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壁の向こうのB  作者: カカオ
第4章
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34/53

気付いているのは小鈴だけ

 口を塞がれ縫われても わたしは別に気にしない

 なんなら眼球も持って行きますか?

 わたしのルーツの証明

 欲しいのはただそれだけ


 与えられた世界をも わたしは認識できない

 なんなら宇宙に捨ててください

 わたしの体の輪郭

 認識したいのはただそれだけ



 相も変わらず暗い歌詞なのだが、突っ走るようなメロディと小鈴の澄んだ声がエネルギーを与えて、曲にメリハリが生まれている。

 観客の興奮は最高潮に達し、絶叫ともとれる歓声を今井ユニットバンドのメンバーたちに送られる。

 大は暴れ馬のごとくギターをかき鳴らし、琢磨は汗をはじけさせながらスティックをぶん回している。

 だが李利のベースは調子を乱しているのか、どこか大人しい。まるで失敗を恐れるかのように控え目だ。彼女はリズム隊ということもあり一歩引いたポジションではあるのだが、時折うなるような低音を放つときがあり、それが聴きたくてやってくるファンもいるほどだ。しかし今の李利はそんなテクニカルな技を披露する気は全くないらしく、どこか作業的な趣さえ窺える。

 小鈴はそのことに全く気付いていない。だが彼女はひかりの不調には気付いていた。

 今日のひかりは誰が見ても明らかにおかしい。飛び跳ねないし踊らない。

 そしてなにより笑わない。

 そもそもタンバリンの音が弱すぎて、ほかの音に完全に埋もれてしまっている。

 一部のファンはこれらの変調に気付いているが、大多数のファンはわからないでいる。大多数とは、ここ最近今井ユニットバンドのライブに来るようになった者たちだからだ。

 だが古くからのファンも気付いてはいまい。ひかりの変調の原因を。

 それに気付いているのは、小鈴だけである。

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