文芸部
何だか設定とかが適当な気がしますが、なにしろ授業中に書いた作品なので…。その辺は見逃して頂いて、ちょっとでも楽しんで頂けたら幸いです。
「茜沢」
名前を呼ばれた僕は、はい、と返事をして席を立った。黒板の前に立つ。
「この問題は少し難しいが…」
チョークでコツコツ、と音を立てて文字を刻んでいる間に、先生が皆に向かって言う。
「できました」
「おお、そうか」
僕が声を掛けると、先生は笑顔で振り返った。そして、ふむ、と僕の解いた問題の解答を眺めた。するとたちまち顔を綻ばせて、
「正解だ」
と言った。おおー、と歓声が上がる。
「流石だな、茜沢」
先生は満足そうに頷くと、問題の解き方説明し始めた。…あんまり、目立ちたくないんだけどな。
「―――――は―――を―――――――して―――――――」
先生の声が遠い。僕は真面目に授業を受けるフリをして、頭の中でボーっと物語を考えていた。
授業が終わると、たちまちクラスの皆に囲まれた。
「スッゲェな、茜沢。何であんな問題解けんだよ」
一人の男子生徒が口を開く。
「あー、家で毎日、勉強してるから」
「へー。でもやっぱ、元からっていうのもあんじゃね?俺の友達で、毎日五時間勉強してるヤツいんだけど、そいつもあれは難しくてなかなか解けないって。それを、あんなにスラスラ解いてたし」
「そう、なの、かな…」
大分嘘を吐いた。本当は毎日勉強なんてしてない。五時間も勉強してる人がいるなんて、正直言って、驚いた。
遠野高等学校は、全国的に見てかなりレベルの高い学校だ。日本で一、二位を争う程の有名な進学校なのだ。実は僕はそんな学校に、首席で合格していたりする。
「やっぱり、たまたまじゃないかな?」
頬を掻きながら、僕は言った。
「でもやっぱり、空君て凄いよね。運動神経抜群だし、頭も凄く良いし、茜沢 空って名前も凄く綺麗だしっ」
…名前は関係無いんじゃないかな。
「これで、顔が良かったら完璧なんだけどねー」
誰かがボソッと呟いたのが聞こえた。
「コラーお前ら席つけー。授業始めるぞー」
いつの間にか鐘が鳴っていたらしい。皆そそくさと自分の席に戻って行った。
放課後、部活動の時間になった。僕が所属している文芸部には部室が無いので、図書室へと向かう。
「茜沢君てさ、惜しいよね。運動神経も頭も性格も良いのに、あの眼鏡は―――――」
教室を出る時にちらりとそんな言葉が耳に入った。
別に僕は目が悪いワケじゃ無い。けど、眼鏡を掛けている。伊達眼鏡だ。周りから見たら、漫画みたいな瓶底眼鏡で、僕は相当目が悪いと思われているだろう。けど、僕の方から見たら、ただのガラスを通して物を見ているのと同じ状態だ。おしゃれとは程遠いこんな伊達眼鏡を、何故僕は掛けているのか。それは、どうにかして顔を隠す為だった。
図書室の扉を開く。
「待ち飽きたわよ、空君」
怜亜先輩の声が耳に触れた。
怜亜先輩の家はケーキ屋だ。お母さんがとんでもないケーキ好きで、怜亜先輩の名前も、特に好きだというレアチーズケーキから取ったのだという。そのせいか、怜亜先輩からはいつも甘い香りがする。
「別に、待っててくれなんて頼んだ覚えはありません」
言いながら、僕は伊達眼鏡を外す。怜亜先輩の前でだけ、僕は常に眼鏡を外して過ごす。眼鏡と一緒に、僕は《性格の良い優しい空君》も外して、怜亜先輩に対してはほとんど毒舌になってしまう。
「酷いわ、空君。私が空君のことを待っているのは知っているくせに」
怜亜先輩は頬を僅かに赤くして言った。怒っているのだろう。
「知りません。待っている、なんて聞いた覚えがありません」
僕は素っ気なく言った。
怜亜先輩が不思議な人なら空君も十分不思議な子。
文学少女の先輩って、優し過ぎるせいで後輩にからかわれたりして、「もっと先輩を敬いなさい!」っていつも言っているイメージがあります。
…私だけでしょうか?