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作家  作者: 本。
5/5

作家

最終話です。やっぱり授業中クオリティです。

 初めて僕の小説を読んだ時、怜亜先輩は確かに泣いていた。


「空君。君の書く小説は、君の創る物語は、まるで光の様よ。この世界を、きっと、君はたくさんの人に届けなくちゃいけないわ」


 涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら、それでも幸せそうに笑って怜亜先輩は言った。


 今だってそうだ。ずっと作家になりたかったのは、僕じゃ無くて怜亜先輩の方なのに。それなのに、怜亜先輩は本当に嬉しそうに笑う。


「どう、して、…ですか」


 気付くと口から言葉が発せられていた。どうして?何で?何で、貴女は―――――…。


「意地悪な事っ、いっぱい言ったのにっ…」


「優しいところも、ちゃんと知っているわ」


「先輩の事っ、敬って無いのにっ…」


「空君は口で言うより、行動で示してくれているじゃない」


「…っ、作家にっ、なりたかったのはっ、怜亜先輩の方なのにっ…」


「…そうね。でも、空君もなりたかったでしょう?だって、小説を書いている時の空君は、本当に幸せそうだもの」


 怜亜先輩の優しい声が、粉雪の様に僕の心に降り積もる。


 僕が作家になりたかった?小説を書いている時の僕は、幸せそうだった?そんなの僕は知らない。けど、物語を書き終えた時の、あの何とも言えぬ安らかな、澄んだ気持ちが、それが真実である事を、蝶々の様にヒラリヒラリと舞い降りて来て告げる。


「…それに、いずれ私も作家になって、次々にヒット作を出すんだから。だから、ねえ、空君。君に何があったのかは知らないけれども、自分に嘘を、吐かないで?気付かないフリして、見捨てて行かないで?空君の事が分かるのは、空君だけなんだから」


 怜亜先輩の力強い声が、僕を震えさせる。ああ、そうか。この人は僕の事を良く知ってるんだな。だから僕は、怜亜先輩の前では本音を出せるんだ。


「分かって、ますよ…」


 微笑んで、言った―――――。





 僕は中学の頃、酷いイジメに遭っていた。学校中の男子から。あれは、結局のところ、ただの妬みだったと思う。


 僕は一時期、モデルの仕事をしていた。自分で言うのも何だけど、勉強は昔から出来た。問題を見ると、答えが頭に浮かぶのだ。今まで、必死になって勉強をした事は、一度も、無い。順位はいつも一という数字だった。


 運動神経も、多分良い方。いくつかの賞を受賞した。バレンタインに貰ったチョコレートの数も、ファンの女の子の分も合わせると凄い事になった。


 だから男子の方は、僕が気に入らなかったんだと思う。イジメに遭ったのはごく僅かな期間だった。けれど、内容が酷かった。今でも、ふとした事で思い出すと、吐き気がする。


 だから僕は顔を隠した。人と接する事を極力避けていた。だけど、怜亜先輩に出会ってしまった。僕の外じゃ無くて、内を見て、それでも好きだと言ってくれる怜亜先輩に。






 翌日、僕は眼鏡を掛けずに学校に登校した。


「ねえ、モデルのソラがウチの学校に来てるんだって!」


「え!?嘘、何で?」


「分かんないけど、ウチの制服着てたって友達が言ってた!」


「それって転校して来たって事!?」


 廊下で、教室で、階段で、色とりどりの声が飛び交う。僕は教室の扉に手を掛け、一気に引き開けた。


「おはよう」


 キャー、と、女子が黄色い声を出し、男子が口をぱっかり開けて棒立ちする。


「ななななな、何で、ソラが…?」


 男子の一人が僕を指差し、言う。


「何でって、言われてもな…」


 僕は困って頭を掻く。どうしよう?正直に言っても信じてくれなさそうだ。僕が考えあぐねていると、教室の扉からひょっこり、と怜亜先輩が顔を出した。


「いたいた、空君。緊急の連絡があるのよ」


 ひょこひょこと僕の前まで歩いて来る。


「すみません。何ですか?」


「ええと、そう。お母さんから連絡が来たのよ、空君のお母さんから。それでね、やっぱり受賞の電話が、空君が居なかった時にきていて、すっかり言い忘れていたんですって」


「何で家の母親と怜亜先輩の仲、そんなに良いんですか!?」


「あら、取り次いで貰う時に、少しずつお話をして、少しずつ仲良くなったのよ」


「何ですか、それ!」


 怜亜先輩と話していると、固まっていたクラスメイトの一人が僕を指差した。


「ま、まさかっ、茜沢、空…?」


「ああ、うん、そうだよ」


 微笑んで即答すると、教室中に叫び声が響いた。


「伊達眼鏡掛けてたんだ。前に行ってた中学校でイジメに遭って、顔を隠してた。けどやっぱり、自分を隠すのはおかしい、って思って。だから、また、よろしくお願いします」


 クラスメイト達に向かって、僕は頭を下げた。自分の気持ちに嘘を吐かずに、正直に。





「では、街の人にインタビューをしてみましょう。すみませーん」


 置かれたテレビから、元気なアナウンサーの声が零れる。


「え?好きな作家ですか?…うーん」


 声を掛けられた女性は、考え込むような仕草をしてから、直ぐに顔を上げた。


「茜沢空と、天翔怜亜ですね。言葉の使い方が綺麗で―――――」





『空君、私も作家になったのよ』


『そうですか、おめでとうございます』


『もうっ冷たいのね』


『そうじゃありませんよ』


『じゃあ何だって言うの?』


『だって』
















 ―――――――――――――――信じてましたから。

これにて完結です。

ここにきて何を書いたら良いのか分からない罠。なんてこったい。


二人は作家としての道を歩み始めます。それは平坦な道では無いのでしょう。しかし、それは彼らが自分で選んだ嘘偽りの無い道なのです。だからきっと、最高の笑顔で物語を創り続けていけると思います。


最後に、少しでも面白いと思って下さった方が居れば、幸いです。

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