終章
光が差した。
闇に包まれていた中に白の線が一本差し、次々と森を明るく照らしていく。
自然豊かな森の中、湖のそばに人の名残があった。
魔物避けの結界が太陽の光を浴びて淡く輝く中、見えてきたのは惨劇の跡。
首があらぬ方向に曲がった勇者と、生首だけを悲しく晒す武闘家。一糸纏わぬ姿で横たわる青白い治癒術師。
勇者の剣を胸に突き立てたまま横たわる魔術師。
誰一人として、生きていはいない。
勇者パーティはここに全滅し、すでに腐敗が始まっていた。
全ての原因だった戦士もまた、魔術師の魔術によって黒焦げになり、地面に伏していた。
しかし完全に日が昇り切ったころ、彼はむっくりと起き上がる。
寝起きのように全身を震わせると体から焦げの跡が剥がれていき、数秒もしないうちに綺麗な体に脱皮した。
人間とは思えない異常性を見せながら、戦士、ベルト・フィッシュは清々しい顔で周囲をゆっくりと眺める。
当然そこにあるのは、昨夜と何も変わらない景色だ。
戦士は魔術師のもとに歩み寄ると胸に突き刺さった剣を無造作に抜く。
そして荷物をまとめ、素肌に外套を着込んでどこかへ歩きだしたのだった。
数か月後。
王国では英雄の帰還に国中が沸いていた。
勇者たちは魔王に挑むも敵わず、偶然にも生き残った戦士を残して壊滅。恥を忍び、残された勇者たちの家族のためにと涙ながらに魔王と勇者の壮絶な戦いを語る戦士に、全ての国民が同情した。
大勢の者達の前で、戦士は自らの無念と決意を語る。
「私だけが、生き残ってしまった!」
涙を浮かべ口角から泡を飛ばし、悲惨な結末を伝える彼の姿は、勇者の旅についていけなかった数多の人に悲壮感と魔王に対する敵意を植えつけていった。
「治癒術師、エイシャ・マルズが始めに倒れた。彼女は最期まで、健気に我々の身を案じていた……
「武闘家、ラトリー・クーは運命に抗い続けた。彼女の瞳には死してなお、消えぬ光が宿っていた……
「勇者、アルビーク・ロスト・フランツ、彼はまさに勇者の名にふさわしい活躍だった! 彼が魔王に浴びせた最期の剣は、彼の勇ましさを見せつけていた……
「そして魔術師、ナハト・フェッツェロイ・レイニーガード……あと一歩、もう少しのところまで魔王を追い詰めていた……しかし、しかし!」
「私ッ! だけがッ……こんな無念があるだろうか! こうして国に帰ったのは、せめてあの真の英雄たちの最期を伝えたかったからだ! 私は何度だって、たとえ一人であろうとも、再び魔王に挑んで見せる! まだ、私の戦いは終わっていないのだ!」
拳を握りしめ、勇者の剣を片手に覚悟を見せつける戦士。
そんな英雄の元に、一人の少女が近づいた。
「戦士様! どうか、どうかわたくしを連れて行ってください!」
可憐な顔つきをした、まだうら若い乙女だ。純白の鎧に身を包んだその見た目は、聖なる騎士のようにも見えた。彼女の後ろには、仲間らしい三人の若者が控えている。彼等もまた精悍な顔つきで戦いへの覚悟を見せつけていた。
「……キミ、は……?」
呆けた様子で、戦士は少女にそっと剣の柄を差し出した。
彼が持つことで淡く輝いていたそれを少女が握ると、それよりも遥かに強い輝きが剣を覆った。
仲間の三人がそれを見て驚きに顔を染め、次の瞬間、歓喜に満ちた声を上げる。
民衆の目が輝く剣を握る少女に集まる中、戦士は泣き顔から一転、笑みを浮かべる。
彼は人々に希望を示すために声をあげた。
「おお、皆この光景を信じられるか! この剣の輝きを! 勇気ある若者、彼女は勇者の剣に選ばれたのだ! お嬢さん……いや、勇者様。連れて行ってもらうのは、僕のほうさ」
そう言うと戦士は仰々しく少女の前にひざまずいた。
「どうか新たな勇者よ! この哀れな戦士に、再び魔王と合間見える機会を与えてくれないだろうか!」
恥ずかし気に動揺する少女をよそに、新たな勇者の誕生を知った群衆が沸く。
新たな旅立ちが、冒険が、もはや彼らの意思に関係なく始まろうとしていた。
こうして戦士、ベルト・フィッシュは新たな「勇者パーティの一員」として、魔王討伐に向かうのだった。
彼にとって理想的な、自身を役立たずとは思わない仲間たちと共に。
『追放スプラッタ』をお読みいただきありがとうございます。原案担当の紀田と申します。
物語は予定通り、これにて完結となります。
もともと思いつきで始めたものですので、もしかしたら思いつきで続きを書くやもしれません。
また、現在も連載中となります拙作『異世界・オブ・ザ・デッド』もお読みいただけますと幸いに存じます。
それでは末筆ではございますが、この物語をご覧いただけましたことに感謝を述べると共に、過分にもブックマーク、ご感想いただけましたことをこれからの励みにし、執筆担当共々、精進して行きたいと思います。
ありがとうございました。