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9-そして淑女は暴走した

残酷描写あり。


「へっ、なんだ思ったより全然弱そうだぜ!ファーストキルは頂きだぜ!」


盛大なフラグを立てた暗殺命が飛び込んだ先は体より一回りでかいアンバランスな足から鋭い爪を生やしたげっ歯類(キックラビット)の群れ。

経験値が高く、集団で集まるので範囲攻撃(AOE)スキル持ちの魔法職から良くかカモられる低級モンスターだ。


もっとも、マンツーマン撲擊しかできないアサシンではその高い回避率と逃走率に対応でんだろうけどね。


「おらぁっ!ちょこまかと動いて攻撃が当たらないぜ!……って逃げんな!!」


案の定両手の武器に振り回されながら変態的なカミソリダンスを披露する暗殺命の周りからウサギたちが逃げていく。

傍から見れば変質者のお兄さんだ。


「うわー変態だー恥ずかし――。トゥリエは近づいちゃダメだぞー」


「私!?……まぁ、あんなの近づいてきたら本気で逃げますけど」


「お前ら遊んでる暇あったら殴れ!せっかく見つけたのに逃げられちまうぞ!」


心にゆとりのない事を全力で叫び、インベントリー(物理)を投げ捨てた俺騎士は棍棒を振り上げて加勢する。


つーか俺騎士どいて、そいつら殺せない。


両方から変態に挟み撃ちにされ、逃げ場を失ったウサギは『グモッグモッ!!』とくぐもった鳴き声をあげると、あろう事か振り下ろされた棍棒を伝って俺騎士の腕を駆け上がり、そのまま顔面にスピンキックを披露。そして勢いそのままにバック宙し、反対側の暗殺命に踵落としを食らわせた。


「ぶほっ……!!」「ひでぶっ!!」


コンマにして数秒、レベル10台のモンスターであるはずのキックラビットに準廃人プレイヤーたちが敗北した瞬間である。


「……大丈夫か?」


「……大丈夫じゃないぜ……」


「よし大丈夫だな」


二人ともトラックとキスしてきたような壮絶な顔――元からだが――をしてるが、出血どころかかすり傷もない。腐っても60台だし、男なんだから万が一顔面障害者になっても困らんだろう。


そんな事を考えていると逃げたウサギの内一匹がこちらに向かってきた。

丁度いい。こいつを捕えて精神支配(ちょうきょう)したら残りの仲間を誘き出させてやろう。


「洗脳してあげるわ、おいでげっ歯類……!」


私は体の姿勢を低くし、『グモグモ』止まらない大足ウサギの動きに合わせて組みかかる。


『グモッ!!』


「キャッチ!」


――なんてうまい事はない。

伸ばした手はウサギの体を撫でるだけで、するりと逃げられてしまう。


まーこうなるわな。ぴょんぴょん跳ね回るウサギを捕まえるクディ○チみたいなスポーツなんざ魔女でもないのにできるわけがない。

つーか毛がネバネバして気持ち悪い。


「ええい、水浴びぐらいしろげっ歯類!『氷晶の凛風(アイスフレーク)』!!」


虚空を塗りつぶすように発生した白い霧から無数の氷礫が飛び出し、目を血走らせて逃げるウサギたちに襲いかかる。


点ではなく面で圧し掛かる白い弾幕はガトリング砲のように標的を貫き、飛び散った赤いモツをさらに別の氷礫がすり潰す。やがて小範囲で臓器のハヴォック現象を起こしていた霧が消えると、辺りには赤いシミだけが残った。


……これ誤爆したらシャレにならんぞ



「な、なんだ、その、今日のお前一段と美人だな!」


「ハハッ、何言ってんだ、こいつはいつも美人だぜ!」


「そ、そうですよ!み、ミスアメリカン!」


想像の斜め上を行った惨状を見て、俺騎士たちはあからさまに顔を青くして口々に機嫌をとってくる。


――反省はしてるよ。本当。


「ふむ、しかしこれでは回収(ルート)のしようがない。あと少しで捕まえるところだったというのに、貴様は一人で勝手に何をしてくれたのだ」


「こんにちわーおっさーん!!」


「気にしないでください!キックラビットならまた私が上空から探しますから、気にしないでください不可抗力だったんです!」


近戦職二人が慌てておっさんを押さえ込む中、壮絶な面持ちでしきりに謝ってくるトゥリエ。

新手の嫌がらせか。


まー『放浪の世捨て人な大魔道士』のキャラで高圧的に接してきたからねー

さっきの魔法がこいつらの心んなかに巣食う恐怖心にトドメさしちゃったわけだ。

何だかんだで悪い奴らじゃないし、もっと普通に接してやろう。


「ええ、気にしてませんよ。本当に気にしてませんから、ね?次の犠牲者(ひょうてき)探しにいきましょう?」


「…………!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……!!」


ジャンボジェット機並みのスピードで飛んで逃げられた。


おい、私の敬語に何か文句あるなら聞こうじゃないか。





「しかし見つかりませんね……そんなに希少な生き物じゃないと思うんだけど……」


飛びすぎて疲れたのか、単にクールタイムに入っただけか、これ以上ないほどやつれた顔のトゥリエに代わって『妖精の羽(フェアリーウィング)』で上空から偵察しようとした所、空中でのバランスが取れず危うく落下しかけた。やっぱり他種族の固有スキルをチートで無理やり覚えたのは失敗かな。


せっかく使えるのだから今度時間を見つけて飛び方を練習するとして、

「さっきからずっと一人で喋ってるわけですが会話のキャッチボールというものはないんですか?私の胸に何かついてますか?露出の低い服だと思ったのですがそれにすら発情するお盛りさんですか?三月のウサギ病が伝染したんですか?」


「「「…………」」」


……一斉に視線をそらされた。


なんぞこやつら。


「なんか言え俺様竜騎士」


「えと、その、いつも通りの口調に戻って頂けませんかね、急に喋り方変えられたりするとまるで別人なんで……なんか心拍数が急上昇して体温が極端に低下するんですよーあははは」


「そうなると思ってやりました。戻して欲しいですか?」


「は、ハイであります!」


ああ、そう。


――『たゆまざる力アンブレイクボルレギオン


「だったらまずお前達から戻せ、『氷晶の凛風(アイスフレーク)』!」


先程げっ歯類に使用したスキルを、今度は恐怖の篭った目で私を見る仲間(・・)達に向けて解き放つ。


「やめ――」


その言葉は最後まで発し得ない。

強化バフ『たゆまざる力アンブレイクボルレギオン』の効果で威力が610%も強化された氷礫の吹雪が、周囲の風景を白く塗りつぶしながら声もろとも主を飲み込んだからだ。


吹きすさぶ破滅の暴風の中、仲間のモノであろう黒い影が徐々にかき消されていく。


「……最低」





数分間に渡って吹き続け、辺り一帯を白い砂浜に変えて、破滅の霧はようやく消えた。


「生きてる?生きてる。生きてる!俺は生きてるぞ……!!」


景色の一部がブルリと揺れ、暑く積もった雪が崩れ落ちると、可哀相な手作り肩パットを付けた顔面凶器な獣人が新しく生まれたかのように歓喜の声を上げる。


「本当だ……あたし生きてる、死んでない……!!」


「マジかよ!マジだよ!!マジで俺死んでないぜ!!!ハハッ、なんだよこれ!」


「死ぬかと思った……」


まったく。


たゆまざる力アンブレイクボルレギオン』。

範囲40メートル内にいる全ての友好ターゲットの物理・魔法威力・HPを610%高め、受けるあらゆるダメージが99%低下する。さらに毎秒最大HPの20%を回復する。


トラップモンスターと呼ばれる、特定の行動を取ると出現する破壊不可能の特殊モンスターが一人、『無限世界の孤独な王キング・オブ・ソリチュード』が使うスキルで、周りの雑魚モンスターを鬼強化してプレイヤーを問答無用で全滅(hage)させる処刑スキルだ。


何が起きたのかわからない、狐につままれたような顔をしていた4人はようやく事態が飲み込めたのか、ハッと我に返る。


「って、いきなり何しやがるんだ!本気で寿命ちびったぞ!」


「自業自得だ。シカトという至上のセクハラ行為を私に行ったんだぞ?繊細な私の心をどうしてくれる。淑女な私の心をどうしてくれる」


「うっせぇ!何が繊細だ、SいSいと思ってたがお前にはそれすら生ぬるい。淑女ォ?淑女じゃねーよ!たとえ淑女でもそれはキチガイという名の淑女だ!」


いつも通り崩壊した顔面を更に青筋で埋め尽くし、ニホンザルのように歯を剥き出しにして突っかかってくる俺騎士。


その横に目を流せば呆れたような、怒ったような顔をした他の三人。先ほどまでのキ○グモスラを前にしたハ○ピーセンター従業員のような怯え切った表情はどこにもない。


「――これがいい」


「ああ?なんだって?」


あ゛?何がって?


「ドッキリ大成功だっつってんだよ、このすかぽんたんめ!」


お気に入り登録30間近……!感謝の極みです……!!

学校の都合と、扉絵書いてたせいで更新が遅れました

ネタ的な要素を含む扉絵って本篇に載せてもいいんでしょうか?規制対象になりますか?一応活動報告でアップしてますので詳しい方教えてくださいな。


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