに、茶色の体毛で全身を覆い、首周りには一際上質そうな灰色の毛並みを艶やかせている。


 どうやらこっちの出方を伺っているようなので、いっそ攻撃に興じてみる。


 少しばかり警戒しながら剣を引き、ある程度の間合いで突きを繰り出す。まぁ、案の定バックステップで避けらたので余韻そのままに右回転して加速の恩恵を受け、右手に持つ片手剣を投擲する。


 バックステップの反動で身動き取れないコボルトはまたも悲痛な断末魔と共にその場に倒れ伏した。


 まだ息の根はあるそのコボルトに対して、僕は思うままに力を誇示する。 


 光り輝く剣を振りかざし、その刀身でもってコボルトに斬りかかる。

 

 優しい緑色に包まれた刀身がコボルトの体を斬り崩す。と、同時に斬り付けた箇所を中心に同心円状の波紋がコボルトの体を伝播していく。


 すると、止まりかけていた息の根が回復し弱々しくもまた立ち上がった。見事に蘇生したのだ。


「おぉ、すごい。蘇生したぞ、なんだこの力!?」


 敵に情入れするというか、命の息吹が吹き返したその事実に立ち会わせることが出来たことに感動する。


 やっぱり生きてるって素晴らしい。だからもうしねって言わないでください。


 余計な考えを一度捨て去り、生き返ったコボルトに柄を使った打撃で戦闘力を削ぐ。こうすることで敵を死なせずに状況を終了することができる。普通にやるならばまぁまぁな高等技術を要するので、手間が省けて都合が良い。


「意外と有用だなぁ!! 帰ったら防具屋のお爺さんに自慢しよっと!!」


 勇者としての職務を真っ当できているかは別として、戦いを通して成長し、自力でダンジョンを進行できていることに達成感と喜びを感じる。思ったより勇者も悪くない、と本気で思ってしまいそうなほどに。


「……これがパーティだったらもっと楽しいのかな」


 ……あぁ、独り言が虚しい。何かこの静けさすらちょっぴり切ない。いつも周りがうるさかった反動かな。


 しねしね言われないと何か物足りない感じになるのだけは避けたい。そんな人間、倫理的にアウトだ。


 このまま静かだといらないことで考え耽ってしまいそうだ。そうして冷静になって考え事を始めると決まってロクなことにならない。俯瞰的になることで冷静になりすぎて戦意が殺がれるのは御免だ。


「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 ありったけの声で祠の中に爆音を轟かせる。反響に反響を重ねた音の波はすごい勢いでダンジョンを駆け抜け僕という存在をその場に知らしめる。もやもやした心を誤魔化しているとも言う。


 すると、すごい数の群れでコボルトが駆けつけてくる。

 いつもだったら尻尾を巻いて逃げるところなのだが、今ではもう違う。


「ふっふっふー。かかってこーい!!」


 モンスター相手に、ここまで笑顔で組みすることができたのは、生まれて初めてだった。


 ■


 初めての鍛練は相当の成果だったと自負している。

 勇者としての自身もそこそこ、得られたお金も今までを考えると破格の値段だ。素材も幾つか手に入ったがその辺の知識は浅いためどんなものなのか良くわからない。が――


「…………ッチ。クエストご苦労様でした。近くのレストランで勝利の晩餐を上げてみては如何ですか? 疲れも癒えますでしょう『しね』」


 ――このレベッカの不機嫌様から察するにかなりの功績を上げられたのだろう。ストレートにしねを言えないくらいだもんね。ギルドに務める心意気は誰よりも誠実なレベッカだからこそ、しっかりとクエストをこなした物を雑に扱えない。


 彼女の『癖』のようなものが、こんなところで発揮されるとは。

 でも、クエスト失敗して帰ってきた時を考えるのが恐ろしすぎる。どんな目で見られるんだろう。『視殺』って死因が新たに誕生するかもしれない。でもレベッカぐらいの美少女にならそんな殺され方でも納得……いかんわッ!?


 危ない危ない、危うく我を見失うところだった。それもこれもレベッカが可愛いのが悪い。悪女めっ!!


 ともあれ、今日はどこにも寄り道せず帰宅する。別に客人がいるとか、貯金したいとかいうわけじゃなく、単にやりたいことがあるのだ。


 この前モニカに言われた『魔通掲示板』というやつだ。正式名称『魔力導通型共通掲示板』。


 王国内の地下に魔力を通わせた通路(サーキット)を設置して、専用の据え置きアイテムを自宅なりギルドなりで使用すると、魔力で繋がった掲示板へとアクセスできるというもので、現在王国が着手している最新装置だ。


 この装置は、他人の書き込みについて、据え置きアイテムさえあれば何処ででも何時でも閲覧することができて、その書き込みにコメントを残すこともできるという画期的なコミュニケーションツールだ。モニカの根回しで僕の自宅にも据え置きアイテム『ボックス』が配備されている。


 これを通して、勇者の活動を国民に知ってもらって評価を改善しようというのが、モニカ王女の企みらしい。そう簡単に行くものなのかとても心配だ。


 もちろん、そのためだけに制作したわけではないらしいのだが、運良く利用できそうだとのことだ。運良く、運良く? まぁ運良く。


 まぁ、どうせ僕が書き込んでも結果は火を見るより明らかなんだけど――。


 ■


 帰宅するやいなや、ボックスを起動して掲示板にアクセスする。まだ試験段階なこともあって、置かれているのはギルドか教会か街の中心部か、王宮か、エトセトラ……といったところだが、どうせあるんだから使ってみる。ちょっとワクワクするとか全然思っていない。ホントに。


「とりあえず、自分名義の掲示板を作成してっと。何て書き込もうかな……こういうの初めてだからな、ちょっと緊張するぞ」


 おっかなびっくりにボックスのボタンを押していく。なんかボタンを押すだけで楽しいとか絶対思ってない。マジで。


 そうして完成した文章は、数多の書籍を読み漁ってきた者とは到底思えないものだった。


 『今日はダンジョンに行きました。結構強くなれたと思う。明日も頑張る。』


 「…………」


 もう一度士官学校を最初からやり直したほうがいい気がしたけど、そんな考えは冷静に物事を考える前に直ぐ捨て去る。


 効果の方は、明日の朝にでも確認してみよう。ショック死しないといいな。九分九厘コメントは『しね』で溢れかえるか、完全無視のどっちかだと思うけど。



 手早く夕食を済ませた僕は、滑り込むようにしてベットに身を埋めた。すこし疲れて、倦怠感に苛まれる体が今はなんだか心地よかった。


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